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新しい県

illustrated by スミタ2022 @good_god_gold

「それでは官房長官の定例会見を行います。質問のある方はのちほど挙手にてお願いいたします」
「えー、今日は一点だけでございます。この度、新しい県が見つかったとの報告が建設土木大臣よりございましたので、その旨を政府から国民の皆さんにお伝えいたします」
「県? 県が見つかった?」
「はい。これはさまざまな条件に鑑みて間違いなく県だという」
「本当に県なんですね?」
「どういうことでしょうか?」
「あのう、挙手を。ご質問のある方は挙手をお願いします」
「場所はどこですか?」
「どこに見つかったんですか?」
「なんで県だとわかったんですか?」
「えー、関東の北の、そのう、わりとどうでもいい県が集まっているあたりですね。その県と県との間に見つかったとの報告を受けております」
「具体的には、どの県とどの県の間でしょうか」
「どうでもいいとは何ですか。失礼じゃありませんか」
「関東圏なんですね」
「県境に県があったということでしょうか?」
「えーっと、どこだったっけな。あの辺には群馬とか栃木とか千葉とかいろいろありますからねぇ」
「ちょっと待ってください、埼玉は?」
「ああそういえば、埼玉もありましたね」
「今、埼玉を忘れていましたね」
「茨城はどうしたんですか」
「長官! 茨城を忘れないでください!」
「あっ、茨城。ええ、もちろん忘れておりませんよ、ええ。茨城ですよね。茨城ですとも」
「埼玉を忘れていましたねッ!」
「みなさん、挙手をお願いします。ご質問は挙手で」
「どういう県なんでしょうか?」
「新しい県の特徴は?」
「茨城県民に謝罪してください」
「えー、ですから、まだ詳しいことは判明しておりませんので、今後、専門家による有識者会議を設置しまして、ご検討をお願いする予定です」
「県の名前は? せめて名前だけでも」
「具体的な位置を地図で示していただけませんか」
「人口は?」
「まだ県庁所在地も知事が誰なのかも判明していない状況ですので、政府としてはコメントできる立場にありません」
「長官、明らかに先ほどは埼玉県を忘れていましたよね?」
「待ってください。県庁所在地も知事もわからないのに、どうしてそれが県だと言えるのですか」
「そこはあのう、建設土木省がですね」
「建土大臣がお決めになったのですか?」
「いや、そういうことではありません」
「県と言える根拠をお示しください」
「根拠は、そのう、ですから先ほども申し上げた通り、さまざまな条件に鑑みて、これはもう間違いなく県だと、こういうことでございます」
「さまざまな条件とは具体的にはどういう条件なのでしょうか?」
「えー、さまざまな条件はさまざまでございまして、つまり条件がいろいろあるということです」
「具体的な条件をお願いします」
「ですから、さまざまです」
「長官、それではわかりません。国民が納得できる説明をお願いします」
「ですから、大きさとか重さとか色とか持ちやすさとか、そういうさまざまです」
「重さ?」
「色?」
「バカリズム?」
「あ、いや、今のは喩えです。あくまでも喩えですから。さまざまな条件に鑑みて県だということでございます」
「重さとは?」
「これを県だと具体的に決めたのはどなたですか? 総理ですか?」
「すみませんが、ご質問のある方は挙手をお願いします」
「その新しい県は、持ちやすいんですか?」
「はい、あ、いいえ」
「県民性は? 鶏肉好きですか?」
「総理が決めたんですね?」
「持ちやすいんですね?」
「それってバカリズムのネタですよね?」
「いえ、違います。建設土木大臣です」
「県庁所在地と知事はいつ判明する予定なんでしょうか?」
「さっきは建土大臣ではないと仰いましたが?」
「あ、ですから、建土大臣が報告して総理がですね」
「ですから総理が決めたんですね?」
「内閣としてですね、これはその、閣議でですね、さまざまな条件に鑑みて、これはもう間違いなく県だと、こういうことでございます」
「閣議決定をされたんですか?」
「茨城県民に謝罪してください」
「いや、えーっと、これから専門家に有識者会議でのご検討をお願いする予定でして」
「つまりまだ県だとはっきりしていないんじゃありませんか?」
「せめて場所だけでも具体的にお願いします」
「えー、しかしですね、さまざまな条件に鑑みて、これはもう間違いなく県ですから」
「でもまだ決定はしていないわけですよね?」
「そういうことになりますが」
「それなのに新たな県が見つかったというのは、国民に対するミスリードじゃありませんか」
「そのご指摘はあたりません。明らかにこれはもう、さまざまな条件に鑑みて間違いなく県でありますから」
「過去にこうした事例はあるんでしょうか?」
「みなさん、ご質問をされるときは挙手をお願いします」
「つまり、現状では何もわかっていないんですよね?」
「いやその、いちおう、JRの駅はあるそうです。そういう報告は受けております」
「JR!? 本当ですか?」
「何駅ですか?」
「いや、これはその、相手のあることですから、政府の立場としてはコメントできません」
「どうして駅名が言えないんですか」
「何線でしょうか?」
「その県出身の著名人はいらっしゃるのでしょうか?」
「すみません。もう会見の時間を過ぎておりますのでこの辺で」
「長官、ひと言だけお願いします」
「えー、あー、ともかく、県が見つかったと。それはもう確実なことでございますから」
「新しい県は、持ちやすいんでしょうか?」
「茨城県民に謝罪してください」
「今後は専門家による答申を受けて、政府としての方針を固めていきたいと、このように考えております」
「長官ご自身は、新しい県が見つかったことをどのようにお考えですか?」
「そうですね。県だけに、発県はっけん。なんちゃって」
 一瞬、会場が静まりかえった。

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