見出し画像

父への相談

今日、父親に会ってきた。

前の記事でも書いたが、ぼくら親子は何か用がない限りは会わない。今回も、最後に会ったのは去年の5月。半年ぶりくらいか。


「メシ行きませんか」

とぼくからメッセージを送った。

正直に言うと、このメッセージを打つのも少し緊張する間柄だ。仲が悪いわけではないんだけれど、なんせ昔からお互いに無口だったので会話という会話をしてこなかった。そんな関係。



今回は、ぼくが父親に相談したいことがあって連絡した。


今ぼくは間借りでサンドイッチ屋をやっていて、そろそろ1年近く経つ。

1年やってみて、やっぱり楽しいと感じているし、小さくも手応えも感じている。


そうなるとやっぱり、「自分のお店を持ちたい」という気持ちになる。

間借りの気楽さとともにその不自由さもずっと感じていたので、いつも「早く独立開業したい」と思っていた。


そんなある日。2月のはじめのこと。

知り合いから物件の紹介をいただいた。


自宅からも近く、家賃も安い。周りに飲食店も少ない。街中からも近い。小さくて1人でやるにはちょうどいい。駐車場もある。さらには初期費用を通常より大幅に抑えられる、という、最高の条件が揃った物件。

こんな物件を紹介されたら、そんなの、やりたくなってしまう。


「ここでお店をやったらどうなるかな。」

まだ住宅のままの内装を見て、想像を膨らませ、一晩中、設計図をつくってイメージした。

目指したい理想像が、そこでやりたいことが、しっかりとイメージできた。


「やりたい。」

内見をさせてもらったその日からもう気持ちは決まっていた。

ただ自分の足を引き止めていたものがある。

開業資金だ。


知ってる人は知っていると思うが、ぼくは社会人になってから3度の手術入院を繰り返しており、おまけに実家を離れてからは好き勝手旅に出ていた人間なのでとにかくお金がない。みんなが想像しているよりもかなり、ない。


開業には当然資金が必要だ。

今回は大幅に初期費用を削減できるとはいえ、ある程度の額は必要になる。

貯金ほぼゼロのぼくが開業を夢見てもいいのか。「お金はなんとかなる」ってほんとうになんとかなるのか。

そんな不安が前に出て、「やりたいです」と即決できなかった。


1週間、考える時間をもらい、必死に考えた。

先述した設計図をはじめ、損益計算書、事業計画書、月別収支計画書などを作成し、資金調達の目標と目処を決めた。



そしてようやく今日に戻る。

ぼくは資金調達の協力をお願いするために、父親を呼び出したのだった。


正直かなり緊張していた。

何から話せばいいかわからず、とりあえず今ぼくがやっているお店が雑誌に掲載されたページを見せた。「こんな感じで今間借りでやっているんだよね」と。


「それで、最近近くに物件が見つかって、そこで自分のお店をやりたいと思ってるんだ。」

と言うと、父は


『ほー、いいじゃん。やってみれば。』

とさほど間も空けずに答えた。


正直に言うと、この時点でぼくは泣きそうになっていた。

「やってみな」「好きにやりな」

という言葉は、母親から縛り付けられていたぼくにとって、あまりに有難かった。思わず溢れそうになった涙を堪えて話を続けた。


「それで、安く済むとは言ってもやっぱりお金は必要で、だいたいこれくらい。(家具見積もりのメモを見せながら)」

『へー、そんな安くできんだ。でどうやって集めんの』


「クラウドファンディングとか、日本政策金融公庫の融資も検討してるけど、できれば、支援をしていただけると、すごく助かる。」

『うん、いいよ』

「…いいですか」

『うん。』

「…ありがとう。」


思った以上にあっさりと承諾してくれて、言葉が出なかった。心の中で少し泣いた。


その後、設計図なども見せながらイメージや計画を共有した。

父は家具や内装工事の会社を経営しているので実はこういったことに関しては専門家。なんか言われるかなと思っていると、父は突然にやけ出し、こう言った。


『こうしたら、って何か言おうと思ったけど、自分で好きなようにやりたいんだべ?やってみな。』


心の中でまた泣いた。


こんなに自分を尊重されたのは生まれて初めてなんじゃないかってくらい、それはうれしい言葉だった。

本当にその通りで、自分でやりたいようにやってみたかったから。



そんな、父親の偉大さを感じずにはいられない1日だった。

帰ってから恋人に電話で今日のことを話し、やっぱり泣いた。なぜか知らないけど恋人まで泣いていた。



間借りではできなかったやりたいことができる。

自分が納得のいく働き方や生き方を追求できる。


不安ももちろんあるけど、なによりわくわくしている。

頑張らないといけないけど、またひとつ夢がかなう。


父親、感謝します。

ありがとう。

とんかつ、美味しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?