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『No.1 試験』


「もしもしカメよ カメさんよ
世界のうちでおまえほど
歩みののろいものはない
どうしてそんなにのろいのか」

ウサギがカメをからかって、カメに逆襲された話は有名だが、
そのウサギがすっかり面目を失い、同じウサギ仲間から
村八分になってしまった話はご存じだろうか。

村八分になったウサギは、
ある日、オオカミを発見した。

すぐそばに、オオカミがやって来ていることも知らず、
仲間のウサギたちは、草を食んでいる。
ウサギは、仲間を助けるために、
長老にこう言った。

「どうです、No1. 試験というのを、
やってみませんか」

長老は、うさんくさいという目になった。
「カメに負けるようなヤツに、
わしらが負けるというのかね?」

「やってみなければわかりません」
ウサギは、必死でことばを重ねた。
「向こうの山のふもとまで、
みなさんごいっしょに、
駆けていきましょう」

「ばかばかしい」
長老は、一笑に付したが、
若いウサギたちは、その挑戦を受けたい、
と言い出した。
カメに負けるようなウサギに、
負けるはずがないと思ったのだ。

位置について、よーい、どん。
村のウサギたちは、先をあらそって
走り始めた。
ぴょんぴょんと走るそのさまを見て、
オオカミは慌てた。

「待て~~~~」
オオカミが追ってくる。
村のウサギたちが、驚いて耳を立てた。
「おまえらを食ってやる!」
オオカミは、
ヨダレを垂らし、
凶暴な目をして、
ウサギたちに迫ってくる。

小さなウサギが転んでしまった。
オオカミは、荒い息をして迫ってくる。
小さなウサギは、泣きそうになっている。
村八分のウサギは、必死で打開策を探し、
ついに見つけた。

くっつき虫と呼ばれる小さなトゲトゲ実。
それを、オオカミのリーダーめがけて
投げつけたのだ。

リーダーの目を直撃するくっつき虫。
「痛い、痛い!」
オオカミは退散した。

「きみこそNo.1だ!」
長老がそう言った。
村八分のウサギは、名誉挽回し
いまでは倖せに過している。

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