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一億円の涙

SSnote 010
『一億円の涙』
 怪盗Xからの挑戦状が、
大富豪ロスのところへ叩きつけられた。
『一億円の涙、ちょうだいします」

さっそく警察が呼ばれ、名探偵上条が呼ばれた。
「一億円の涙とは、なんですか」
上条は、ロスにたずねた。
でっぷり太ったヒキガエルのようなロスは、
たるんだ頬をふるわせながら、

「わたしが一億円はらって手に入れたダイアモンドだ。
涙の形をしていて、世界でたったひとつしかない」

上条はうなずき、警察に警備を命じた。
「この挑戦状によると
今晩、ヤツが現れるという。
しっかり、警備をして欲しい」

「上条くん、だいじょうぶなの?」
上条の恋人、真里亜は、警備に付きながら
心配そうに訊ねる。
「だいじょうぶ。きみとぼくとはいつだって
コンビを組んで、事件を解決してきたじゃないか。
今度だって、怪盗Xの鼻を
明かしてやるからね」

「だといいけど……」
 真里亜は、長いまつげを伏せた。
「今度ばかりは、上手くいく気がしないのよ……」

さて、当日の、怪盗Xが現れる夜8時になった。
警官たちが、ダイアモンドのある金庫の前で、
ずらりと並んで待ち構えている。

「わははははははは」
なんだか昭和な悪党笑いをあげながら、
怪盗Xが現れた。
白くて長いシルクハット、白いマント。
仮面をつけて、ほとんどコスプレ。

怪盗Xは、手に持った催涙ガスを投げつけた。
警官たちは、手もなくヤラれてしまう。
なぜか金庫のかぎも、怪盗Xは番号を知っていた。

涙をボロボロ流しながら、名探偵は怪盗Xにとびかかる。
怪盗Xは、ハンカチを当てながら、それを軽くかわす。
ダイアモンドをつかんで、逃げて行ってしまった。

面目を失った名探偵が事務所に戻ると、
真里亜が神妙な顔でうつむいている。
「上条くん。話があるの。わたし、この事務所を辞めます」

「なぜだ!? 今度の失敗で、僕に嫌気が差したのか?」
「違うの。実は私が怪盗Xなの。
あのダイヤモンドは呪われていたから、ロスから奪うしかなかったのよ。ロスは父の親友なの」


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