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あんさんぶるスターズ!における民間軍事会社と財閥から考える国際状況

「第二次世界大戦のifルート」「国連成立に失敗した世界」「終わらない戦争ごっこ」───喧々諤々の議論が交わされる、アイドルプロデュースゲーム・あんさんぶるスターズ!の幻覚を見つめて

※以前は「アイドル育成乙女ゲーム」と記載していましたが修正しました。乙女ゲームを男性キャラがメイン登場人物で女性キャラが操作キャラのゲームだと思ってました、教えて頂きありがとうございます。

イントロ!自己紹介と注意事項

 はじめましての方ははじめまして、あんさんぶるスターズ!歴約2か月、初めてのイベントは「ユニットコレクション - MaM & Valkyrie」だった新人プロデューサー、眠り熊です。
 この投稿は「スカウト!ギャング」に登場する「民間軍事会社」と、天祥院英智の実家・天祥院財閥という形で登場する「財閥」の二つから、あんさんぶるスターズ!の世界(以下あんスタ)の国際状況を考えるという近代世界史とあんスタを強めにキメた幻覚をまとめたものです。
 そのため本投稿には以下の要素が含まれます。

・新人プロデューサーによるあんスタ設定未把握・誤把握(まだメインストーリ―読み切れてません)
・10割趣味で学んだ第二次世界大戦前後の近代史知識(ソースにwikipediaが大量に含まれる)
・「脚本の人そこまで考えてないと思うよ」と突っ込まれそうな深読み
・TLに流れる様々なツイートから得たひらめき(幻覚)
・「追憶*三人の魔法使い」「メインストーリ―第二部・キセキシリーズ」「維新!夜明けを告げる維新ライブ」「スカウト!ギャング」「初興行☆祝宴のフォーチュンライブ」「レクイエム*誓いの剣と返礼祭」のネタバレ

 繰り返しますが本幻覚は近代史の議論ではなく「あんさんぶるスターズ!」というフィクション作品において筆者が見ている幻覚です。
 そんな幻覚を一緒にキメて下さる方はそのままスクロールしてください。

ブリーチ☆民間軍事会社と国連

 「スカウト!ギャング」にて、fineの伏見弓弦とAdam/Edenの七種茨が出会った場所として描写された「民間軍事会社」。伏見弓弦は将来、姫宮桃李を護衛するための技術を身に着ける為、七種茨は孤児院のような場所を追い出された後にここに来たと台詞で明記されている。

 はい、というわけで人道的間違い探しのお時間です。

 公式情報から伏見弓弦・七種茨は共に17歳(7/1時点)であることが明記されている。両親から帰還許可が出ないことに伏見弓弦が自暴自棄な考えを抱く描写がある以上、そして後進の指導を任されている以上、伏見弓弦がこの民間軍事会社に所属した期間は短くないはずだ。加えて伏見弓弦が姫宮桃李との再会を果たし、姫宮桃李が天祥院英智との出会いを果たし、二人が夢ノ咲学園に入学することを鑑みると、最大限好意的に見積もっても二人は十代前半、場合によっては10歳未満にも関わらず「民間」「軍事」「会社」に所属していたことになる。
 児童就労の時点で頭を抱える案件だが、それが軍事訓練であり、更に特に七種茨の場合、その言動を見る限りほぼ強制であること自体、国連が採択した様々な条約に違反している。特に「最悪の形態の児童労働の廃絶のための国際条約・第三条」おいて「武力紛争において使用するための児童の強制的な徴集」ははっきりと「最悪の形態」のひとつとしてカウントされているのだ。

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『戦力としての使用』ではなく『紛争においての使用』なので補給作戦なども該当すると思われる

 仮に二人を教育する目的が武力紛争での使用ではないとしても(事実伏見弓弦はこれに該当する)「Handbook for parliamentarians: Eliminating the worst forms of child labour」によれば「教育を阻害するもの」も児童労働に含まれる。「スカウト!ギャング」での描写を見る限り、彼ら二人がまともに学校に通えているとは到底思い難い。

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これが土日のみでない限りとてもではないが教育は受けられない

 更に「実はきちんと教育を受けている」と仮定したとしても、同条約は「児童の健康、安全または道徳を害する恐れのある業務」も最悪の形態の児童労働の一つとしている。「大の大人ですら音をあげる」「命がけ」(どちらも原文ママ)の軍事訓練が健康、安全または道徳を害する恐れがないと判断されるとは思い難い。念の為この二人の雇用形態を4種類ほど考えたが、どのパターンでも国際条約違反ないし法律違反が発生する。

以下読み飛ばして構わない
①「当該民間軍事会社は表向きは『教育機関』である(教育の機会は失われない、というお題目が成立する)」
②「軍事訓練は当該児童の就学を阻害しない時間帯に行われている(子役などはこの条件に当てはまるため児童労働に引っかからない)」
③「当該民間軍事会社社員が当該児童の後見人になっておりここでの訓練は家業手伝い扱い」
④「二人は『個人事業主』として本会社と契約を交わしている(民法第五条により、未成年は法定代理人の許可があれば個人事業主として事業に関わる件に限定して成人と同じ能力を持つと判断してもらえる)」
どれにしても地獄。

 この人道危機に際し国連は何をしているのか。
 そもそも。
 あんスタにおける国連は、我々が想像するものと同一なのだろうか。

スクラップ!生き残った財閥たち

 ここで話を財閥に移そう。「奇跡⭐︎決勝戦のウィンターフェス」において、「警察に圧力をかけてくれる」と明言された天祥院財閥。一財閥が警察に圧力をかけられることもさながら、観客全員にその名前が知られており、この圧力を好意的に受け取られている描写すらある事から鑑みても、その強大さは計り知れない。

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一企業が圧力をかけられる現場、正直恐ろしいと思います

 はい、ここで歴史的間違い探しのお時間です。

 財閥とは一行でまとめるなら「1家族・一族が牛耳っている複数企業の集団」である。

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もっと詳細な概要はこちら

 あんスタにおいて天祥院財閥は「警察・地域有力者に対し莫大な影響を与えられる」「膨大な資産を保持している」ことを明示している。よって現実における財閥とあんスタにおける財閥は同一のものだと考えていいだろう。

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高校生に媚び諂う地域有力者の存在を確認 

 問題は現実において、既に財閥は解体され存在しないことである。
 財閥が解体されたのは第二次世界大戦直後だ。敗戦直後の日本では、戦後処理と当時日本の根幹となっていた軍事主義の完全解体が行われてきた。これらを行なっていたのはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)と呼ばれる組織だ。このGHQは、財閥を「軍備へ生産力を振り向けることで軍事主義を支えた存在」とみなしており、事実、第二次世界大戦を通して大きく成長を遂げた財閥も多々存在し、その成長は軍事産業の興盛によるものだとされていた。
 また財閥解体には「一社一強状態をなくし、中小企業を増やすことによる市場原理の導入」の側面もあった。会社の数を増やし、競わせる事で市場に商品が増えて価格が下がり、製品やサービスが洗練され、巡り巡って社会全体が良くなるという需要と供給の原則に則った考えだ。なお独占禁止法も類似のロジックで形成されており、現在でも影響が残っているといえる。
 だが、その財閥解体はあんスタでは発生していない。
 先に述べたようにGHQは日本の軍事主義を解体するにあたり財閥は解体すべきものだと認識していた。現実においては日本政府側が財閥解体を主導したが、日本政府が渋るようであればGHQ自ら大鉈を振るう予定すらあったという。即ち、GHQがありながら財閥解体が起こらないとは考えにくい。
 即ち、こう考えられる。
 あんスタでは、第二次世界大戦直後にGHQによる戦後処理が行われなかった。何故なら、第二次世界大戦の戦勝国はGHQを派遣した連合国ではなく、日本を含む枢軸国だったためである、と。

リバース*民間軍事会社と軍縮の関係

 話を国連に戻そう。国連とは「国際平和と安全の維持、そして経済・社会・文化などに関する国際協力の実現を目指す為に設置された国際機関」である。ここで重要になってくるのは国連成立の流れだ。現在の国連は第二次世界大戦の真っただ中、日本と敵対していた国々の集まり・連合国によって立案され、連合国側の勝利の後、成立したものである。
 つまり日本が勝利した、連合国側が敗北したあんスタには、現在現実に存在する国連が存在しない。
 何かしらの国際機関が存在する可能性はあるだろう。だが、その中枢となる国が軍事主義国家である以上、現実の国連とは全く別物になることは想像に難くない。
 ここで前述した児童の軍事訓練問題を思い出した方もいるだろう。第二次世界大戦中の日本には、現在で言えば少年兵に当たる「鉄血勤皇隊」や「少年護郷隊」が存在した。だが、現実においても少年兵問題が取り沙汰されたのは第二次世界大戦直後ではない。少年兵が問題になるのは、この後。
 冷戦の最中に起こる代理戦争、ベトナム戦争である。
 ベトナム戦争以前も少年兵は存在したが、その未熟さ故に基本的に戦力としてカウントされていなかった。第二次世界大戦中に存在した少年兵達も、戦力にはならなかったという。ところがこのベトナム戦争以降、軍事技術の発達により、軽量で取り扱いが子供でもし易く、それでいて高殺傷力の武器が開発されてしまう。これにより少年兵も戦力になりうる────のではない。
 少年兵を「使い捨ての兵器」として扱える時代が到来してしまった。
 現代において少年兵が激しく非難されるのは決して「子供が戦闘に従事させられ、教育の機会と子供時代を奪われている」からのみではない。洗脳され易く、反抗が難しいが故に管理が容易で、敵の動揺を誘える上に教育の手間がかからないが故に使い捨てにされるという人道危機がそこに存在するためである。
 伏見弓弦と七種茨の過去を鑑みるに、少年兵を禁止する条約は存在しない、ないし日本は順守していないことがうかがえる。この事実は先に述べた「あんスタにおいて第二次世界大戦の戦勝国は日本」という事実を裏付ける論拠として充分ではないだろうか。
 一応ではあるが、伏見弓弦も七種茨も「使い捨ての兵器」ではなく「一兵卒」として鍛えられていたのは「スカウト!ギャング」からも、そして本人達の言動からもうかがえるだろう。これらの点から、そもそもあんスタでは現在の紛争において見られる少年兵の運用自体発生しなかった可能性もある。
 だがその有無は、第二次世界大戦後に発生する冷戦、そしてそれに伴う軍拡と軍縮の流れの有無には影響しない。
 その論拠もまた、この二人が所属していた民間軍事会社である。
 民間軍事会社が台頭したのは冷戦終結後、冷戦中に膨れ上がるだけ膨れ上がった莫大な軍事費の削減のため、大量の退役軍人が生まれ、彼らが頻発するテロ対策に駆り出されるようになった時代である。有事には雇い、平時には解雇が可能な民間軍事会社に所属する『社員』達は、反戦運動に対する『誠意ある対応』、そして軍事費の削減に大いに貢献した。
 逆説的に言えば、大量の退役軍人がいなければ、そして大幅な軍縮がなければ民間軍事会社は生まれない。
 そして大幅な軍拡がなければ、大幅な軍縮もない。
 現実における「日本が戦勝国となった第二次世界大戦後」の予想は様々であり、どの予想を取るかによって歴史は大きく異なってくる。本投稿においては、何らかの理由において───それが軍事主義の絶頂と衰退なのか、冷戦の開幕と終戦なのか、或いは他の要因なのかは問わない───あんスタにおいて軍拡と軍縮があったであろう、という幻覚は固定としたい。

苗字帯刀!腐敗した学院と戦争ごっこ

 ここまで「民間軍事会社」と「財閥」の存在というたった2点をベースに幻覚を構築してきたが───正直そろそろ正気に戻りそう───「あんスタにおいて第二次世界大戦の戦勝国が日本であった証左」はきちんと存在する。
 それは「夢ノ咲学院の腐敗」「帯刀許可」そして「アイドルたちの語彙」である。
 
1. 財閥未解体と夢ノ咲学院の腐敗
 先述した通り、GHQが財閥解体に動いた理由は軍事主義を解体する為だけではなかった。健全な市場原理を日本にもたらすことも目的である。その財閥が解体されなかった場合、市場原理の導入が現実より遅れることは間違いないだろう。
 あんスタで再三強調される夢ノ咲学院の腐敗は、この市場原理導入が遅れたことが遠因ではないだろうか。
 「追憶*魔法使いの夜」にて描写されているが、夢ノ咲学院が腐敗した要因の一つは「夢ノ咲学院出身アイドルによる芸能界の独占状態」である。夢ノ咲学院出身アイドルが重要なポジションを独占し、彼らが夢ノ咲学院の卒業生をその質ではなく「夢ノ咲学院の生徒だから」という理由だけで優遇する結果、腐敗につながったのだ。

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後輩の優遇自体は自然ですらあるが‥‥‥

 加えて「奇跡⭐︎決勝戦のウインターフェス」ではアイドル達の目標として描写され続けたSSについての説明がなされた。国内最大、そして世界的に見ても最大規模に入るアイドルの祭典であり、「優勝すれば将来の栄光が約束されたも同然(公式原文ママ)」とされたこのイベントは、夢ノ咲学院が主体となって運営している。驚くべきことに、夢ノ咲学院自体がSSのためにアイドルを育成する目的で設立されているという描写もあった。
 さて、そのアイドル業界を独占し、最大規模のアイドルの祭典SSを運営し、SSへ続く夢ノ咲学院運営にもっとも影響を与えうる存在は何か。
 本幻覚において、第二次世界大戦後に解体されなかった財閥であり、夢ノ咲学院に最も出資を行なっている、天祥院財閥である。

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その影響力は少なくとも姉妹校にて「問題」を多発させられる程度にはある

 財閥解体によって強大な財閥が解体されれば、一強によるワンサイドゲームが起こりにくくなる。けれどもあんスタでは、そのワンサイドゲームが起こってしまったが故に────天祥院財閥がその財力と人脈で持って夢ノ咲学院アイドルの一強状態を作ってしまったがために、夢ノ咲学院の腐敗、そしてメインストーリ―での革命が起こったと考えると筆者の幻覚においては辻褄が合う。
 一方でイベストにおいて、あんスタ世界は資本主義であることが幾度も強調されている。加えて姫宮桃李の実家である姫宮家の台頭、朱桜家のアイドル事業への進出、そして七種茨が運営に携わるコズミックプロダクションの台頭も起こっている。
 恐らくあんスタ芸能界は今ようやく、戦前の独占状態からまっとうな競争原理が生まれつつあるのではないだろうか。

余談:天祥院財閥とゴッドファーザー
 これは完全に私見になるがそもそもこれ自体が幻覚なので許してほしい。上記理論が成立する場合、天祥院英智がアイドルに向ける並々ならぬ熱意は、戦後アイドル業界に多額の投資をしたであろうご先祖様からその血と共に受け継いだものではないだろうか。
 加えて同じようにアイドルに対し並々ならぬ熱意を持ち、アイドル業界を裏で牛耳っていたという名前を呼んではいけないあの人ことゴッドファーザー、この人も天祥院財閥の人間である可能性がある。熱意の問題だけではなく、アイドル業界を牛耳るゴッドファーザーとアイドル業界を独占している夢ノ咲学院が同時に成立するには、ゴッドファーザーと天祥院財閥が少なくともニアリーイコールで結ばれている必要があるからだ。
 自らアイドルになったのは天祥院英智が初めてだったとしても、天祥院という家系は、アイドルに関わらずにはいられないのかもしれない。

2.「武士」という権威の復活
 第二次世界大戦を日本が勝利することで、大きく変わるものがある。
 日本地図である。
 第二次世界大戦のうち、日本と米国による太平洋ないしアジア地域での戦闘を太平洋戦争(ないし大東亜戦争)と呼ぶが、この戦争中、日本は以下のエリアを占領下としていた時期があった。

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Wikipedia「大日本帝国」より引用。地図を見た方が早いので説明を端折ったのだ

 日本が劣勢になるにつれて占領範囲は縮小したためあんスタでの第二次世界大戦がどのタイミングで終結したかにもよるが、現実の日本地図と全く違う日本が存在すること、そしてあんスタにおける第二次世界大戦後の日本人は、グローバリゼーションが進行した現在以上に異文化の流入に接する機会が増えたであろうことは疑いようがない。その結果として、既存権益を持つ人々による「武士という権威の復活」が起こったのだと筆者は幻視する。
 現実、そして歴史を見て頂ければ分かるように、異文化の流入後は概して「固有文化への回帰と崇拝」が起こりやすい。特にそれまで固有文化において安寧を得ていた集団、誤解を恐れずにざっくりまとめると既存権益を持つ集団は、特にその傾向が顕著になる。加えてこれは第二次世界大戦直後、まだ人種差別が当たり前のように行われてしまっていた時代である。
 この二つが合わさった際、その当時既存権益を持っていた集団が、「日本人としての権威の証明」として持ち出したのが、「武士としての血脈」だったのではと考えれば、あんスタにおける2つの疑問────「朱桜司の言動」と「神崎颯馬の帯刀許可」が氷解するのだ。
  まず「朱桜司の言動」について、彼は流暢な英語や日本文化に不慣れといった海外で育ったことを示唆する描写が随所にみられる。特筆すべきは、その上で武士の家門であることを誇ることだ。

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本幻覚を鑑みると旧イギリス領(シンガポール、マレーシアなど)で育てられた、ないし使用人がその地域出身の可能性がある

 彼の生育環境は「レクイエム*誓いの剣と返礼祭」にて描写されている。「良いものだけを与えられて(原作原文ママ)」育てられたと明言されている以上、そして日本文化に不慣れであり、他の日本文化に強いあこがれを抱いている様子はない以上、彼の両親ないし一族が「武家の出身であることは誇りだ」と教育したことは疑いようがない。そして同時に彼の実家は長い歴史と政治界に太いパイプを持つものの、経済的には天祥院財閥や姫宮家に劣ることが明かされている。
 既存権益を持つ集団が、「武士」の権威を復活させ、自らの権威としてきた、という筆者の幻覚が公式に証明されていると言えないだろうか。

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この過去の栄誉、そのまま読むなら「武士であること」こそ過去の栄誉になる

 次にあげられるのがあんスタにおいて最も謎めいていると言っても過言ではない「神崎颯馬の帯刀」である。
 現実において帯刀、すなわち「衣服に真剣をつけて歩くこと」は銃砲刀剣類所持等取締法にて禁止されている。加えて日本刀の所持自体は現実において合法であるが、未成年は所持の許可が下りないことが明記されている。

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実は銃砲刀剣類所持等取締法は日本刀より銃についての記載が多い

 更にいうなら、仮に許可が下りたとしても銃砲刀剣類所持等取締法第二章第5条において「他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害し、又は自殺をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」は許可が取り消されると明記されている。「ミスを犯すと切腹で詫びようとしてしまう(公式プロフィール)」神崎颯馬は、現実においては決して帯刀が許可される人物ではないのだ。

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何故アイドルの公式プロフィールで切腹の話が出て来るのか

 しかしあんスタにおいて神崎颯馬は帯刀を許されている。それも決して法律違反ではなく、正式に国の許可を取った上で帯刀しているという情報を得ている(筆者未確認)。
 この銃砲刀剣類所持等取締法、その成立にはGHQが関わってくる────のだが、帯刀自体が禁止されたのはGHQが登場するよりさらに前、1876年(明治9年)に施行された大礼服並軍人警察官吏等制服着用の外帯刀禁止の件(略称・廃刀令)においてである。明治維新、文明開化、そして近代化を経た日本政府は、帯刀を禁止することにした。
 ここで重要になるのが、当時の「帯刀」における価値である。
 当時帯刀が許されていたのは武士、いわば特権階級のみだった。「苗字帯刀」と言い、名字を持つこと、そして帯刀することが武士である身分標識であり、いわば権威の象徴だったのだ。
 「武士」の権威を復活させている既得権益が存在するならば、このうってつけの身分標識を復活させない理由はない。武家の一族である神崎颯馬に帯刀が許されていること、それ自体が「武士」の権威が復活していることの象徴なのだ。
 但し、このロジックには一点欠点がある。それは言わずもがな、あんスタにおいて帯刀し抜刀する神崎颯馬を見て「銃刀法違反」というコメントはあれど、権威を感じるコメントは一つもないことだ。しかしこれについては前述した軍拡から軍縮の流れからその理由を鑑みることが出来るだろう。
 日本刀は、非常に重く、かつ嵩張るのである。
 サイズによってその重量は大きく異なるが、基本的に鉄の塊である。最低でも1kg、大振りのものであればさらに重たくなる。
 恐らく軍事主義が頂点を迎えていただろう第二次世界大戦直後は問題なかったのだろう。実は廃刀令においても、軍人が制服着用時に帯刀することは認められている。当時は帯刀を行えるだけの体力がある既存権益が大勢存在したのだ。
 だが技術革新によって日本刀を兵器として用いるには難しくなり、軍縮が始まり、軍人ですら帯刀する人間は減っていった。否、和服での会合などでは現在時系列でも帯刀している可能性はあるが、神崎のように本当に日常的に帯刀する人間が減少した結果、現在のような反応を返されるようになったと考えられる。

3. アイドルたちの語彙と「戦争ごっこ」
 あんスタにおいて、アイドルたちの語彙は極めて軍事的である。
 改めて文章化するとわけがわからないが、これについては真面目に幻覚ではなく事実である以上自分は目をそらしてはならない。
 例を4つ挙げよう。

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一瞬で『講堂』を支配して、観客のすべてを爆撃するように魅了した。
(メインストーリー第67話「開花」)

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もっと悪の総本山っぽく、禍々しい名前であってほしい! 『皆殺し(ジェノサイド)学園』とか‥‥‥☆
(軌跡☆オータムフェス「プロローグ」)

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舞台に立つアイドルだけでなく、スタッフも総力戦って感じです
(軌跡☆オータムフェス「開戦」第2話)

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敵がどんな兵種を揃えているか知らないと、おっかなくて戦争もできないし
(軌跡☆オータムフェス「開戦」第2話)

 念の為補足するが全て本編のセリフである。加えて全て異なるキャラクターのセリフだ。爆撃、ジェノサイド、総力戦、兵種。該当単語を抜き出してしまうと、これがアイドル育成ゲームだとは到底考えにくい。
 そしてこれが全編にわたって続くのである

ちなみにこれは「維新!夜明けを告げる維新ライブ」初見時の筆者の感想

 さて、本幻覚において、日本は第二次世界大戦において戦勝国となり、軍事主義が現実より継続したとしている。
 この軍事主義は、当時の文化にも多大な影響を与えた。その影響の範囲は映画といった興行事業のみならず、子供の遊びにも表れている。将棋には王や騎馬ではなく軍隊の階級や兵種を元にした駒が描かれ、飛行機や軍艦、鉄兜の玩具が売られるようになり、漫画にも戦争が描かれるようになり、戦意高揚のために兵隊のまねをする「戦争ごっこ」という遊びが大流行したという。
 GHQの検閲により、軍事主義を肯定する記載は子供達の目から消されていった。合わせてこうした遊びも、朝鮮戦争など幾度かの再興を繰り返しながらも、軍事主義国家の名称がそぐわない現在においては希少なものになった、といっても良いだろう。
 だが。
 これらの遊びがあんスタ世界では現実の数倍以上長い期間流行していたと────軍事主義的教育と「戦争ごっこ」が続いていたのだと考えれば、アイドルたちの語彙が極めて軍事的であることに理由がつくのである。
 彼ら、生目の馬を抜く戦場であるアイドル業界に生きるアイドルたちの語彙が軍事的なのではなく、彼らアイドルを含むごく一般的な男子高校生たちの間で使われている語彙は、我々にとっては軍事的だが、彼らにとっては日常なのだ。

Sleep♪幻覚の始まりと感謝の結び

 本幻覚では、「民間軍事会社」と「財閥」、この2要素から「あんスタにおいて日本は第二次世界大戦の戦勝国だった」という論を展開したが、いかがだっただろうか。
 本幻覚は実は「紅白歌合戦の成立にはGHQが関わっており、あんスタにて紅白を継ぐものとして生まれたSSの状況を鑑みると、あんスタGHQが存在しない可能性がある」というツイートから「そも民間軍事会社がごく普通に存在する世界に国連はあるのか? そもそも、少年兵問題に抵触する描写がなかったか?」と考え始めた結果、筆者の睡眠に支障をきたしたことをきっかけに書き始めたものである。多分寝不足もこの幻覚に影響していると思うのでなるべくしっかり寝たいと思います。
 こうした考察の機会を与えてくださったTLの皆様に感謝を伝えるとともに、ここまで幻覚を見てもまだ幻覚をみる余地があるほど作り込まれたあんさんぶるスターズ!を届けてくださったHappy Element社の皆様にお礼を申し上げることで、本投稿の結びとする。

 ‥‥‥いやこんなんでお礼言われても困る気がするけどな‥‥‥

参考文献

1999年の最悪の形態の児童労働条約(第182号)|国際労働機関 https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/WCMS_238053/lang--ja/index.htm
Eliminating the worst forms of child labour: A practical guide to ILO Convention No. 182 - Handbook for parliamentarians No. 3, 2002|International Labor Organization https://www.ilo.org/pardev/partnerships/civil-society/parliamentarians/WCMS_172685/lang--en/index.htm
民法第5条|Wikibooks https://ja.wikibooks.org/wiki/%e6%b0%91%e6%b3%95%e7%ac%ac5%e6%9d%a1
民法第6条|Wikipedia https://ja.wikibooks.org/wiki/%e6%b0%91%e6%b3%95%e7%ac%ac6%e6%9d%a1
財閥|Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e8%b2%a1%e9%96%a5
財閥解体|Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e8%b2%a1%e9%96%a5%e8%a7%a3%e4%bd%93
財閥解体と戦後日本の経済復興|立命館大学http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/7KISEI/miyazaki.pdf
財閥解体のメリットって?簡単にわかりやすく。現在はどうなってるの?|大学受験の日本史を極めるブログ https://jahistory.com/zaibatu-kaitai/
少年兵|Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e5%b0%91%e5%b9%b4%e5%85%b5
民間軍事会社|Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%b0%91%e9%96%93%e8%bb%8d%e4%ba%8b%e4%bc%9a%e7%a4%be
大日本帝国|Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e5%a4%a7%e6%97%a5%e6%9c%ac%e5%b8%9d%e5%9b%bd
銃砲刀剣類所持等取締法|e-Gov  -gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=333AC0000000006#B
銃砲刀剣類所持等取締法|Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e9%8a%83%e7%a0%b2%e5%88%80%e5%89%a3%e9%a1%9e%e6%89%80%e6%8c%81%e7%ad%89%e5%8f%96%e7%b7%a0%e6%b3%95
神崎 颯馬 | あんさんぶるスターズ! https://em1.ensemble-stars.jp/character/kanzaki_soma/https://em1.ensemble-stars.jp/character/kanzaki_soma/
苗字帯刀|Wikipedia  
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e8%8b%97%e5%ad%97%e5%b8%af%e5%88%80
廃刀令|Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e5%bb%83%e5%88%80%e4%bb%a4
太平洋戦争中、子どもはどんなくらしをしていたの| 学研キッズネット・なぜなに学習相談 https://kids.gakken.co.jp/box/syakai/06/pdf/B026113050.pdf
「戦争玩具」という用語をめぐって | 国立民族学博物館 http://www.minpaku.ac.jp/museum/enews/214
戦争玩具 | Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%88%a6%e4%ba%89%e7%8e%a9%e5%85%b7


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