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ネタバレあり『ザ・バットマン』観てきた

『ザ・バットマン』を観てきた。暴力シーンは期待してたほどではなかったが概ね満足した。以下良かった点を挙げていくことで何が魅力的だったのかを自分なりに整理する。

・ゴッサムシティの治安が悪い
ノーラン版ではまず組織的な犯罪がありヴィランがいて、それに焚き付けられて市民が暴動を起こすというトップダウンなお決まりの流れがあった。それに対して『ザ・バットマン』ではまず何にも依らず強盗をするシーンがあって、若者がサラリーマンをリンチするシーンがあって、彼らにとってそれが日常であることを伺わせる。そこからまた組織的な犯罪が描かれていくのだが、退廃している街の様子が先に描かれていることでそれぞれのシーンは分断されているが街と犯罪組織の影響関係を想像させる内容になっている。犯罪は教唆されているわけではなく市民が犯罪組織に影響を受けつつも自由に行なっているのだ。これはノーラン版との決定的な違いだと思う。

・バットマンが反抗期
クリスチャンベールブルースウェインには導いてくれる人間が多くいた。稽古をつけてくれる忍者集団影の同盟にしろ、執事のアルフレッドにしろ常に迷った時には啓発的な言葉を与えてくれる。ヒロインのレイチェル・ドーズにしてもそうだ。しまいには敵であるはずのマフィアのボス、ファルコーニにも世界の厳しさを言葉で説明される。それに対してロバートパティンソンブルースウェインにはそうした依る辺がないどころか、むしろ積極的に周囲の人間を拒絶している。育て親であるはずのアルフレッドには「お前は親じゃない」とまさに親を失った孤児が言いそうなセリフがそのまま出てくる。そのせいか今回のバットマンはどこか青臭い。誰も導いてくれる人間がいないからいまだに反抗期が続いているのだ。だからこそ街で犯罪者を締め上げる自警行為に耽っているのである。これはバットマンとしては今までにない描かれ方だしやってることの泥臭さから言ってもかなり説得的な動機ではないだろうか。もしかしたら今後もっと別の描かれ方でなぜ彼がバットマンになったのかが明かされるかもしれないが今回の全力で世界にぶつかって自分で何かを学び取るバットマン像は僕としてはかなり気に入った。気になった女をストーカーしたり自分の目的のために道具として使ったりしてちょっとカッコ悪いのも大目に見ようと思う。ここからどう成長するのかが楽しみである。

・街の陰謀
今回のヴィランは人を殺したあとバットマンに挑戦状を叩きつけ謎々を出題する。その謎々はいかにも子どもっぽい暗号なのだが、その答えを探すうち街の陰謀にたどり着く。マフィアの組織がドロップという麻薬を密売しており、それに警察組織や検察、政治家など街の重要人物が関わっていたのだ。そしてそのマフィアの資金源となっているのはなんとブルースウェインの父親が生前やろうとしていた慈善事業のための予算だったのである。これにはブルースウェインもやり場のない感情に襲われる。今まで街の犯罪者を裁いてきたのは善良だと信じていた両親の復讐のためだったのに、その父親が犯罪に関わっていたとは。それどころではない。むしろゴッサムシティの治安が悪くなってしまった責任は自分の父親にあるのだ。親の罪は子の報い。自業自得。そうした言葉に縛られながらそれでも一度信じた正義を全うしなければならない。シリーズの始めとしてとても過酷な幕開けである。あまりにも過酷すぎるので最後の場面で市民を助けて自らの進むべき道を確信するところで違和感を覚えたほどだ。そこだけちょっと生温く感じた。もっと苦しんでもいいと思う。

・みんな孤児
バットマンにしろキャットウーマンにしろリドラーにしろ今回の主要人物はみんな孤児で復讐を目的に持っている。それぞれの描き方は微妙に異なっていて、バットマンは両親を殺した犯罪者を直接復讐するのではなく犯罪そのものを絶とうとするのに対し、キャットウーマンは母を死なせた父ファルコーニを直接殺そうとする。リドラーは恵まれない孤児で恵まれた孤児であるバットマンを糾弾し、犯罪者を含めた街そのものに復讐することで自分が受けてきた仕打ちをそのまま反転して帰そうとする。それぞれの復讐と境遇を描くことで単にバットマンとリドラーが対比されているというだけではなく孤児の運命の違いについて多面的に考えられる構造になっている。なかなか良い描かれ方だと個人的には思った。

ということで今回のバットマンは人を助けようとするけど防波堤の決壊は止められないし空を飛ぶけど上手く着地が出来なくてぶつかるし育て親には文句しか言わないしヒロインは道具として都合よく使ったりしてカッコ悪いし青臭いけど、その青臭さが同時に孤児としてのブルースウェインの一人でぶつかって何かを学び取ろうとする人間味にも繋がっていたりしてそれが魅力的なのだった。

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