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それって改正景商法(ステマ規制)違反ですか?

最近、口コミを書くことで割引をしてもらう「口コミ割引」ってみかけなくないですか?
「ステマ規制」が施行されたからです[*0]。ニュースで話題となったのは少し前ですが、10月1日より景品表示法(正式名称「不当景品類及び不当表示防止法」)の一部が改正され、ステルスマーケティング(通称ステマ)が正式に取り締まられるようになりました。

「ステマ規制」ってインフルエンサーとかがやるやつじゃないの?と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。先日、ステマ規制について解説しているこちらの記事を見つけました。簡単に歴史について触れながら、一体何が規制対象で、誰が処罰対象かなどが紹介されています。今回は、こちらの記事を所々触れつつ、独自調査を交えてもう少し深掘りしていこうと思います。ちなみに私は法律の専門家ではないので、ここで書くことは正しい保証はなく、個人の見解を多く含みます。

ステマにはインフルエンサー型ステマと、口コミ型ステマに大別されるそうです。インフルエンサーのPR投稿などがよくニュースで取り上げられていたので、こちらのイメージが強いかもしれませんが、報酬や割引を対価として口コミを書くのもステマになります。過去にもステマに関連した様々な騒動がありましたが、法整備されるまでにかなり時間がかかったようです。

誰が処罰対象なのか?

ステマをすると罰せられるのは誰でしょうか?以降は、話を簡単化するため、インフルエンサーのステマに限定して話を進めます。罰せられるのは、報酬や割引をしてもらっているのだから、インフルエンサーでしょうか。宣伝してもらった、広告主でしょうか?その両方でしょうか?

今回の調査では106人の方に回答いただきました。調査の最初で、そもそも誰が処罰対象なのかの認知がどれくらい進んでいるのかを調べてみました。

ステマ規制で処罰対象となる人を正しく理解しているかチェック質問

正解は、「商品・サービスを供給する事業者(広告主)」のみです。インフルエンサーは処罰対象ではないんですね。正解率は約35%です。
3択問題は、みんな当てずっぽうで答えると正解率は(漸近的に)33%になるため、「35%の人はちゃんと理解している」とは言えません。一方、事業者と投稿者の両方が裁かれると思っている人は顕著に多いと言えます。

ただ、実態を考えると事業者だけが悪いケースばかりじゃないと思うので、この間違え方に偏る理由もわかる気がします。後述しますが、インフルエンサーのPR投稿自体は別に違法ではありません。PRであることを隠して(ステルスで)宣伝することに問題があるわけです。例えば、広告会社が明示的なPR投稿を依頼しても、(自身の評判が下がる可能性を恐れて)インフルエンサーがPRだと言わないケースとか、これまでたくさんあったと思います。

少なくとも事業者がステマ依頼をすることは出来なくなったので、大規模な悪質ケースは抑制できるだろう、という感じでしょう。

まだステマは存在している?

口コミ割引の有無

今月以降、口コミ割引をするのは違法ですが(誤解があったらすみません)、実際にまだ行われているケースはあるのでしょうか?まだ対象だと気づかずにやってしまっている事業者もいるでしょうね。聞いてみたところ、「はい」と答えた人は106人中2人でした。いますが、全然いませんね。

ここでちょっと本題から脱線します(興味ない人はこの節を読み飛ばしてください)。アンケート調査ではよく回答者が「嘘をついてしまう」という問題が指摘されます。極端な例は、匿名アンケートで「あなたは物を盗んだことがありますか?」のような質問です。処罰される可能性はなくても、つい「(一度も)ありません」のように答えてしまう人が多いのです。

今回の上の質問も、誰が処罰されるかは正解は教えられておらず[*1]、今月以降に口コミ割引を受けることは違法なのかもしれない、という心理が働きそうですよね。もちろん本当にもう口コミ割引がほとんどなかったり元々少なかったりする可能性もありますし、単純に忘れてしまっている可能性も十分あります。なので、本当のところを調べるにはもっと本格的な比較実験をしてみないと判断できないはずですが、安易に聞くと落とし穴がありそうな質問の典型のようなケースだったのであえて聞いてみました。色んなバイアスが想定される中でも「はい」と答えた人が多かったら調査としては面白かったのですが、そうはなりませんでしたね。

どれがステマか、あなたは分かりますか?

さて、具体的にどんなケースがステマに当たるのか、あなたは正確に答えられますか?上で紹介した記事でも、実は結構判断が難しいケースがあるという話がありました。法律自体は明確でも、誤解している人もいるかもしれません。私も誤解しているかもしれません。そこで、いくつか想定ケースを用意し、回答者の方々がどう判断されるかを聞いてみました。

以下の事例で、改正景商法(ステマ規制)により違法となるものはどれだと思いますか? また、判断が難しそうな事例案があれば、ぜひ投稿してください。

違法だと思う事例をすべて選択してください。

「ステマ規制について」のアンケート(2023/10/20 実施)
回答といいね数、およびグループ分け

回答のグループ分けは、回答者から「違法だと思う」とチェック (like) されたパターンを基にしています。
回答の中には、ステマ規制とは別の意味で違法性がありそうなものも含まれているので、「違法だと思う」というチェックが必ずしも「ステマ規制の基準に照らし合わせて違法」という選択かは定かではありません。正直ここは、私の調査設定のミスでした [*2]。

最初のグループ(青)は分かりやすくステマの例です:

  • インフルエンサーが、PR投稿であることを明記せずに商品を紹介する動画を投稿。

  • 製品の評判を高めるために、従業員が匿名で口コミを投稿

で、わりと誰もがチェックしています。しかし2割弱の人は、青グループへのチェックが少ない代わりに黄グループ(index=4,5)の回答:

  • 100種類の成分配合と記載されているが実際は10種類の成分しか配合されていない

  • 業者側の依頼で嘘のクチコミを書く

に顕著にチェックをしています。嘘を表示すること自体は、ステマ規制部分ではないですが確かに景品表示法で違法とされている内容です(こちらを参照)。「PR投稿です」と宣言してインフルエンサーが投稿しても、当然、虚偽があれば景品表示法ということですね。

一方、緑グループ(index=6~11)は、普通の広告活動と言えます。回答パターンとしても、これにチェックを入れている人はあまりいませんでした。

紫グループ(index=12,13)も、普通に評価を受けているだけといえます:

  • 製品を扱う新聞記事をジャーナリストに依頼し、記事を書いてもらう。

  • インフルエンサーが、特定の商品を絶賛する発言をする。

ジャーナリストが書くものには手心が加えられていたりもするでしょうが、良いことばかりが書かれる保証もないので、これが法に触れる可能性は低いのではないでしょうか。これは多くの人はチェックを入れませんでしたが、16%ほどの人が青グループの事例と共に、この紫グループの事例をよくチェックしています

冒頭で紹介した記事でも、通常のメディア掲載は規制の対象外と読めると書いています。ただしメディア掲載については、ステマ規制の外側にも問題の波及効果があるようで、著者の小寺信良氏は「ライター界でも困惑が拡がった」と書いています。一部抜粋します:

もちろんこれ〔注:景品表示法のガイドライン〕にはただし書きが付いており、「正常な商慣習を超えた取材活動等である実態(対価の多寡に限らず、これまでの取引実態と比較して、事業者が媒体事業者に対して通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等が行われる場合)にあるかどうかが考慮要素となる」ともある。

 少なくとも試用した後に返却する「貸出」は、提供とはいえない。提供は返却せずそのまま与えることなので、貸し出しに対しても提供:○○と書くのは事実に反するのではないか。またランキング等で複数の製品を扱う場合、1社だけこうした記述があると公平性に問題が出るのではないか。あるいは書く必要がない情報の記載を強要するのは、編集権の侵害に当たるのではないか。さらに深読みすれば、通常記事にも広告記事にも全てに「提供」と書いてあれば、広告記事だということがカムフラージュされてしまうのではないか。

『「ステマ規制」スタートで混乱も? 「ステマ」は何が問題なのか、改めておさらいする』 (ITmedia NEWS 2023/10/19)

確かに言われてみると、規制自体が権利侵害を起こしたり、逆に公平性に影響を及ぼしたりする懸念があり、広い視点で見ると単純ではありませんね。

残りは赤グループ(index=2,3)ですが、これはどうでしょう?:

  • オンライン掲示板やフォーラムへの匿名の投稿で製品を褒める。

  • 広告であることを隠して、特定の製品を良く言うのではなく、ライバル企業の商品を悪く言う。

総じてこれらにチェックを入れた人は少ない傾向にありました。前者は、投稿者に利益があるかどうかの判定ができないので、匿名で褒めるというのは、紫グループと同じく「普通に評価をしているだけ」と言えます。後者はどうでしょう。冒頭の記事でも紹介されていた内容を一部抜粋します:

これで記憶に残るのが、2012年1月の「食べログやらせ騒動」だ。カカクコムが運営する飲食店検索サービス「食べログ」のランキングを上げてやるとして、飲食店に金銭を支払わせてヤラセの高評価書き込みを行うという事業者の存在が発覚した。逆に支払いを拒否した飲食店には低評価の書き込みがされるなど、その悪質性が目立ったのも特徴である。

『「ステマ規制」スタートで混乱も? 「ステマ」は何が問題なのか、改めておさらいする』 (ITmedia NEWS 2023/10/19)

ステマ関連の問題として有名な事件ですが、ネガティブな評価については何も報酬を受け取っていないので、ステマというよりかは普通に嫌がらせですね。

さらに、 口コミ割と言っても、例えば「低評価をしたとしても割引」みたいなことになっていれば、事業者が関与していないのでステマ規制対象外、ですよね…?うーん、ステマ規制とは一体…

おわりに

いかがだったでしょうか。ステマじゃないけれどステマと勘違いされる事例、ステマじゃないけど違う意味で違法性がある事例を、いくらか見てきました。みんな同じ回答傾向ではなく、いくらか判断にばらつきがある様子が見られました。回答パターンについての記述は、添付した図だけから読み取れるのではなく、Askaで出力されている他の分析結果の図を参照しています[*3]。
ちなみにこの記事は、Askaの関係者が事例紹介を通してAskaの広報活動をしているものです。私がAskaを推すのは、ステマではなく通常の宣伝活動なので、そこのところよろしくお願いします!

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[*1] 本調査では、回答提出後に、口コミ投稿者は処罰の対象にはならない旨をお伝えしています。
[*2] ただし少なくとも、明らかに「ステマ規制と関係ない違法性なのでチェックしない」という行動をとった人は多くはありませんでした。
[*3] なので、「この図の結果からそんなことは分からないだろ」と怒らないでください。添付の図だけからは言えないことも書いています。

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