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データ・ドリブン・コンプライアンスのすすめ―コンプライアンス・データの収集方法(1)ー

1. はじめに

 みなさまは、自社海外拠点のコンプライアンスの状況について、どの程度把握されていますか?なんとなくの把握に留まり、本社では現地の実際の状況がよくわからないと、不安を感じている企業も多いのではないでしょうか。
 AsiaWise法律事務所では、これまで、海外拠点において現地従業員のコンプライアンス違反に足元をすくわれる企業を、数多くサポートして参りました。そういった活動を通じて見えてきたのが、日本企業に共通する課題として、本社と海外の現場とのコミュニケーションが不足していることで、本社が現場の状況を十分に把握できていないという状況があるということです。その結果コンプライアンス違反の発生を許してしまうというメカニズムがあるようにみえます。
 そのような経験から、私は、コンプライアンス違反の発生を防止するためには、現場の声やコンプライアンスの状況を、「見える化」することが必要であると考えます。皆さんが健康診断などで健康状態をチェックするように、企業も、現場の実情を正確かつ客観的に認識することではじめて、コンプライアンス施策の方向性が具体化され、ひいては不正に負けない健全な組織(Corporate Wellness)を実現することが可能となります。

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2. 「データ・ドリブン・コンプライアンス」のすすめ

 最近、DXは企業変革の旗印となりつつあります。デジタル技術が企業のビジネス自体を変えていくなか、コンプライアンス分野においても、デジタル技術を活用することは有用です。特に、コンプライアンスの現状の「見える化」のためには、データを活用することが非常に有効であり、各企業が優先的に検討すべき課題であると考えます。
 実際に多くの企業が、積極的にコンプライアンス活動をしているのに思うような結果が出ない、という悩みを抱えていらっしゃいます。結果に結びつかない大きな原因の一つに、コンプライアンス業務において、「あるべき論・根性論」のような主観的・定性的な議論が先行し、客観的・定量的な現状の評価が行われていないという点があります。それでは、本当に解決すべき課題を認識できないからです。体調不良が続いているのに医師の診断を受けずに自己診断・放置しているようなもので、それでは大病に気づくことができないのです。
 そうした状況に陥らないためにも、企業の内部に存在するコンプライアンス関連データを収集して分析することで、コンプライアンス施策を定量的に検証することができるようになれば、問題の真因を見極めて根源からの解決につながると考えます。
 コンプライアンス業務の改善の方向性についてはすでに様々な議論がなされているところですが、向かうべき方向性は、「あるべき論・根性論コンプライアンスからの脱却」です。そして、データから抽出した事実に基づき、客観的・科学的・論理的にアプローチすること、すなわち「データ・ドリブン・コンプライアンス」を実現することが、今、必要であるといえます。
 本連載では、企業グループが海外子会社を含めたグループ全体のコンプライアンスを実現する上で、データをいかに活用することができるか、そのためにどのような方法が考えられるのかというテーマについて、検討を重ねて参ります。


3. コンプライアンス・データの収集方法

 「データ・ドリブン・コンプライアンス」を実現しようと考えた場合、いくつか考えなければならない問題が生じます。
 まず、コンプライアンスに関連するデータといっても、具体的にどのようなものを集めればよいのかという問題があります。次に、そのようなコンプライアンスに関連するデータを、いかに効率的に集めるかという問題があります。最後に、収集したデータを、いかに具体的なアクションにつなげるかという問題があります。

「データ・ドリブン・コンプライアンス」のポイント
①内容:どのようなデータを集めるのか?
②方法:データをどう効率的に集めるか?
③活用:そのデータをどう活用するのか?


 本稿では、特にポイント②に注目して、「必要なデータをいかに効率的に集めるか」という点について考えてみます。

 コンプライアンスに関連するデータの取得方法としては、例えば、社内の相談窓口や定期的な意識調査、さらには監査部門による監査等、いくつかの方法が考えられます。これまで多くの日本企業では、こうした方法で収集したデータはそれぞれ独立して管理され、別々に活用されてきたのではないでしょうか。
 各取得ルートの特徴と、当該ルートで取得しやすい(向いている)データについては、以下の図表をご参照下さい。

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 内部通報や社内の相談窓口に寄せられる相談は、具体的な違反事例や、いわゆるヒヤリハット事例を含むものであり、貴重なコンプライアンス・データ・ソースになると考えられます。他方で、事例(データ量)が限られ
ているため、それのみで全体的な傾向や体系的な遵守状況を理解することは、困難といえます。
 定期的な意識調査やアンケートは、全体的な傾向を把握するには有用ですが、ここで収集したデータからでは、コンプライアンスに関する問題の根源(根本的な原因、真因)に遡るためのつっこんだ検討をするのは難しい
という問題があります。
対照的に、監査部門等による監査結果は、問題の根源に迫る上で非常に価値のあるデータですが、監査担当者の業務知識の偏りや監査技術の不足、人員・時間・経費といったリソースの限界から、表面的なデータ収集にと
どまってしまうという問題があります。
 以上のとおり、コンプライアンス・データの取得方法はいくつかあるものの、それぞれ得手、不得手があるため、別個に活用するのでは、せっかくのデータを生かしきれません。
 データを最大限に生かすためには、複数の方法を有機的に使い分けてデータを集め、別々に集まった情報を適切に統合、活用することが重要です。そのためには、必要なデータとそれを取得するための最適なルートをマッチングさせること、得られたデータをうまく結合させて不純物を取り除き、使える燃料に精製することが必要となります。

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4. 最後に

 私たちは、「データに基づくコンプライアンス(Data-driven Compliance)」というコンセプトを実現するため、「CorpWell」サービスの開発に着手いたしました。今後も、日本企業のために、不正に負けない健全な組織(Corporate Wellness)を実現するサービスを提供してまいります。  
 連載次回は、「必要なデータをいかに効率的に集めるか」という問題について、より深堀りして検討したいと思っております。

AW Letter vol.23 より転載


データ・ドリブン・コンプライアンス序論
―コンプライアンス・データの収集方法(1)―

著者:久保 光太郎
AsiaWise法律事務所 代表パートナー
弁護士(日本)
<Career Summary>
米国、インド、シンガポールにおける9年に及ぶ経験をもとに、インド、東南アジア等のクロスボーダー案件(現地進出・M&A、コンプライアンス、紛争等)を専門とする。
<Contact>
kotaro.kubo@asiawise.legal
www.asiawise.legal

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