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データ・ドリブン・コンプライアンスのすすめーデータとして集めるべき内容(外部のコンプライアンスデータ)FCPA/UKBAに関する執行状況ー

  • グローバル企業にとって、贈収賄問題はコンプライアンス上の重要な課題とされています。この問題に関連する法令として、アメリカの海外腐敗行為防止法及びイギリスの贈収賄禁止法は常に注目されています。自社の贈収賄問題に対応するために、これらの法令の執行状況をフォローアップする必要があります。

  • 本稿は、アメリカの海外腐敗行為防止法及びイギリスの贈収賄禁止法をめぐって、最近の執行状況についてデータを通じて紹介します。

1.   はじめに

企業のコンプライアンス状況の「見える化」のためには、データを活用すること、いわゆる「データ・ドリブン・コンプライアンス」は有効であると考えられます。ここにいうデータとは、企業の内部のデータのみならず、外部のデータを活用して、リスクの所在を見極めなければなりません。

本稿では、活用すべき外部データの一例として、贈収賄に関して、アメリカの海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act.以下、FCPAという)およびイギリスの贈収賄禁止法(UK Bribery Act.以下、UKBAという)の最近の執行状況を紹介します。


2.   FCPA/UKBAの概要

①    FCPAの概要

1977年に成立したFCPAは主に、贈賄禁止条項(anti-bribery provisions)と会計・内部統制条項(accounting and record-keeping provisions)という2種類の規制から構成されています。外国人や外国企業による贈賄行為、アメリカ国外における贈賄行為にも適用される可能性があり、適用される範囲は極めて広いとされています。

主な執行機関は、刑事手続を執行するアメリカ司法省(Department of Justice. 以下、DOJという)および民事制裁金を課し、違反者の責任を追求するアメリカ証券取引委員会(Securities and Exchange Commission.以下、SECという)です。

規制の内容について、適用対象者が①営業上の利益を得る目的で、②汚職の意図をもって、③外国公務員等に対して、④利益を、⑤供与する申出を行い、供与し、供与の約束をし、又は、供与の承認をすることを促進する行為を禁止しています。なお、FCPAは、公務員の機械的な業務(ビザの発給、郵便サービス、電話・電気・水道等)に関して行われる円滑化のためのファシリテーション・ペイメントについて、処罰の対象から除外しています。

 FCPA違反の制裁について、法人に対する200万ドル以下の罰金、個人に対する25万ドル以下の罰金または5年以下の禁固刑及びその科料という刑事罰があります。ただし、選択的罰金法に基づき、裁判所は罰金刑の上限を引き上げることが可能です。

②    UKBAの概要

2010年に成立したUKBAの適用対象について、イギリスで設立された企業のみならず、イギリスで事業を展開している日本企業にも適用される可能性があります。また、民間人に対する贈賄についても規制の対象となります。

 UKBAは主に次の行為を禁止しています。すなわち、①贈賄行為、②収賄行為、③外国公務員に対する贈賄行為、④贈賄防止措置の懈怠です。ファシリテーション・ペイメントについて、不適切な行為を誘発する意図をもって行われた場合、UKBA上の違反を構成しうるとされています。

 UKBAの制裁について、個人による違反の場合、10年以下の禁固又は金額上限なしの罰金が課されます。法人による違反の場合については、金額上限なしの罰金が課されます。

3.   FCPAの最近の執行状況

①    摘発件数と制裁金額の推移

ーFCPAに関する摘発件数の推移ー

図1  2017年~2021年FCPAの摘発件数の推移[1]

図1は、2017年から2021年までFCPAに関する摘発件数の推移について示しているものです。

図1によりますと、2017年から2019年までの期間にFCPAの摘発件数については増加傾向にあり、2019年から2021年までの期間に摘発件数が減少傾向にあることがわかります。特に2019年、SECおよびDOJによる摘発件数について合計82件になっており、FCPA違反に対する執行は積極的に行われていることが考えられます。

ーFCPAに関する制裁金額の推移ー

図2 2017年~2021年FCPAの制裁金額の推移[2]

 図2は、2017年から2021年までFCPAに関する制裁金額の推移について示しているものです。

図2によりますと、2017年から2018年までの期間にFCPAの制裁金合計金額は増加傾向にあり、2018年から2021年までの期間に制裁金合計金額は減少傾向にあることがわかります。特に2018年に、制裁金合計金額が2,915百万米ドルに達しており、他の年よりはるかに高いことは明らかです。

②    制裁金額上位事例

ーFCPA違反の制裁金額上位事例ー

表1  FCPA違反の制裁金額上位事例[3]

表1はFCPA違反の制裁金額上位事例を示しているものです。

表1よりますと、これらの上位事例についていずれも違反の継続期間が長い事例であり、10年以上違反が続いていた事例は少なくありません。また、違反が複数国において行われたとされた事例もあり、こういった事例の制裁金額もいずれも高額になっていることがわかります。


4.   UKBAの最近の執行状況

①    摘発件数の推移

UKBAについて、一部公表されていないデータがあるため、摘発事件の合計制裁金について確認できません。なお、摘発件数についても、2021以降のデータも公表されていません。本稿では2016年から2020年までの摘発件数の推移状況について、図3にてまとめています。

ーUKBAの摘発件数の推移ー

図3  2016年~2020年UKBAの摘発件数の推移[4]


図3によりますと、2016年から2020年までの期間に、UKBAの摘発件数はFCPAと比較しますと、全体的に少ない印象が見受けられます。2016年から2019年までは、毎年10件程度に留まっており、2020年にはわずか5件となります。


②    制裁金額上位事例

ーUKBA違反の制裁金額上位事例ー

表2 UKBA違反の制裁金額上位事例[5]

表2はUKBA違反の制裁金額上位事例を示しているものです。

表2によりますと、これらの上位事例は基本的に制裁金額が高いことが特徴として指摘できます。そのうち、トップ位置を占めているRolls Royce社については、違反行為が7カ国に及んでおり、制裁金額として4兆円にものぼるものとして大きく注目されています。

5.   日系企業の処罰事例

日系企業として処罰された一部の事例として、表3にてまとめています。なお、これらの事例はいずれもFCPAに違反されたものとされており、UKBA違反に関する事例は確認できていません。

ー日系企業の処罰事例ー

表3 日系企業が処罰される事例

表3によりますと、これまで、FCPAに違反して処罰された日系企業として、いずれも創業歴史が長く、グローバル事業の展開に熱心な企業であることがわかります。また、関与している国や地域として、アジア、アフリカ又は中南米など発展途上国がほとんどであることが特徴として挙げることができます。制裁金額についても、決して低いものとはいえません。

こういった日系企業の処罰事例に関するデータは、現在グローバル的な事業を展開している企業にとって、海外子会社のコンプライアンス体制を検討する際に重要な素材になることが考えられるでしょう。


6.   終わりに

本稿では、FCPA及びUKBAの最近の執行状況について紹介しました。従来、コンプライアンス体制の構築はルールとして社内規程等を通じ行うものと認識されてきましたが、私たちは「ルール」に従えばそれでよしというものではなく、「データ」に依拠すべきと考えています。また、ここにいう「データ」とは、企業の内部データのみならず、上述のような「外部データ」も含まれることを認識する必要があります。このように、「内部データ+外部データ」の組み合わせによって構築される「データ・ドリブン・コンプライアンス」こそ、健全な組織が実現すべきものでしょう。

なお、AsiaWise Groupは、近年のトピックにおける各国規制動向をリサーチし、関心のある企業に対して毎月情報提供をしています。例えば、人権に関連する規制について、EU、米国、日本等をリサーチし、最新動向に関する情報を提供しています。経済安全保障に関連する規制についても、EU、米国、中国等の動向をリサーチして情報を共有しています。また、必要に応じて、ローカル規制に精通した現地弁護士とも協力して対応しています。ご興味のある方は、ぜひAsiaWise Groupまでご連絡ください。


以 上



[1] 出典:https://www.sec.gov/enforce/sec-enforcement-actions-fcpa-cases

https://www.justice.gov/criminal-fraud/enforcement-actions

[2] 出典:https://fcpa.stanford.edu/statistics-analytics.html?tab=5

[3] 出典:https://fcpa.stanford.edu/total-sanction.html

[4] 出典:https://assets.ey.com/content/dam/ey-sites/ey-com/en_uk/topics/forensic-integrity-services/uk-bribery-digest-edition-14.pdf

[5] 出典:https://assets.ey.com/content/dam/ey-sites/ey-com/en_uk/topics/forensic-integrity-services/uk-bribery-digest-edition-14.pdf

AW Letter vol.25より転載


データ・ドリブン・コンプライアンスのすすめ
――企業の外部データの例:FCPA/UKBAに関する執行状況――

著者:久保 光太郎
AsiaWise法律事務所 代表パートナー
弁護士(日本)
<Career Summary>
米国、インド、シンガポールにおける9年に及ぶ経験をもとに、インド、東南アジア等のクロスボーダー案件(現地進出・M&A、コンプライアンス、紛争等)を専門とする。
<Contact>
kotaro.kubo@asiawise.legal
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