AIを使った小説が文学賞の選考を通過した話

AIを一部使った小説「壊れた用務員はシリコン野郎が爆発する夢を見る」が、第1回かぐやSFコンテストの最終候補に選ばれました。

私の知る限り、AIを使った小説が文学賞で選考を通過したのは、第3回星新一賞一次選考通過の「コンピュータが小説を書く日」以来、史上2作目ではないかと思います。

本稿では、どのようにAIを使ったのか、それから野暮にならない程度に裏話を書いていこうと思います。

どうやって書いたか

「壊れた用務員~」で使ったAIは、OpenAIが開発したGPT-2という文章生成モデルを使っています。「GPT-2は危険すぎる」などと言われてニュースにもなっていたのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、小説のあらすじを生成することを目的として、100~120字の文章生成をGPT-2(+小手先の工夫)で行いました。「100~120字」の理由は、私がTwitter小説を多く書いた経験があるので、そのノウハウを生かしやすいからです。

学習データには、私の書いたTwitter小説数百編を含む自作の小説と、青空文庫の作品を幾つか選んで使いました。

そうして得られた文章の中から、実際にあらすじとして使えそうなものを人間が選びました。

採用したのは、以下の文章です。

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生徒と歩きました。生徒というものは、あの人たちのことでありますよ。答案用紙にとって力いっぱいとしての愛情を心得ているようなものです。教師材料が控室へ入ります。アンドロイドが、研究にしてしまったことが起こらなかった。

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実際のところ、あらすじと呼ぶのは難しい文章ですが、「教師材料」という言葉がアイディアとして面白かったので、これを採用しました。

これを元ネタとして、あとは全て人間側で担当しました。
完成した作品は、以下のリンク先で読むことができます。

ざっくり言うと、今回使ったAIは、登場する人・物と、それらのアクションのストーリー上の並び、世界観を大雑把に担当した形です。
一方、人間側では、問題意識や間テクスト性、伏線の配置、本文の執筆を担当しました。

この辺は、いわゆる「AIが小説を書けるようになった時に、人間はどこで勝負できるか」という議論に対して、一つの材料になるかもしれません。
もちろん、今回人間が担当した部分もAIができるようになれば、より人間が勝負できる土俵は狭くなっていくと思われます。

実際、小説執筆支援アプリ「BunCho」さんでは、今回私が使ったAIよりも小説らしいあらすじと文章を生成することに成功しています

私がBunChoさんを使って小説を書いている様子を動画にまとめているので、ご興味があれば参考にしてみてください。

AIの支援を受けながら小説を書くことは、もはや特別なことではなくなりつつあると言っていいでしょう。

裏話など

ここからは二、三の裏話になります。

「用務員~」を書いた時に頭にあったのは、「今の画像認識や自然言語の意味抽出において、学習データから得られた特徴量をAI自身が捻じ曲げようとしない」という問題意識でした。
ロバート・シェクリーの「残酷な方程式」では融通の利かないアンドロイドが登場しますが、今のAIはまさしくそれだと感じています。

「AIには、自己の欲求に応じて認識を歪める能力が必要なのではないか」、というのが私の今の考えであり、エンジニアに対する挑戦状です。


また、恥ずかしい話ではありますが、今回かぐやSFコンテストにはもう一つ応募していた小説がありました。
これは実はAIを使っていない小説で、コンテストの傾向が分からなかったので、流行りものをやってみようという単純なノリで書いた百合ものでした。

実は、もう小説を書くAIを開発するのも限界だからやめてしまおうか、と思っていたので、自分一人で書いた小説がいいか、AIと協力して書いた小説がいいかという占いをしてみた訳です。

しかし蓋を開けてみれば、AIと協力してやりたい放題やった「用務員~」を最終候補に選んで頂きました。
匙を投げようとした手を止めて頂いたような気がして、ちょっと泣きました。
もう少し、頑張ってみようと思います。

私の夢は、小説執筆をAIに支援してもらうことを当たり前にすることです。
AIによって一人一人が書ける小説の量が増えれば、腕のある兼業作家の方は専業になりやすいんじゃないかと思っています。
全体として良作が増えれば、市場全体の活性化にもつながるかもしれません。
これも全て、歪んだ眼鏡をかけた筆者の夢でしかありませんが。


それではこの辺で。
最後に、「用務員~」を書く上で意識した作品を2つ載せて、締めとさせて頂きます。

「やさしく雨ぞ降りしきる」レイ・ブラッドベリ
「ゆきとどいた生活」星新一

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