オフ大会が赤字になるわけがない

オフ大会運営の収入は、参加者と参加費の掛け算で算出できる。
オフ大会に最低限必要な支出は、会場費と設備費から算出できる。

自分はオフ運営に、大規模も小規模も含めて関わっていたけれど、オフ大会の運営が赤字になるわけがない。なぜならあらかじめ、収入と支出の範囲が決められているからだ。こんなに分かりやすいお金の出入りは中々ない。

仮に大赤字になることがあるとすると、台風や、その他の災害で当日大量キャンセルが起こり、当日キャンセルでも返金などの仕様だった場合だろうか。そもそもオフ参加者の数を読み間違え会場を大規模に設定しすぎた場合や、事前に予定していた日に公式からイベントが告知され、そちらに需要が奪われるなども考えられるが、これらのケースは浅慮や数少ない偶然が引き起こすものであり、今日は無視する。


最近、Twitterでよくオフ大会が赤字になる話や、その赤字を自腹で主催が負担している話、それらを受けてオフ大会の参加費をあげるべきだ、いや維持するべきだみたいな話を見かけることが多かったのだが、まず勘違いしないでほしいのは、オフ大会の運営のみを目的とした場合、赤字が発生することはほぼないということだ。

理由は上記の通り、参加者と参加費の掛け算で収入が算出できるから。その収入の範囲内で会場費や設備費、名札などの細やかな備品の費用を事前に想定し準備を行うため、赤字の発生はありえない。

ではなぜ赤字が発生するのかというと、これはオフ大会の健全な運営以外の、主催者や関係者の思惑が入ってくるためである。

こういう書き方をするとまるで悪いことかのように思えるが、例えば自身が中枢に関わっていたファクトリーオフでは“参加者全員に配布する、記念バッヂ”が存在した。これはオフの運営と何ら関わりのない不必要なものであるが、これが支出の中でも目を引く割合を占めていたことが記憶にある。

そのバッヂは、主催が参加者に対して何かオフに出たことの記念になる、形の残るものを作りたいという“思惑”によるものだが、このように、主催や運営がそのオフ大会に何か特別な付加価値を与えたいと思った時に、オフ大会の支出は基本の『参加者×参加費の範囲内で、支出を考える』という構図から外れていく。

お酒を飲めるオフ大会“へべれけオフ”では、大会の勝者に主催がプレゼントを贈るために、自腹を切っていたため赤字になっていた。そのプレゼントはオフに対する付加価値であり、こういった価値の後付けによる支出が、赤字の大部分となっているはずだ。

昨今の、赤字が話題になっているオフ大会には、様々な思惑が絡んでいる。

特に、近頃はYoutuberが主催運営をしていたり、招待選手という制度を採用しているオフ大会も多く見られ、以前までのようなオフラインでの公正な対戦の場ではない、ファンミーティングのような形式に近いオフ大会が増えている。そして昨今の赤字が話題になっているオフ大会は、この形式だ。

ポケリーグとか、シングル厨とかね。

ニコニコ動画の投稿者を運営として開催していたファクトリーオフはそもそもオフ大会の中ではかなり例外的な立場だったけれど、今や大規模なオフ大会といえばYoutuberグループやその関係者が主催運営するのが当たり前となっている。

実際には、開催されているオフ大会の数と比較すればそれらのファンミーティング形式のオフ大会は割合としては少ないが、話題になりやすさの差でファンミーティング・オフが圧倒的に勝る。

だからオフ大会に関する赤字の話題ではほとんどがそちらの話をしていて、いわゆる一般的なオフ大会に関連する小さな“普通のオフ大会では赤字にならない”という声は広まっていなかった。

普通のオフ大会の関係者は、ファンミーティング・オフが“ポケモン対戦オフ”の名を借り、参加費を上げ、配信や当日のイベントなど大掛かりなものを行い、ゲストを招いて大会を開催をするのが“普通”であるかのようになってしまうと、自分たちの小規模なオフ大会に需要がなくなることや、オフ大会の新規開催が減ることなどを危惧しているように思えた。

その懸念がどれだけ正しいかは分からないが、少なくとも彼らは、普通の対戦オフが赤字にならないことを知っている。

と同時に、本来、オフ大会が黒字にならないことも知っている。

赤字ではないのに黒字ではないとはどういうことかと思われるかもしれないが、そもそもオフ大会は慈善活動、趣味の活動で、主催や運営の懐には一円も入っていない場合が多いはずだ。少なくとも、主催運営に利益として支払う分の金額を事前に含んでいるオフ大会は、見たことがない。交通費や宿泊費ですら自費負担のことがほとんどなのではないだろうか。当日の運営に対する賃金や交通費を支給しているオフ大会、それを決算報告で詳らかにしているオフ大会は、見たことがない。

オフ大会の運営は、インターネット上で主催が集めた、主催と親しい人の中から選抜されているケースが多い。出会いの順序は逆かもしれないが、そのためか、関西のオフに関東から運営をしに行くというケースもある。だけど、オフ運営の仕事は基本的に、“その人にしかできないこと”ではない。極稀に、ポケモンオフの人材にもそういった能力を持っている人はいるが、ほとんどのケースで、特に当日会場で働く範囲においては、代替の効く仕事が多い。

そんな中で、主催の知り合いだからと関西から関東に呼ばれた、代替の効く人の交通費や宿泊費を払うことに、参加者全員が納得がいくなどほぼありえない、少なくとも俺は納得いかない!……という架空の人物を恐れて、オフ運営は細やかに収支に配慮し、大きな黒字を出さないように怯えていた風潮すら、かつてのオフ大会では感じられた。その結果、三~四桁の小さな赤字を負担するケースは、頻繁にあったように思える。

ポケモンのオフ大会で大きな黒字を出すのって、あんまよくなさそう。

それでも、普通の人たちが普通のオフ大会を開催していたのはオフ運営を通じて新しい交友関係を作ることや、ポケモン村のステータスにおいてオフ主催や運営というアイデンティティが活きることなど、様々な思惑があったからだろう。コミュニティに貢献したいことやオフ大会を楽しみたいというのも、もちろん思惑の形だ。彼らのお陰で、健全なポケモン対戦オフは今日も維持されている。

ひるがえって、ファンミーティング・オフにも様々な思惑がある。

ここで最も悪意的な解釈は、“Youtuberはポケモン対戦で飯を食っているのだから、オフ大会の運営で大会を活性化させることは慈善活動やコミュニティへの貢献ではなく、単に自分の生活を安定させるための行いだ”というものだろうが、オフ大会の存続は、ポケモン対戦コミュニティの存続と直結しないため、そこまで重要ではない。

節税や直結目当てだといったほうがよっぽど真に迫っていると思うし、それらの思惑も当然あるのだろうが、それは今回の本旨とは外れる。オフ大会に潜む思惑は、支出から逆算できるというのが今日の主張だ。

ここからは例え話だが、例えば、オフ大会で使用される“名札”というものがある。これは紙切れにインクで文字を印字しただけのもので、その気になれば家でも作れるが、今は業者に頼むのが主だろう。一般的に想定される“名札”を思い浮かべていただければ、間違いはない。この名札の制作費用は、一万円もかからない。

だけど、とあるオフでこの名札の制作費用が五万円になっていたとする。

規模が大きいオフ大会になると、この名札には、オフ大会専用のイラストが描かれていることがある。その場合、名札のイラストを描いてもらうのに四万円が掛かっていたということになるが、そのイラストの作者の絵は、到底、客観視するに四万円分の価値があるとは思えない。そして調べてみると、その名札の制作者はオフ主催の知り合いであり、さらによく見れば、そのオフの運営の一人と交際している女性だった。

主催はYoutuberとして動画で月50万円稼いでいるが、オフの運営はポケモンをしているだけの無職で、主催はその無職と付き合っている女性とも知り合いである。また、主催は無職に強いポケモンの情報を教えてもらうなどの形で、世話になっている。このオフ大会は名札の費用を含めて十万円ほどの赤字があったが、そのうちの四万円は実のところ“普段からポケモンを教えてもらってお世話になっている代”であり、オフの運営と何ら関与しない。他の六万円の赤字も、調べてみれば同様の使われ方をしていた……というケースが、ありえる。

この例え話って、何か必要だったんですか?

こうまで複雑でなくとも、単に“主催が好きな憧れの絵師に、どうしてもロゴを担当してほしかった”のようなケースでも構わない。要するに、主催や運営のエゴや何らかの歪み、思惑が含まれている時しか、オフ大会に赤字は発生しない。なぜなら、繰り返しになるが、オフ大会の運営費は参加者と参加費の掛け算であらかじめ算出でき、その範囲で支出を考えてやりくりすることが本来は可能だからだ。だからそれらの赤字は、参加者が負担するべき費用とは無関係である。

主催の思惑が“大会を盛り上げたい”、“配信上でも楽しめるようにしたい”、“負けてからでも楽しめるようにしたい”、“会場を豪華にしたい”など、参加者にとっても得をする目に見える形で表れているから、昨今のファンミーティング・オフはありがたられていて、その感謝から出てきた言葉が「もっと参加費を上げればいいのに」なのだろうが。

コミュニティとしての問題点があるとすると、この記事で書き分けていたように、“対戦以外の付加価値を高めようとしているオフ”と、“オフラインで対戦することに価値を見出したオフ”が同じ名称で呼ばれていることぐらいだろう。

そしてそもそもこの両オフに潜む赤字・黒字の問題を解決することができるのが、詳らかな決算報告書を公開することだと思う。オフ大会の赤字報告が、一部の人から白い目や不審な目で見られるのは、普通のオフ大会では赤字になりえず、お金の流れが不明瞭だからに他ならない。

運営費や配信費などといったあやふやな記載ではなく、運営の誰の何の労働に何円、公式サイトの何のデザインに何円、配信機材のどの部分の何割に何円、持ち帰り使用するのが誰であるといった過剰なほど詳らかとされた報告を見てようやく、一般的なオフ大会に関わる方たちからは“そこにそれだけ金額が掛かるのか”と納得され、自分たちのオフにも転用し多少は負担を軽減できるだろうし、その報告が納得のいくものであれば、参加者の多くからは“であるならば、参加費を増やしていただいても構わない”と共感を得ることができるはずだ。

ポケモンの公式イベントに不信感が募り、有志によるオフラインイベントに期待する流れは、高まりつつあると思う。その中で、イベントを開催する者、イベントに参加する者、どちらも健全に活動できるといいなという話。











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