20210303
図書館では静かにしなければならないと誰から教わったのだろう。
静かにしなければならない理由としては、勉強している人がいるから、というのや、人が本を読んでいるのを邪魔しないように、というのがあるのだろうが、他に勉強していたり本を読んでいたりする人がいなかったとしても、騒ごうという気はなかなか起こらないように思われる。それもやはり誰かから教わり、それにしたがって図書館を利用してきた習慣の賜物だろうか。ぼくにはそうではないように思われる。
ぼくはまた寝ている人の近くを通るときに静かにしなければならないのを思い出す。寝ている人を起こしてしまわないように、寝ている人には寝ていてもらうために、ぼくは息を潜めて忍び足でその人の横を通過する。これはおそらく睡眠がある種の死であり、死が永い眠りであるからだ。起きられては困る。墓ではやはり静かにするものだ。葬式は一度だけれど、人の死を死たらしめるにはやはり儀式が必要で、四十九日をしたり、三回忌をしたりする。死人に死んでいてもらうために、「確かに」死んでもらうために、死者の周りでは静謐な空気を保ち続けなければならない。
図書館で静かにするのは、やはりそこに死があるからだろう。大昔に亡くなった人々の書物であり、あるいは存命であれ「作者の死」であり、本という墓標である。
墓荒らしは断行される、静かに。
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