見出し画像

ゼロ距離コミュニケーション

エスコートが上手い人に憧れる。なんか格好良くって、ええ。百貨店の大きなエレベータの中などでかれらに遭遇することがおありだろうか。私はある。「どちらへ?」どちらへ!?ぼんくらな私めはいつも「何階ですか」と機械的なメッセージを再生することしかできないが、そういう言い方があるのかあ、と、感動してうまくしゃべれずおどおどしているあいだにも、かれらが絶えず発散するこちらをリラックスさせるラベンダー色の香気。匂ふエレガンス。「すいません、八階に」

人はひとりで歩いていけると信じている派。だってひとりでエレベータに乗れるし、てくてく歩いて青年館にもステラボールにも辿り着ける。そうあって欲しいし、そうでなきゃ困るんだけど。でもふとした時すっと突然差し伸べられた手がとても掴みやすそうに見えて、腕を預けてしまうこともある。

舞台上の佐々木大光さんの手は、ひとりで歩くのにちょっと疲れてきたとき、無意識につかまりたくなってしまう手すり、肘掛け、吊り革ほか街中のあらゆる“手の置き場所”に似ていた。
差し伸べられた手の滑らかさが天性のものなのか、本人によってよく磨き込まれた結果そうなったのかはわからない。が、黙っている時の体があんなにいっとう雄弁なのは、その人が、相手の心の声に深く深く集中しているからではないのですか。一緒に踊る人が何を聴いて、何を見て、何を感じているのか。いつも最短距離で理解しようとスタンバイしている彼だからこそ、ペアの踊りがシームレスに物語になるんでしょうね。コミュニケーションが始まるとき特有の、時差?が極限まで削ぎ落とされていて、それが全く押し付けがましくない。格好良い……あんなに踊れなくても良いからせめてそういう甲斐性のある人間になりたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?