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自由自在に不自由〜『二十面相』初日に寄せて〜

2021年6月19日
モボ朗読劇『二十面相』〜遠藤平吉って誰?〜
初日を観劇した感想です

線を引いて色を塗ることで完成する絵画のような演劇と、素材のかたまりからモチーフを削り出して像にする彫刻のような演劇がある。モボ朗読劇『二十面相』はたったいま目の前で削り出された氷像だった。
誰もが誰もになることができる。と思う。演劇が演劇である以上、あなたにしかできない役は存在しない。あなたが消えてゆくことはできない。あなたが溶けてしまうことはできない。
かといってあなた自身を見ていたとも思わない。あなただけを見ることはできない。フィルター無しのレンズであなたそのものを写しとることができるとは思えない。
氷ははじめ半透明で、表面が溶けて透明になってゆく。氷に触れてみると、触ったところから熱が伝わる。形が変わる。あなたにしかできない役は無いと言ったけど、氷のガラスの向こうにあなたがいるから、わかることがある。あなただけの温度が、あなただけのスピードで氷を透明にしてゆく。溶かしていく。元あった氷は誰もが作れるかたちをしていたとしても、それはあなただけの速さで溶けて水となり、床に落ちて輪郭を描く。それはあなただけの、あなただけが成し遂げたことの証拠なのだと、どうしたって伝えられないことを伝えたくてたまらなくなりました。初日おめでとうございます。怪我なく千秋楽を迎えられますよう。

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