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夢の城の囚われびと、あるいは愛しのエンタテインメント

ミュージカル・ショー『SEVEN‐シンドバッド7つの航海‐』大千穐楽、おめでとうございます。宝塚が好きで、(自担がいつもお世話になっている)嶺亜さんも好きで、あとユカイさんは私の胎教でもあったのでこれは観たい~と思って軽い気持ちで品川に向かったが最後、その場で夜公演のチケット手配したり平日有給取って見に行ったり、なんかよくわかんないけど東京前楽、楽で号泣して公演イメージアクセサリーを購入したり、挙句の果てに大阪まで行って哀れな恋の奴隷になりました。後述しますが黒田光輝さんという絶対的なご贔屓と出会ってしまったことと同じくらい、『シンドバット』という舞台に、物語に、束の間触れていられたことが何にも代えがたい喜びでした。正直これから死ぬまでシンドバット以上に好きになれる演目にはもう二度と出会えないような気がして空恐ろしかったのですが、日々公演のことを考えていたら意外とそんなことないかも!エンタメ最高!の気持ちになったのでつらつらと書いてみます。俺たちのコンパスは、この熱いハートなんだ!

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三木先生あるあるなのか、音楽とテンポの良さ(そして特に理由はなくてもラテンで盛り上がってしまうヅカオタのさが)で、『シンドバッド』もある程度までは何にも考えないでただただ楽しむことができるようにつくられていたと思うんですが、その割に不穏な歌詞と演出、そして回収されない伏線が多い。特にナルシス観るために通ってたようなものなのに何もわからないのが悔しすぎて、東京楽後に反省会(スぺサン→嶺亜会のお姉さま)した結果たどり着いた私なりの読みがこれなんですが、

ナルシスの場面、アルスソロの「お前のそのダンスに憧れて俺は無我夢中さ」以下の歌詞がまったく理解出来なくて、そもそもこれがどういう場面かすらわかっていなかったのだけど、もしかしてナイチンゲールちゃんを失ってひとりになる→足を傷だらけにして走った→「まともな狼はオーロラなんか見ない、それに氷の鏡も」てことはこの時点でアルスは大きな喪失と果てのない孤独に気をやられてしまい→氷の鏡に映った自分(白いスーツ)と踊り出してしまう→乖離/トランス状態から脱出できずに鏡の中の自分の方がナイチンゲールを連れて現実に出ていってしまう→ソロは氷の鏡の中に取り残されたアルスくん(影と入れ替わってしまった)ってことなのでは?だとしたら「決して有り得ない奇跡が俺」とか「俺はお前の完璧なコピー」「俺はシャドウ」とかも全部腑に落ちる。現実と幻が入れ替わってしまう話なのか????これってしかも物語の内外を自由に行き来するシンドバッドの異様さともつながっている気がする

わしのTwitterより

仮に『シンドバッド』が現実と幻の関係性を描いた演劇なのだとしたら、幕開きの影ソロがみほこさんで、それからシェヘラザード(さえこさん)が出てくるのもすごく作為的な演出なんじゃないかと思った。囚われ人の塔の場面ではみほこさん演じるイザベル姫が「海も見えない天守の小部屋に囚われ」「優しい風が運んだ甘い花の香り 風が伝えてくれるはず私の苦しみを」と歌うけれど、(三木先生版の『シンドバッド』では)シェヘラザードという女はもしかして実在しなくて、その正体はイザベルの吟じた物語内の語り手なんじゃなかろうか。奇しくもイザベルとシェヘラザードの境遇は似通っていて、しかも途中でシェヘラザードとシンドバッドは「シェヘラザード様」「シンドバッド」から、「シェヘラザード」「シンドバッド」へと明らかにフィールドが近づいていく。これはこの二人が(三木先生版においては)語り語られるだけの関係性ではなく、「アラビアの夢ともに見つめよう」と背中を預ける仲間=並列の関係であることを強調しているのでは。とすると「シェヘラザードの物語を語る女」という上位存在が必要となるので、「囚われ人の塔」伝承のイザベル姫にその役割を与えたんですね。(だからこそシンドバッドというイザベルが作り出した物語の主人公に「お前たちを待つのは嵐、疫病、難破……」と説教するアブルハサーン王は、他ならぬシェヘラザードを演じていたさえこさんがやる以外ない。しかしそれだと語る女:シェヘラザードが語る物語「囚われ人の塔」のイザベル姫がこの物語全体を語っていることになるわけで、物語は語りつくされることなく、無限に続いていく……『シンドバッド』じゃん!!!!!終わらない物語という海に出航した7人のお話なのじゃん!!!!!(一旦号泣)

話が戻りますが、主題歌の「世界はなんて広い ひと目見てお前は 満たされた 愛と夢 まだ見ぬ新世界へ」の歌詞がとっても好きです。宝塚でもよくお披露目ショーなどでスターさんの未来を冒険や航海に例える歌詞が登場しますが、今回は「海」,そして「夢」がエンタテイメントそのものの暗喩になっているような気がした、これぞ宝塚のロマン!!!!!三木先生ありがとうございます!!!!!「住み慣れた故郷の暮らしよりも、危険な海の航海が恋しくなってしまう」「夢の城の囚われ人」たちに改めて心から感謝と尊敬の念を抱いた公演期間でした。願わくばその航路に、夜の照らす星々のように美しく心強い光があり続けることを願っています。

おまけ
計24時間は余裕で友人たちと『シンドバッド』俺の解釈バトルを繰り広げているのにいまだ話題が尽きないの、幸せすぎる。年1で再演してほしい!

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