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【感染症情報】ルワンダでアーテミシニン耐性株のマラリア出現

(ポイント)
●第一選択治療薬アーテミシニン耐性のマラリア原虫株がルワンダの複数コミュニティで確認された。
●この耐性株がアフリカ大陸で蔓延した場合、5年間で7,800万人の患者増と116,000人の超過死亡が生じる可能性がある。

 病原微生物の薬剤耐性(AMR)は全世界的な問題であり、対策を怠れば2050年にはAMRに伴う死亡者が年間1,000万人を超える、と警告されています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000189799.pdf

 新型コロナの例を挙げるまでもなく、画期的な新薬や効果的なワクチン誕生には莫大な費用と時間、人類の叡智及びセレンディピティを要するため、耐性菌の問題を広げないためには、適切な薬剤使用と感染対策を徹底する必要があります。以下は、東アフリカのルワンダにおける薬剤耐性マラリアに関する情報共有です。

(ソース)

https://www.nature.com/articles/s41591-020-1005-2

 現在マラリアの治療には、その高い治療効果と副作用の少なさから、アーテミシニン製剤をキードラッグとした薬剤併用療法がWHOやCDCのお墨付きの下推奨されています。
 全世界のマラリア患者のうち、90%超が発生するアフリカ大陸では、これまでこのアーテミシニン耐性マラリアの報告はほとんどなかったのですが、この度ルワンダでアーテミシニン耐性遺伝子変異を有するマラリア原虫が、100km離れた2つのコミュニティで一定割合(0.7と7.4%)発見された、との論文が、WHOやコロンビア大学など複数の研究グループにより米国の医学雑誌nature medicineに掲載されました。2008年来東南アジアで発生しているアーテミシニン耐性株とは遺伝情報が異なり、現地で独自に発生したようです。
 著者らは、今後適切な対策が取られずにこの耐性株がアフリカ大陸に広がれば、5年間で7,800万人マラリア罹患者が増え、116,000人の超過死亡が生じる可能性があると論文内で警告しています。

 論文によれば、現時点で臨床上の治療失敗や死亡者の上昇が認められたわけではなく、あくまで現地の蚊に寄生するマラリア原虫を実験室で調査した結果の報告ですが、ルワンダ内の100km離れた土地(人口の多い首都キガリの近く)で同様の耐性株が発見されているということは、既にそれなりの広がりを持って分布していることが予想されるため、論文で懸念されている事態は杞憂である、とは言い切れません。現時点でマラリアには有効なワクチンが存在しないため、現実的な対策として、同地域における殺虫剤による蚊の駆除や蚊帳の配布、DEET使用、予防内服、長袖着用など防蚊対策の徹底が望まれます。

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