星屑とおでんを君に。

お題「街中」「相方」「宇宙人」

「星屑の街に遊びに行かないかい?」と僕。
「随分久しぶりな気がするねぇ。前に行ったのはいつだったっけ。まあ、良いか、うん、行こう」と彼。
星屑の街はこの彗星街から歩いて20分くらいの所にある豪奢、というほどでもない規模の街だ。僕とアレティアは星屑の街でしか食べられないおでんが大のお気に入りである。尤も他の街でおでんを食べたことはないから、サンプル数は2だけれど。
「こう寒い日が続くと、あの味が恋しくなるよねぇ」と言いながら外套を羽織って早々に歩き出す彼。置いていかれないように僕も二重回しを手に取って追いかける。「ちょっと待って、アレは歩くの早いんだから」と言いつつも、アレティアが早足になる理由は僕もわかっている。それほどにあのおでんは魅力的なのだ。
 ところで、僕たちの仕事は、例えば警邏だったり、巡回だったり、まあそういった街の治安維持だ。いやしくも公務員である僕らであるが、しかし彗星街よりも治安の悪い星屑の街に出向く、という事実からもおでんの素晴らしさをわかってほしい。やれ最近の仕事がどうだったとか、昨日上司に叱られただのと他愛のないことを話している内に、あっという間に星屑の街の区画が近づいてきた。「着いた着いた」「ささ。さっさと店に行こうぜ」ともう僕らは待ちきれない。心はもうおでん一色、いや一食である。
 と、体に衝撃が走った。見下ろすと襤褸の外套に頭巾を被った、頭が見えた。僕もそんなに大きな方ではないが、僕よりも頭一つ分は小さい。関係ないけどアレティアは僕よりも15センチは大きい。同い年なのに納得いかない。「おっと、大丈夫かい?よそ見をしていて、すまない」そう声をかけると、上を向いた拍子に頭巾がずれて相手の目が見えた。淡く揺れる浅葱色の瞳、虹彩は僅かに金を湛えていて。思わず見惚れた。
「その眼…」とアレティアが言うが早いか、相手は頭巾を再び目深にして、立ち去ろうとした。いや、立ち去ろうとしたように思ったが、すぐに立ち止まると、おずおずと僕たちに話しかけてくる。

「ねえ、隕石おでん、知ってる?」

 そんな出会いから5分、僕たち3人は「ミーティアスのおでん」通称「隕石おでん」に来ていた。「ねぇねぇ、2人はここ、よく来るの?」と彼女クレアが聞けば、「んー、月に1回くらいかな」「今日は寒かったからついね」と答える。昔から仲が良かったかのように、自然に会話が進むのは、クレアのキャラクタもあるが何よりも、そう、このおでんが原因に他ならない。
「私大根ね」「あ、僕も」「じゃあ大根3つで」と、皿が空いては追加注文する声が止まらない。出汁にダークマターとかブラックホールを使っているなんて噂が立つくらい、ここのおでんは異次元の美味しさである。「ほんっとここのおでんは宇宙一だと思う」「わかる」と喜びが止まらない。
 「宇宙一って言えばさ」と不意にアレティアが真面目なトーンで切り出す。2人でそちらを向くとこう続けた。「なんでこんな辺鄙な星に来てるんだい?宇宙人の君がさ…」
「…」沈黙。クレアにとって、あまり触れられたくない話題だったのかも知れない。ちなみに宇宙人って言うのは正しいようで正しくない。僕らも宇宙人だし、アレティアの言った宇宙人って言うのは外縁惑星の住人の総称で、その中でも浅葱色の瞳は特殊な出自を示している。セントラル・アトラス…中央王政区出身、つまりは王族であることを示す瞳である。
「私は…」思い口を開いてクレアが言葉を紡ぎ始める。「私は、3日後に中央王政を継ぐことになった。最後に父と母が出会った街で、思い出のおでんを食べてみたかったんだ」と、信じられない言葉が飛び出してきた。
「なるほどねぇ。前王は変わり者で有名だったからねぇ。食べ歩きでここを訪れててもおかしくはないか…とはいえ、街中で偶然宇宙人に会って、それが女王様とは思わなかったねぇ」それは僕も完全に同意だった。
「それとね…」とクレアが続ける。「それとね、お母さん言われて、もう一つ決めてきた」
「というと?」
「この街で最初にぶつかった異性が隕石おでんを知っていたら、その人を私の人生の相方にする!」満面の笑みで僕に言い放った。
「「はぁ!?!?」」

「この方法に間違いはない!だって私の母もこうやって父を捕まえたんだから!」
浅葱色に揺らめき、僅かに金色を湛えるその瞳に、僕はもう一度見惚れていた。

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