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あなたは戦士、あなたはサバイバー

 こんばんは。夜のそらです。

 わたしは一体誰に話しかけてるのだろう。分からない。

 でも、わたしがこうして生き延びているのは、過去のトランスやAセクの人たちのブログや動画のおかげ。それだけは、間違いなく言える。

 Twitter や tumbler は、今みんなが何を考えているのかを教えてくれる。コミュニティの雰囲気とかカルチャーを可視化してくれる。tumbler のAceコミュニティに居場所を見つけられたことは、確かにわたしの人生の救いになった。でも、Twitter や tumbler の言葉は、流れて行って消えてしまう。そこを流れて行く言葉は、心の支えにならない。それに、そこには攻撃的な人たち、差別的な人たちがたくさんいる。今のわたしにはどちらも安全でない。

 わたしが一番つらいときにわたしを助けてくれるのは、いつも YouTubeに上がっている動画たち。今週はメンタルがどん底の日があって、それも含めてジェットコースターみたいに浮き沈みしていたけれど、一昨日くらいから目が覚めている時間はずっとYouTubeの動画を観ている。Youtubeの動画は、消えてなくなったりしないし、差別的な言葉が目に入らないように自分でかなりコントロールできる。

 わたしが辛いときにいつも観るのは、Ash Hardell や Stef Sanjati の過去動画。Ashはノンバイナリークィアで、オンライン上のLGBT(クィア)コミュニティの有名人。Graceと結婚してる(Graceもジェンダークィア)。いつか二人で子どもを育てたいと言っていた。

Sanjati はトランス女性。今はゲーム実況の方に比重を移してるけど、トランス関係で本当に素敵な動画を挙げてくださっている。子ども時代の辛かった体験とか、わたしと重なることもあって、すごく大切に観ている。

Ash も Sanjati も、トランスとして色んな苦労をしながら、これからを生きるトランスのためにたくさんの有益な動画を作ってくれている。
 そんな力強い2人だけど、それと同時に2人とも自分の「弱さ」のようなものも動画にしている。2人とも摂食障害に苦しんでいるし、鬱に悩んでいることも告白していたりする。もちろん、動画では語っていないこともあるだろうし、精神の健康にかかわることまで動画の題材にするのは、もしかしたら YouTuber としての職業人のマインドなのかもしれない。でも、Ash や Sanjati のような、エネルギッシュで、パワフルで、そしてエンパワリングなトランスでも、そういう風に悩んだりしているんだ、という(仮想上かもしれないけど)等身大の姿を観ることで、「強く」生き抜かなければならないプレッシャーから観ているわたし(たち)が解放されたりすることもある。

 そんな Ash や Sanjati と並んで、今週かなり観ていたのは、Maya Henry。

Maya もトランス女性。トランジションの様子も動画に集めて公開している。Maya の動画は、メイクの動画もあるし、トランスフォビアについての動画もあるし、女性ホルモンについてのもあるし、Maya は Vegan(ヴィーガン) だからVegan 料理系のもある。最近のトレンドに関係しているのなら、J.K.ローリングへの反論など。

 そんな Maya の最近の動画で、とても励まされる動画があったので、中身を紹介させてください。この動画です ↓↓ 。

「トランス女性のあなた自身を愛する方法」と題された動画。わたし(夜のそら)はトランス女性ではないから、本当はちょっとターゲットからずれているけれど、今のわたしにとって必要な動画だった。これを観れてよかったと思う。
 この動画では、Maya 自身が自分を励ますやり方とか、トランジションのプロセスで自分を大切にするために採用していた戦略について、Maya が語っている。(00:23~02:03 はスポンサー広告なので飛ばしてOK)

Maya が挙げている6つの戦略・方法は次の通り。

1.心の内側のトランジションに栄養を与えよう。 
 
トランジションは体の外側、目に見えることに注意が向きがちだけど、外からどんな風に見られるかだけを気にしていたら、自分が誰なのか分からなくなってしまう。自分のトランジション以前から変わらない趣味など、変わらないものも大切にしつつ、どういう風に変わっていきたいのかという「内側のトランジション」を自分で見つめて育もう。自分のそのときの考え方を言葉に記録したり、動画に残したりするのもいいかも。

2.変えられないものを受け入れよう。
 
染色体や生殖の能力、骨格などは自分では変えられないもの。SNSとかを見ていると、シス女性の姿と自分を見比べたりしてしまうけれど、「女性らしさ」をシス女性と比べるのはやめよう。トランス女性は「戦士であり、サバイバー」。自分のトランジションの旅は長いものになるから、「シス女性の女性らしさ」に近づけるプレッシャーに押しつぶされないように気を付けよう。

3.支えになってくれる人たちと一緒にいよう。
 
トランジションによって社会的性別や外見、名前などが変わると、人間関係も変わることがある。と同時に、自分自身の状態に自分で自信が持てなくなることもあって、交友関係から遠ざかってしまうこともある。そんなとき、自分のことについてよく理解してくれて、サポートしてくれる人が近くにいるといいね。

4.自分を「のけ者」扱いしないこと(Don't other yourself)。
 
トランスの知名度や、トランスの権利は拡大している。時代は前に進んでいる。だから、自分のことを「周りと違って変な存在」と思う必要はないよ。トランスジェンダーは、ふつうに存在している。それに、経済的な悩みや、家族の悩み、子どもについての悩みは、シスジェンダーの人にもありうるもの。トランスだけが悩み、苦しんでいるわけじゃない。同じように、トランスだってそれぞれがそれぞれの人生を(シスの人と同様に)楽しむ権利がある。だから、社会から除け者にされた存在という風に自分のことを考える必要はない。あなたは、あなたらしく、あなたの人生を生きて。

5.パートナーからの承認に依存しすぎるのはやめよう。
 
自分の女性としてのアイデンティティを疑ってしまうとき、パートナーからの承認を求めすぎてしまうことがある。パートナーがいると良いこともあるし、心の支えにもなるかもしれない。でも、特定のパートナーに承認してもらうことが自分のすべてになってしまうのはよくない。それは、危険な関係から逃れられなくなることにもつながる。自分を大切にできる友人関係や趣味を、同時にもっておくといいね。「自分は女性だ」と感じられる理由を、特定の他者からの承認に依存させるのは、あまりよくないかな。

6.自分に優しくいよう。
 
あなたは、戦士。あなたは、サバイバー。あなたがそうして生きていることは、素晴らしいこと。あなたは、世界の殆どの人には分からないような大変な困難を切り抜けてきた。あなたは最高にパワフルで、あなたは誰よりもそのことをよく知っている。その経験はきっと、あなたに共感、忍耐、そして親切さを教えてくれたはず。そう、そしてあなたが誰よりも大切にして、誰よりも優しくすべきは、あなた自身なんだ。あなたは、こんなに頑張ってきたんだもの。

 この6つの戦略は、それぞれとても大切なことだと思うけれど、わたしがこの動画で何よりも印象に残ったのは、Maya が動画のなかで2回繰り返している、「You're a fighter, You're a survivor」というセリフ。日本語にするなら、「あなたは戦士。あなたはサバイバー」。
 このセリフによってMaya が言っているのは、「トランスジェンダーとして戦って生きていこう!」ということではない。この動画で Maya が言っているのは、「あなたはもう十分すぎるくらいたくさん戦ってきた。あなたは、その戦いを生き延びたサバイバーなんだよ。」ということ。

 このセリフを聞いて、わたしは本当に涙が出た。そうだ、と思った。わたしはずっと戦ってきたんだ、と。わたしは、死んでもおかしくない状況を生き延びてきたんだ。そんなこれまでの自分を、自分でほめてあげてもいいんだ、と。

 トランス(=非シス)ジェンダーとして生きることは、先の見えない旅を生きることだと思う。自分のアイデンティティ・ジェンダーが完全に明白に見えている人でも、トランジションのプロセスによって自分の心身がどこまで自分の思い通りになるのかは、きっと完全には分からないだろう。ましてや、これからホルモンを始める人、装いを変える人なら、なおのこと。ホルモンを始めている人、何らかのオペをした後の人だって、どんな風に自分自身が変わっていくのかは完全には見通せないだろう。そして、自分の周りの環境がどんなものになっていくのかは、もっともっと予想がつかない。
 そんなもやのかかったような旅を続けるのは、Maya も言っているようにとても大変だ。自分を見失ってしまうこともあるかもしれない。わたしだって、休職明けにどんな格好で会社に行ったらいいのか分からないし、生殖器官の一部を切除して、代わりに女性ホルモンを摂取することで自分の心身がどんな風になるのか分からなくて怖い。もちろんそれは自分が絶対にやりたいからするのだけれど、もともとの持病に(間接的に)が悪く働いてしまう可能性も0ではないので、主治医からは注意深く進めるように言われている。半年後の自分の状態すら、ぜんぜん分からないような旅だ。

 でも、そんなはっきりしない未来を悩むより先に、まずはこれまでの自分をほめてあげよう、と Maya は言っている。

 あなたは戦士。そう、ずっと戦ってきた。生まれた時に外性器をちょっと確認して適当に割り振った性別で生きるように、あなたはずっと強制されてきた。色んな違和感を押さえつけたり、抑えられなくなったりしながら、自分自身を生きてきた。それは、やむことのない戦いだったはず。あなたはただ生かされてきたんじゃない。あなたは、戦士として戦ってきた。だから今、トランス(非シス)として自分の存在を感じている。

 男女の二つの性別を分ける意味不明なルールが支配する世界で、どちらにも属することができず、とはいえ、そのときどきに色んな方法を使って、生き延びてきた。逃げるにせよ、隠れるにせよ、周りをだますにせよ、それは戦いを生き延びることだった。男女のどちらでもないあなたを、どちらかに押し込めようとする様々な圧力をかわし、はねのける。その戦いを生き延びてきた。だから今、あなたはノンバイナリー、Aジェンダー、Xジェンダーとして生きている。

 あなたはサバイバー。いつ死んでもおかしくないような戦いを切り抜けてきた生存者だ。ただ自分自身として生きようとするあなたを殺そうとする圧力を耐えしのいで、なおトランス(非シス)として自分の存在を感じている。あなたはサバイバーだ。
 だから、あなたは並の人間ではない。Maya も言っている。大半の人には理解も想像もできないような困難を、あなたは生き延びてきた。それはとてつもないことだ。その自分をまずは肯定してあげよう。これまで、よく生き延びてきたね。よく戦ってきたね。

 この記事の最初に、わたしは自分が誰に話しかけてるのか分からない、と書いた。書き終わって分かったのは、まずはわたしは自分自身に向けてこのブログを書いているということ。

 わたしは、自分に言ってあげたい。あなたは戦士。あなたはサバイバー。これまでよく生き延びてきた。

 それと同時に、もしかしたらこの記事を読んでいるかもしれない、いつかの未来のトランスジェンダー、非シスジェンダーにも、わたしはこの言葉を贈りたい。

 あなたは戦士。あなたはサバイバー。

 今日までよく生き延びてきました。まずは、そんな自分をほめてあげて。
 未来のことは分からないことも多いけれど、まずは、これまでのあなたのこと。あなたはとってもすごかった。わたしは(完全には分からないけど)、あなたがすごいっていうことが分かります。

 これからどんな未来を生きるかは分からないけれど、あなたがシス中心社会のなかで戦士として戦ってきたこと。そしてその戦いを生き延びた、誇るべきサバイバーであること。それは変わらないことだから。まずは、そんな自分をほめてあげて。よく頑張ってきたね、と言ってあげて。そして、これからも自分を大切にしてね。

 あなたは戦士。あなたはサバイバー。誇るべきあなたの人生を。そして、疲れたら、休んでね。