亡くなったのは、20代の………
こんばんは。夜のそらです。
このところまた非常に体調が悪く、もう何もかも辛いです。ぐちゃぐちゃになっていく身体(カラダ)。自分のものだとは信じたくないような醜い四肢。痛みがあり、苦しい。もう、どこが痛んでいるのか、どこか疼いているのか、分からなくなってしまった。早く入院したい。
わたしの人生の目標は、男性でも女性でもない人間として死ぬこと。
いつかわたしが死んだとき、わたしの死体を見つけた人に言わせたい。
この人は、女性なの、男性なの、どっち?
亡くなったのは…20代の………女性?男性?…… ????
この目標を果たすために、わたしは頑張って生きている。
ときどき、SRSを受けたトランスが、SRSしてすぐに自殺してしまうケースがあると聞く。理由はきっと、いろいろあるだろう。SRSによって「正しい」自分の姿になるはずが、そう感じられなかったひと。SRS後のダイレーションが辛く、今後も続くそのしんどさを受け入れられないひと。SRSをしても、思ったような社会的トランジションを伴わせることができなかったひと。SRSやその前後の出来事をきっかけにして、大切な人との関係が変容してしまったひと。SRSに必要な資金を借金したけれど、返せる見込みがなくなってしまったひと。SRSをすることが生きる目的だったけど、SRSの後の新しい生きる目標を見つけられなかったひと。そして、生まれた時に割り当てられた性別のまま死にたくない、とずっと思っていて、とうとうその願いがかなう状況になったから、いつ死んでもいいと思って死んだひと。など。
わたしは、最後のひとの気持ちがすごく分かる。生まれたときに性別を割り振られて、それは自分が生きるのに適した性別ではなかった。そのままの性別のまま死ぬことに耐えられない。だから、様々なトランジションを試みる。それは、自分の装いを変えていくことだったり、身体のなかのホルモンの働きのバランスを変えることだったり、「性」的な意味が強く付与される身体のパーツを外科手術で変えることだったり、する。そういった色んな方法で、トランジションは行われる。
それは、トランジション後の「本当の自分の性別を生きるため」じゃない。「自分ではない性別のまま死なないため」だ。
わたしは、意味の分からない性別二元論が支配する社会に生まれた。わたしはそのうちの片方の性別を割り当てられたけれど、それはわたしのアイデンティティにならず、とても自分が生きられるものではなかった。
だからわたしは、最期の最期に社会に嫌がらせをする。
亡くなったのは、女性?それとも男性?どっちで整理すべき?どっちで報道したらいい?どっちで書類を作るべき? 困らせてやりたい。そうやって多くの人が混乱する姿でないと、わたしは納得して死ねない。
そんなネガティブな理由で、ホルモンを摂取したり、生殖器官をとったりするの?と思われるかもしれない。そんなネガティブな理由で、あなたは服装や髪形を選んでるの?と思われるかもしれない。あなたは、自分の「本当の性別」に従うためにトランジションしてるんじゃないの?と思われるかもしれない。
うるさい。そんなのは生き残った人の考えることだ。それは、訳の分からない性別二元論で自然になじんで生きていける人間の発想だ。その二元論に最初からなじめない人や、バイナリーな性別をもっていはいるけどトランジションにとてつもないコストがかかる人、そういう人の言葉が聞こえない人人間の発想だ。言葉を奪われて死んでいく人の横で元気よく生きていけるシスジェンダーな人間の発想だ。分からないだろう、このまま死にたくないという気持ちが。
分からないだろう、自分に担当させられている「性別=ジェンダー」が、自分という存在の外側に出てしまっている人の気持ちが。その外側に出てしまっている「割り当てジェンダー」を自分から切り離すために、心のコスト、身体のコストを捧げなければならない人の気持ちが分からないだろう。勝手に社会によって身体に縫い付けられた「性別のゼッケン」を剥ぎ取るために様々なコストを払い続けなければならない人の気持ちが、分からないだろう。そのゼッケンを縫い付けられたまま死にたくない、という気持ちが分からないだろう。
だったら黙っていればいい。「体の性別」と「心の性別」という分かりやすい図式でしかトランス(≒非シス)の状況を理解できないなら、黙っていればいい。「本当の心の性別」に従って生きられるようにトランスをサポートしよう、という発想しか受け入れられない「アライ」なら、黙っていればいい。ノンバイナリー、という言葉をアメリカの俳優さんの楽しいカミングアウトの文脈でしか理解できないなら、黙っていればいい。シス=テムと結託した二元論的なジェンダーという制度によって、ぎりぎりと心身を万力にかけられて、生活上の何気ない行為ひとつのために股を割かれるような思いをしている人が同じ社会に住んでいることを理解できないのなら、そんな人は黙っていればいい。
わたしは、女性でも男性でもない人間として死ぬ。そのために、納得できる姿で死ねると思う日まで、わたしは生きる。身体をむしばむ自分の病気と、ときどきいたちごっこをしながら、わたしは死ぬために生きる。
「亡くなったのは……」と地方ニュースのテレビキャスターが言う。
亡くなったのは、20代の…………