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27 幻の大鮎

あの大鮎は何処へ行ってしまったのだ
安曇川・朽木漁協が、シーズンを通して大物賞大会を開催していた頃の話。
ベストテン入賞者全員に豪華な賞品があり、更に抽選で3名に来シーズンの年間優待券が当たります。年券を発行しない朽木で、シーズンに20日以上竿出す私にとって、年間優待券は喉から手が出るほど欲しい賞品でした。

大会期間終了間近、9月中旬、船橋下流右岸側ブロック前。良型を順調に掛け、元気な野鮎をオトリに交換。オトリの鼻先を狙うポイントに向け放そうとした瞬間、その狙うポイント、大岩の中腹でギラリ! 西陽に照らされ大物鮎が黄金色に輝きました。

今まで目にしたことの無い大物の反転、一瞬にして動悸が早まり、気が焦り、オトリ持つ手が震えます。昨シーズン24.5㎝を掛けたが、その比では無い、一回りも二回りも大きく見えました。慌ててオトリを放し、大岩の表面、裏側、前、後、焦り気味にオトリを引き泳がせるが、何の反応も無し。大鮎ほど小心で神経質、西日を背にした私の陰に怯え、テトラの奥深くに隠れたのだろう。

以前にも超大物鮎を目撃したことがあります。場所は荒川・宮ノ越橋上流、
岩盤が山状にせり上がったポイント。
夕方の地合い、群れ鮎が狂ったように苔を食む。一触即発状態のその群れ、オトリを近づけるだけで追い掛かり。夢中でオトリ交換、放す寸前、顔をあげ群れ鮎の動きを観察。ウン、いつの間に混じったのか、飛びぬけて大きい野鮎が苔を食んでいる。
その群れで掛かって来た野鮎は17㎝前後、まるでガリバーと小人たちの場面を見ているようだ。体長、幅ともに周りの野鮎とは桁外れのサイズ。
しかし、オトリを放した途端、消えてしまいました。いや、幻を見たのでは無い、確かに大鮎の食み姿を見ました。何処に隠れてしまったのだ、岩盤周りを広くオトリを泳がせる。しかし、徒労に終わりました。大鮎ほど小心で神経質、だからこそ大鮎に育ったのだろう。

そして今日再び挑戦、目撃した二日後、船橋下流右岸ブロック前、あの大物鮎はまだ居るだろう。今日は必ず確保し、漁協へ検寸に持っていこう。大物賞ベストテン入りは間違いない。幸いにも竿出す人は見当たらない。今日一日、ここで粘る積り。
あの大鮎が光り輝いた大岩を中心に、下流から上らせ、上流から引き戻し、大岩周りを擦り、更にテトラの奥を探る。この一連の動作を何度繰り返したことか、あっという間に2時間経過。

どうしたことだ、何の反応もない、それどころか他の野鮎さえも掛からない。昨日誰かが、辺りの野鮎を全てさらえてしまったというのか? 昨夕、漁協ホームページの大物賞欄を確認したが、前日と順位表は変わっていなかった。
ヒョットしたら大物賞大会に関心の無い釣り人が掛けてしまったというのか、エッ!  するとあの大鮎は、既にその人か家族のお腹の中?

そう言えば、先日、上流の岩瀬で竿を出していた時、下手の釣り人が大鮎を掛け、興奮してわざわざ私のところにまで見せに来ました。私が、
「これは大きい! 組合で検寸してもらいなさいよ、絶対に大物ベストテンに入りますよ」
と何度も言ったのに、彼は喜色満面で
「嫁さんと今晩美味しく戴く」と一言。初老の夫婦二人、いつまでもタモの中の大物を眺めていました。仲の良いことで。検寸後に獲物を返してくれるのに、大物賞に興味のない人はこんなもの。

2日前に目撃した、あの眩しく輝いた大物鮎、同じ運命を辿ったのかもしれない。結局、私の獲物になるはず? だったあの大物鮎、幻になってしまったようです。





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