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127 赤トンボ

涼風が吹き、河原の石も冷めて来て、タデが蕾を付ける頃、川面を赤トンボが飛び交い始めます。高原で避暑していた赤トンボ、秋の気配を感じ里に下りて来ました。
天高く空突く穂先に赤トンボ一匹、爽やかな初秋の風物詩。しかし鮎師にとって、それはシーズン終了間近のシグナル。ああ、来シーズン解禁までの長い忍耐の日々の始まり近し、考えないでおこう。感傷を振り払い目印に集中する私。

赤トンボが穂先を狙う。私の鼓動に小刻みに震える穂先、カリカリ滑りながら取り付く足音。一瞬、当たりか! と緊張するも後の反応無し。訝しげに見上げる目に、竿先回りを飛び交う赤トンボ数匹、いつの間にか数が増え、穂先テッペンの陣取り合戦。
見晴らしの良い穂先テッペン、やはりトンボも其処を目指すのか。数匹が先を争い、重なり滑りながらもテッペンを目指す。追いの少ない鮎終盤、穂先、目印、竿持つ手、微妙な変化に過剰反応。更にトンボのカリカリ音、分かっていてもアタリと錯覚。

釣友が近くに居たさっき迄、赤トンボ達も分散し、私の負担も軽かった。彼が何処かへ移動後は、この辺り一帯の赤トンボ、私の竿を狙って大飛来。
竿先のあまりの騒がしさに顔をあげる。穂先から三番辺り、赤い尾っぽが数珠つなぎ、その数、十数匹。目方が有るのか無いのか分からぬ赤トンボ、流石に重さを感じます。揺れる穂先に群がる赤トンボ、その重さと騒々しさ、ヒシヒシと手元に伝わって来て、目印に集中できません。
仕方なく大きく竿を揺さぶり意地悪をする。それでも揺れの収まる寸前、もう我先に取り縋ろうと争っています。其のしつこさ、何とかならないものでしょうか。

何が気に入り私の穂先を狙うのか?  テッペンに止まるのは私たちの習性、別に誰の竿でも良いのです。赤トンボ、クールに呟きそう。
それなら私も遊びましょう、竿を揺らして追い払い、止まる寸前また揺らす。追いが少ない初秋の河原の暇つぶし、しばらく赤トンボ達を苛立たせます。
それが誘いになったのか、遂に野鮎の追い掛かり、赤トンボ達に全く気遣いすること無く、竿を大きく煽って引き抜き取り込む。野鮎を外しオトリに交換、肩に掛けた竿先にもう赤トンボの重みと騒音。一日に何度かこの繰り返し、お互いよく疲れないものだ。
だが可愛い赤トンボ、初秋の河原の風物詩、もう暫く私もその風景の一部で居ましょう。







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