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4 小賢しいテクニック無用

  • 荒瀬が好き


流れの中、瀬は瀬肩から瀬頭、瀬、瀬尻、瀬落ちと続き、流れが坂を転がる勢いで下って行きます。道中、岩に砕かれ切り裂かれようが、物ともしません。
瀬は大石の一つ一つが好ポイント、野鮎が居れば一発で来ます。狙うべきポイントがハッキリしているのが有難い。
どんなに強い波立ちの流れでも、どこかに陽だまりのような緩い流れがあり、其処からオトリを潜り込ませることが出来ます。オトリはその緩い長れの中で助走し、果敢に強い流れに飛び込んで行きます。縄張り鮎はその勢いに気圧されながらも、この野郎! と反撃しあえなく掛かってしまいます。


足場の悪い瀬、野鮎が掛かれば、竿を溜め強引に引き抜きたいものです。それが無理だと感じる大物の場合、また異常に元気な掛かり鮎の場合、思うように竿操作が出来ません。
鼻面を引かれ抵抗できないオトリの意思を一切無視し、流れの中を走り回ります。オトリにとってはまるで水中引き回しの刑です。しかし、いずれ疲れ瀬落ちに下るだろう。何処へ掛かり鮎を誘導するか、どこで取り込むか、瞬時? に判断します。
だが、私の浅い考え通りに掛かり鮎は動いてくれません。結局出たとこ勝負になります。瀬での竿だしは、このスリル&サスペンスが他のポイントに比べて大きく、たまらなく楽しいのです。それで、瀬で竿出す時、期待に胸膨らみ自然に笑みがこぼれます。

ところが瀬は難条件が揃っています。流れの中はもちろん,岸際にも大石小石がゴロゴロしています。掛かり鮎に引きずられ、下手に下る間に何度滑り、踏み外し、転びそうになることでしょう。
耐えてこらえて、挙句の果てに無残にバッシャーンと転倒です。ズルッと外れそうな眼鏡越しに水中を覗き、ガボット波立ちを口で受け止め、ゴホッと噎せ、それでも竿放さず立ち上がり、まだ外れていない事にホッとし、何とか竿を立て瀬落ちに誘導します。そしてその少しのゆとりの間に体勢を立て直し、急いで瀬落ちに二匹を追いかけます。

ここまで来れば一安心、慌てることはありません。引き抜けそうにない大物なら、道糸を摘まんで手繰り寄せタモに落とし込む、または竿を突き上げ穂先の弾力で掛かり鮎達を浮かせタモで掬いに行くかです。取り込んだ時の喜び、掛かり鮎の大きさ、苦労の大きさに比例します。

瀬の中でも特に荒い流れ、荒瀬の大石周り、野鮎達にとって最高の棲家です。此処に縄張りを築く野鮎、強い流れに抗いながら新鮮な苔を食み、その間も侵入者を追っ払う。気力、体力、共にタフでなければ務まりません。
針に掛からず、たった一年だけどその天寿を全うすれば、どんなに立派な大鮎になることでしょう。しかし、鮎師がそうはさせません。あの手この手と無い知恵絞り、何とかオトリを縄張りに侵入させ挑発、向こうっ気の強い荒瀬の野鮎、向こう合わせでガッーンと掛け針に絡まって来ます。あの性格では、天寿を全うするのは無理でしょうね。

最強主が引き抜かれた縄張り、挑戦を跳ねつけられ続けた二番手鮎、待ってましたと入り込む。新たな主、新鮮で栄養価高い苔を食み、気力、体力充実、そしてまた引き抜かれ先住者と同じ運命をたどる。野鮎達のその繰り返し。

荒瀬の大石周り、私のような自称名人にとっては最高のポイントです。小賢しいテクニック無用、向こう合わせでガッーン、荒瀬が好きな一番の理由はこれなのかもしれません。



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