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バラシ鮎、奇跡の回収?

38   福井小浜・南川・中名田橋上流
橋上流、支流田村川との合流点。緩い流れ込みなのに狭く深く暗くえぐられ、その底には大鮎のキラメキ、胸躍らせオトリを沈める。しかし、キラメキはあっという間に消え、何の反応も無し。少し粘った後、オトリを対岸の岩盤沿いに上らせる。さっきまで確かに食んでいた大鮎の姿も無くなる。
仕方なくそのままオトリを進める。次第に広くなる川巾、岩盤が途切れた先
、川底につやのある黒石が並ぶ。目を凝らすとその周りに鮎の群れ、あれを狙わぬ手はない。

オトリが上手く泳いで群れに近ずく、途端に群れが消滅。オトリを止め周りを見渡す。直ぐ下手で乱舞している。直ぐに戻ってくるだろう。しばらく待つと、オトリの周りで乱舞が始まる。必殺チャンス到来、息を詰め、掛かりを待つ。
オトリが上手にズズーと移動、群れについて動いたのか、だが何か変。竿を立て聞いてみる。ググーッと重い抵抗感、掛かっているのか?  この時期、野鮎の反応は鈍い、念のため針掛かりを確実にするため強くシャクル。途端にグイーンと上手に走る。掛かっていた。
竿を立てるも全く寄らず、ああ! なんという気持ちの良い感触、スリル&サスペンスの始まり。ここは慌てなくてよい、八号四本イカリがっちり食い込んでいるはず、外れることは無いだろう。白身魚はスタミナが無い、ここはジックリ待てば良い。

寄せる逃げる、何度かの繰り返し、可哀そうにオトリは引きずられっぱなし、息つく暇もなし。遠く水面を通して見える姿は、かなりな大物。ワクワクドキドキ、この緊張感がたまらない。
何度かの逸走の後、強く寄せればオトリが浮き出す、掛り鮎も疲れてきたようだ。さっき迄遠くを走っていたのに、私の周りを走り出す。
いよいよ取り込み準備、道糸に手がかかる、竿を肩に一手二手と手繰り寄せ。だが、まだまだ元気、斜めにズズーッと遠ざかる。私の手元でこの繰り返し。遂にしっかり姿を確認、幅広の大物だ。タスキ糸(鼻環周り糸)に手を伸ばし,外れるなと念じつつグイッと引き抜く。

エエッ! 何ということ、オトリ下の大物鮎、水面を割った瞬間、ブチ!
落下。落下鮎、状況を飲み込めないのか、私の足下で固まっている。思わず両手で掴みに行く、無駄な努力、ズズーッと上手斜めに泳ぎ去る。
チクショウ! チクショウ! 大声で叫ぶ私。見える範囲に誰もいない、もう一度大声で叫ぶ、チクショウ!

高ぶる気持ちを抑え仕掛けを確認、何ということだ、針外れでなく、切れる筈の無い逆針の結び目で切れている。タスキ糸は1号、アロンで固め過ぎたのか? チクショウ! しつこく叫ぶ。仕方なくオトリを外し、仕掛け交換。数が釣れないこの時期、貴重な一匹を失い意気消沈。何を期待しているのか、未練たらしく逃げ去った流れを眺める

アレッ、対岸寄りの緩い流れの筋、上手から白く太いものがユルユル流れて来る。何だろう、鮎かも、近づいてみる。水面下、大鮎がお腹を上にピクピクしている。ヒョットしたら今、私がバラした鮎か、幅広の魚体を両手で掴み針傷を探す。掛け針は付いていない、針傷もはっきりしない。

バラシた大鮎、確か胸ビレ辺りに掛かっていた。その辺りは心臓に近い、落下してボーッとしていた掛かり鮎、掴もうとしたら勢いよく逃げた。鮎師は少しも思い遣らないが、掛り鮎にとって取り込まれる迄の数分間、掛けた鮎師以上に必死、心臓にかなりな負担が掛かっていたはず。幸いにして逃れたが、ホッとして緊張が解けた途端、心臓に影響が出たのかも知れない。
それで痙攣しながら流れて来たのか。

酷使した養殖オトリを捨てる鮎師は居るが、たとえ酷使し使い物にならなくなったとしても、こんな天然大鮎を捨てる鮎師はいないだろう。それに上流で竿出す人は何処にいない。鯰に襲われたのなら歯傷でボデイがズルズルになっているはず、だが奇麗な肌だ。
胸ビレの付け根辺りなら針先は深く食い込み、傷は大きくならず、針傷も分かり難いだろう。念のためもう一度針傷を探す、やはりハッキリしない。この大鮎を発見したのはバラシタ直後、針傷による心臓マヒとしか考えられない。
ウーン、これは私のバラした鮎に違いない、そうであってほしい、何となくまだ少し疑問は残るがそういうことにしょう。

とりあえず曳舟に入れ、車に戻りふやけてしまう前にアイスボックスに投入。本日二匹目の釣果に無理やり算入。こんな形のバラシ鮎回収、初めての経験、これはどう考えても奇跡と言う他ない。



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