「めでたしめでたし」の先にあるものは? 想像する力を育てる

アスコム編集部の菊地です。

放送作家の石原健次さんから、「『正義の反対は、正義』というテーマで、童話を別視点から読み解く本」のご提案をいただいたとき、真っ先に頭に浮かんだのは、この広告でした。

ボクのお父さんは、桃太郎というやつに殺されました。

2014年の、新聞広告クリエイティブコンテストの最優秀賞受賞作のコピーです。

かなり話題になったので、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。

そこには、こんな言葉も添えられていました。

一方的な「めでたし、めでたし」を、生まないために。広げよう、あなたがみている世界。

岡山県の中学校で、授業の題材にも使われたそうです。

コピーはもちろん、泣いている小鬼の絵も涙を誘い、考えさせられるものがあります。ぜひ、上記のリンクからご覧下さい。

言うまでもなく、この作品は、桃太郎を鬼側の視点でとらえています。

桃から生まれた桃太郎は、鬼ヶ島へ鬼退治に向かいました。途中でイヌ、サル、キジの仲間を得て、勇気百倍。

相手は、宝物を奪うなど、各地で狼藉を働いていた鬼ですから、自らの正義に、一片の疑いも抱いていなかったはずです。

この、100%確信した正義ほど、恐ろしいものはありません。

奇襲をかけ、ためらうことなく正義の刃をふり下ろした相手にも、大切に想う家族がいることなど、よぎりもしなかったでしょう。

大好きなお父さんを、有無を言わさず殺された小鬼は、やがては復讐の炎を燃やし始めるかもしれません。

同じように家族を奪われた仲間を募り、桃太郎への復讐を果たしたら? 

今度は、桃太郎の仲間のイヌやサルやキジが黙ってはいないでしょう。

こうして、正義の名の下に憎しみの連鎖が生まれ、終わりのない戦争が始まるのではないでしょうか。

同じことは、『さるかに合戦』でも起きています。

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このように、童話に描かれる正義は、一方向から見た正義であることが、少なくありません。

慣れ親しんだ童話も、別の視点から見てみると、またちがうストーリーが見えてくる。めでたしめでたしの裏側や、その先にあるものを想像することが、今の時代には求められているのではないだろうか。

と考えていたぼくにとって、「正義の反対は、正義」という言葉は、ひとつの啓示のように聞こえました。

それが昨年末、書籍『10歳からの 考える力が育つ20の物語』がスタートしたときの話です。

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ポイントは「とにかく面白い」こと。

ぼくが子どもの頃に、『ずっこけ三人組』や『ガンバの大冒険』などをワクワクしながら読み、いつの間にか気づきを得ていたように、楽しんで読める本にしたい。

そんな思いを共有して、著者と編集者の二人三脚の旅が始まったわけですが、相手は数々の人気番組を手掛けるエンタメ界のトップランナーです。

読み解きの内容の素晴らしさは言うに及ばず。

「童話探偵という職業を設定しましょう」

「ある会社から、毎日オフィスに童話の読み解き依頼が届くんです」

「非科学的な乗り物で、童話の世界に行けるというのはどうでしょう? 名前はミートバン!」

「なぜ童話探偵になったのか。ブルースには、ある悲しい過去があります」

「相棒がほしいですね。女の子で、名前はシナモン。シナモンが読者の目の代わりになって、ブルースの読み解きを理解し、成長していくイメージです」

まるで泉のごとくわき上がってくるアイデアの数々に、ぼくは圧倒されました。

唯一、ぼくがお願いしたのが、童話のストーリーには手を加えないことです。

童話のストーリーにブルースとシナモンが介入して、都合のいいように話を作り替えてしまっては、名作への冒涜になってしまう。

童話の骨格は崩さずに、「それだけが正解だろうか」「こんな可能性も考えられる」という別視点を加えていくことをお願いしました。

だから、ミートバンで行けるのは、「物語が終わった直後の世界」です。

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かくして、徐々に明らかになるブルースの過去や、童話探偵の誕生にまつわる物語などをコラムで差し込んだ結果、336ページの読み応え十分な本が完成しました。

スタンド無しで立つので、インテリアにもぴったりです笑。

1話を読むのに大体10分。

これは、子どもが飽きずに読めることと、多くの学校で導入されている朝の10分読書に合わせました。

20話ですから、毎朝読めば、ちょうど1カ月分です。

子どもたちが、この本の物語をひとつ読むたびに、ひとつ、考え方の引き出しが増えていく。

そして、自分の頭で考えて、自分だけの答えを見つけられるようになる。

ぼくは、そんなことを夢想しています。

そういえば、ぼくが子どものころは、アメリカ大陸を「新大陸」として「発見」したコロンブスは、ヒーローとして教科書にも載っていました。

でも、あるときから、「新大陸」でも何でもなく、先祖代々暮らしてきた人たちの土地であり、コロンブスは侵略者であった、という考え方も目にするようになっています。

これもまさに、正義を逆の立場で見たら、別のストーリーが見えてきたパターンでしょう。

今の学校では、コロンブスをどのように教えているのか、すごく気になるところです。

『10歳からの 考える力が育つ20の物語 童話探偵ブルースの「ちょっとちがう」読み解き方』

※こちらも書きました!

「童話にかくされた『もうひとつのストーリー』を読み解く!」


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