埼玉新聞 2016年11月11日掲載記事  「実態調査が不可欠」

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■原告団、市に要望書

日本エタニットパイプ(現リソルホールディングス)大宮工場(さいたま市中央区上落合)で、アスベスト(石綿)加工に従事して死亡したり健康を害したとして、国や企業に損害賠償を求めてきた元労働者や遺族で組織する原告団は11日、環境省とさいたま市に対し、周辺住民を中心とした健康調査に市が加わるよう要望書を提出した。中皮腫の認定を受けた周辺住民ら2人が確認され、原告団は「実態調査が不可欠」としている。また、原告団は同日、中皮腫と認定された2人に対し、見舞金の配布を決定したことを明らかにした。

 環境省は2006年度から、かつてアスベスト関連工場が立地していた1府6県の関係自治体などと協力して、稼働当時に住んでいた周辺住民を対象に、健康調査を実施している。県内で調査に参加している自治体はなく、環境省は大宮工場のあったさいたま市にも実態調査の協力を求めてきたが、市は「人手不足」などを理由に参加の意向を示していない。担当の市疾病予防対策課は「まだ要望書を受け取っていないのでコメントはできない」としている。

 原告団は要望書で、「工場からの石綿ばく露による周辺被害が考えられる」として、環境省が進める調査に市が加わるよう要望。「ばくろ歴の聞き取りや健康診断に加え、石綿関連疾患の見落としのない医療機関の確保が必要」としている。
 原告団の牛島聡美弁護士は、元労働者ですら病院で石綿関連疾患が見落とされ、気管支炎やぜん息と誤診されるケースが多い実態を指摘する。「正しい診断がなければ、工場と疾患が結び付かず、救済されずに亡くなってしまう」と危惧。国や行政に対し、「中皮腫と認定された住民がいることを重く受け止め、実態調査に乗り出し、専門の医療機関の充実を図ってほしい」と訴えている。

 元労働者や遺族は今年9月、かつて工場周辺に住んでいた人の救済を進めようと、原告団を結成。大宮工場が稼働していた1933年~82年の間に、原則、同工場から半径500メートル以内に一定期間居住し、中皮腫の認定か診断を受けている人を対象に、3万~5万円の見舞金の配布を呼び掛けていた。今回対象となった2人はいずれも、「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づき、中皮腫の認定を受けている。

 原告団は随時、見舞金の対象者を呼び掛けている。問い合わせは、同事務所(電話03・5807・3101)へ。

■「人ごとではない」一方、新住民の関心薄く


 旧日本エタニットパイプ(現リソルホールディングス)大宮工場(さいたま市中央区上落合)の周辺住民ら2人が、国からアスベスト(石綿)吸引による特有のがん「中皮腫」と認定された問題。工場が稼働しなくなってから34年が経過し、現在の街に石綿関連工場の面影はない。周辺では「人ごとではない」と話す住民がいる一方、新住民が増え、アスベストに関する周知がされてこなかったことから記憶は風化しつつある。 大宮工場は1933年~82年に稼働し、石綿セメント管を製造していた。現在、工場は取り壊され、跡地には別の施設が建つ。 生まれたときから工場敷地の近くに住む50代の男性会社員は「工場がなくなってからアスベストを知った。昔のことになりつつある」と話す。幼少期に周辺で遊んでいた男性は、中皮腫と認定された住民がいることを知り、「人ごとではない」と語った。 

別の無職男性(65)は「工場周辺に白い塊が山積みになっていた」と稼働当時を振り返る。「危険性なんて知らされていなかった。気付かないうちにばく露していたら怖い」 工場敷地から約20メートルに居住していた無職男性(66)は工場で働いていた父親を75年、中皮腫で亡くした。自身も2008年、石綿ばく露の指標となる「胸膜プラーク」の診断を受けたが、石綿健康被害救済制度の対象外。「先のことは考えたくない。ただ、救済が進まないのはつらい」とこぼした。 一方、工場がなくなってから34年がたち、住民の関心は薄くなっている。工場跡地に自宅が建つ80代女性は「建てるときに安全と言われた。今さら掘り返されても…」と困惑気味。数年前に引っ越してきた30代の主婦も「何も影響ないので気にしていない」と話した。 「まずはみんながアスベストに関する知識を持つこと。『自分は大丈夫だから』というのでは解決にならない」。長年付近に住む無職女性(72)は自身に健康被害は出ていないものの、「いつ自分に影響が出るか分からない。行政にはかつて住んでいた住民への健康状態を確認してもらいたい」と求めた。

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