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黒澤世莉インタビュー|明後日の方向ってなあに?

12月29日(水)-31日(金)に行われた、明後日の方向「赤目」の当日パンフレットに掲載した、主宰・演出の黒澤世莉さんのインタビューをnoteでも公開します!楽しんでお読みください!

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演劇のあたらしいあつまり 「明後日の方向」 。まだ謎に包まれたこの集団について、主宰の黒澤世莉さんにインタビューしました。


明後日の方向ってなあに?

いわゆる「劇団」ではないです。演劇や演劇づくりの当たり前を、「本当にそれは当たり前なのか?」「他に良い方法があるんじゃないの?」と考えながらやっていきたい。

ロールモデルがあって、それをやるというわけじゃないから。まだ誰も知らないし、僕も知らない。誰一人としてその正体を知らないんです。

ひとつ言うとすると、「明後日の方向」は演劇の公演を目的としない、ということに今はしています。

公演を目的としない?

これは今の演劇界が抱えるすごく大きい矛盾なんですけど、公演をし続けようとすると演劇を継続できなくなるんです。

公演主体で演劇活動を考えてしまうと、公演にすごくたくさんの資本を投下しなきゃいけないし、公演に向けてスケジュールをガツっと空けられる人しか関われないということになる。公演をしようと思って、みんなすごく苦しんでいる現実がある。そこに対して、何か解決策を取れないかと思っています。

必ずしも公演をやることにこだわるのではなく、もっと自由に上演作品を作れないかと考えています。僕が素敵だなと思っている俳優さんたちと、長い時間をかけて戯曲に取り組んでみる、とか。

演劇を続けるために

「明後日の方向」では、例えば仕事がある人とか、子供がいる人とか、介護をしなきゃいけない人とか、いろんな人にいろんな事情があると思うんですけど、そういう人たちとも演劇活動ができないかなと考えていて。

スタジオを押さえて、出演者・スタッフを2ヶ月間拘束して作品をつくるというようなやり方が、別に当たり前ではない。工夫すれば別のやり方でもできるんじゃないか。

だから、違う道筋を作りたいな、という風に思っています。「選択肢がない」ということが問題だと思うから。

他にも、ハラスメント防止に配慮をしようというのは最近色んなところで言われるようになったけど、それが現場レベルにどれだけ生きているのかというと、まだまだ足りてない。そういう問題意識も明後日の方向の活動に組み込みたいです。

黒澤世莉がみたいもの

「すごい演劇」です。

演劇ってなんだ?っていうことをここ何年かずっと考えていて、それで僕にとって演劇というのは俳優と物語、戯曲だなっていう風に腑に落ちたんです。

感動には色んな種類があって、例えば素敵なイリュージョンに感動することもある。空間の美しさとか、音楽の旋律の豊かさとか、それはそれで素晴らしいものだけど、僕が求めているものとは少し違う。

そういうことよりも俳優がどんな物語を紡いでいるかということが大事で、別に場所は地域の公民館でもいいし、明かりは蛍光灯でもいい。

公民館でみんながジャージを着ていて、蛍光灯の明かりで稽古をしているとしても、そこで俳優たちがしっかりと芝居をしていれば、それが僕にとっての「すごい演劇」です。

観客の存在

「公演を目的としない」のであって、「公演をしない」わけではないんです。

観客という存在はやっぱりなくせないんです。観客が見ているという状況で上演されるものが、僕が見たい演劇、「すごい演劇」にも必要なんだと思うんですよね。

僕は人間の深淵を覗きたいんですよ。そのために、戯曲というものが必要で、戯曲を勇敢に体現する俳優という人間たちが必要になる。そして観客がいないとその深淵に迫れないんですよね。

おそらく、俳優と観客との間に、深淵を覗くための門みたいなものがあるんですよ。その門は俳優と戯曲だけの力だと、開かないんですよ。でも観客がいると、ゴゴゴゴゴ…と開くんですよね。

他人が多くいる空間の中で「見るー見られる」の関係が生じた時に、舞台と観客席という双方向でのエネルギーの循環が起きる。それが、俳優たちをして深淵を開けさせる根源になるのだと思います。

楽しいからやる、明後日の方向

「明後日の方向」では、創作におけるヒエラルキーをなくしたいと思っています。僕が始めたものではあるけど、いつか僕がいなくなっても続くような運動体になるのが一番理想。

「責任」っていう言葉が僕は大嫌いです。自分の意思ではなく、何かに強いられているみたいな苦しい印象があって。「明後日の方向」は、責任感ではなくて「楽しいからやる!」という運動でありたいなと思っていて。楽しいことが、人間の能力を伸ばすとか、結果を良くするということを僕は信じているし、それに対して懐疑的な考え方も変えていきたい。

何かを犠牲にしないと素晴らしい芸術ができないという思い込みを粉砕したいですね。お金や時間を犠牲にしたりしなくてもいい。結婚して、子供が生まれて、ハワイに行って、ほかの仕事もして、家も建てて、そして素晴らしい演劇をつくったっていいじゃないかと思うんです。

走り出したばかりの「明後日の方向」。今回はその行き先を探すための公演です。私達の試行錯誤も含めて、一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

聞き手:加藤仲葉
編集:松本一歩、谷川清夏

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