無料で観られるアガリスクエンターテイメント

はじめまして、もしくはそれに近いみなさんに向けて書いています。
東京の小劇場で活動する「屁理屈コメディ劇団」、アガリスクエンターテイメントの劇団員/文芸助手/俳優の淺越岳人と申します。アガリスクには旗揚げから所属し、主宰で脚本で演出の冨坂友とああだこうだ話したり、舞台上の主にホワイトボードの前でああだこうだ喋ったりしています。

「いつか書かこう」と思っていたことを、ようやく実行することにしました。題して、「無料で観られるアガリスクエンターテイメント」。

アガリスクエンターテイメントは公式YouTubeでいくつかの作品を、長編/短編関わらず公開しています。

われわれがどんな作品を作っているかを知ってもらうため。
「観たい!」「演りたい!」と思ってもらえる方をひとりでも増やすため。

要するに、「作品は自分たちで抱え込むより広く世に出した方が、単純に得が大きいんじゃないか?」と考えているのです。事実、「生で観たことはないけど、いつか」みたいな声も、少なからず聞いたりします。基本的に狭く閉鎖的な小劇場という場所で活動しているわれわれにとっては、それはすごく貴重なチャンスなのです。

というわけで、その裾野をちょっとでも広げるため、無料フル公開している作品に限定してですが、いくつか紹介しようかと思います。基本的に劇団の名刺代わりの作品をピックアップしたつもりですが、わたしは劇団代表でもなければ、劇団内でもだいぶ偏屈な自覚があるので(ここまでの文章でお察しください)、作品チョイス/紹介文ともに、多々主観や好みが混じっているとは思います。そこはあくまで「淺越個人による」ということでご理解ください。


ナイゲン(全国版)


各クラスの代表の高校生が、自分のクラスの発表内容をプレゼンしあう会議「内容限定会議(通称:ナイゲン)」を描く一幕劇。
「どこか1クラスだけ演目を変更してください」と学校に押し付けられた不本意な発表内容を押し付け合う様をコメディとして描きつつ、民主主義、自治、“話し合うこと”の意義を説く。


何度もヴァージョンアップを重ね、いつしか自他ともに認める代表作に成長した「青春群像会議コメディ」。2015年、「アガリスク最後の『ナイゲン』」と銘打ち乗り込んだ、新宿FACE公演の編集済みフル映像です。身の丈に合わないサイズの会場だったこともあり、はじめて客席のウケを物理的圧力として感じたことが強く印象に残っています。
われわれでは年齢的になかなか上演しづらくなった現在も、各所で上演してもらえてうれしい限りですが、この作品は冨坂(と、わたしの)の母校の、へんな会議についての物語なので、全然母校と関係ないところで「国府台高校ってのはさ…!」とか吠えられているのは、少し照れくさかったりもします。
その後の作品『卒業式、実行』(これも初演版は無料で公開しています)『いざ、生徒総会』と合わせて「国府台サーガ」とか自称していますが、それ以外の作品にも根底にこの作品に通じる部分が流れていて、そういう意味でもやっぱり「代表作」なんだろうと。

七人の語らい(ワイフ・ゴーズ・オン)


ロンドンに住む平凡な男、デイヴィッド=スミス。しかし彼には秘密があった。
彼は、メアリーとバーバラという二人の女性と結婚し、二つの家庭を行き来する二重生活を送っていたのだった…!
ある日、デイヴィッドがいつものようにメアリーとの家でくつろいでいると、そこに彼女の友人が訪ねてくる。それはなんと、もう片方の妻・バーバラだった…!
デイヴィッドは、二人の妻への秘密を隠しきることができるのか…!?

…という筋書きの、英国の喜劇作家・ゲイ=ルーニー氏の書いた傑作シチュエーションコメディ『ワイフ・ゴーズ・オン』を演じる七人の男女。
嘘をついて誤魔化すタイプのシチュエーションコメディに憧れて旗揚げしたアガリスクエンターテイメントだったが、上演するにつけ、このテのコメディについて悩み、その作品も捻くれた面倒くさいものになっていった…。
その一方で『ナイゲン』『紅白旗合戦』などの青春群像劇、会議コメディを上演しては評価を得ていく。
「今後、どんな作品を作ればいいのか…」道に迷ったアガリスクの道標となり、念願の黄金のコメディフェスティバル優勝を果たした逸品。
シチュエーションコメディ批評にして、大いなるシチュエーションコメディ讃歌。
大嫌い,大嫌い,大嫌い,大好き Ah~

というあらすじがもう既に「面倒くさい」と思われるかもしれませんが、これもアガリスクエンターテイメントです。
三谷幸喜氏の書くシチュエーションコメデイに憧れて作品を作るも、次第にジャンルに捕らわれ、疑い、でもやっぱり好きで。そんな愛憎のなか産まれた、奇形の中編コメディです。
シチュエーションコメディの抱える問題点にメタ視点から批判的に自己言及しつつ、それでもなんとかコメディを演じ続けなければならない登場人物の姿勢でシチュエーションコメディを体現する、、、自分で書いていても「ちょっとなに言っているかわからない」部分もありますが。
あらすじにもありますとおり、この作品は「黄金のコメディフェスティバル」というコンテストの優勝作品でもあります。こういうニッチな問題意識をぶつけた変なコメディが、少なくともコメディを好きな人々には受け容れてもらえた、そういう意味でも思い入れの深い作品。「無人島だと思ったら仲間がいた」ってやつです。
面倒くさいこと言っていますが、ニッチなのをいいことに中身はだいぶ好き勝手やっています。自分の作品ながら終盤の展開は、恥ずかしながら何度観返しても笑ってしまう。

時をかける稽古場2.0


―待ってられない 台本がある。
超遅筆な脚本家率いる若手劇団「第六十三小隊」は、勝負をかけた公演を二週間後に控えながら、
台本が1ページも無いという危機に瀕していた。
ある日、稽古場にて偶然タイムマシンを発見した劇団員達は起死回生の策を思いつく。
それは「本番前日まで行って、完成した台本を取ってくる」というものだった…!

三谷幸喜作品と同じくらいわれわれが影響を受けたのが、ヨーロッパ企画のコメディです。とくに、『サマータイムマシン・ブルース』。
ゆえに作った、時間SF×シチュエーションコメディです。なんのフォロワーかがわかりやすい劇団、アガリスクエンターテイメント。
正直、「若手劇団モノ」を若手劇団が作る自己完結感は気になるし、要素を詰め込み過ぎて強引な展開も多いですが、SFガジェット(ひみつ道具)の使い回し方とか発想の思弁性(スペキュレイティヴ)は、結構気に入っていたりします。ただ、すごく長い。

お父さんをください

すごく長い、のでコントもいくつか紹介しておきます。あらすじは、はい、タイトルの通りとしか言いようがないです。よくあるコントの設定かと思いきや、そこから何度ツイストできるか、の手数と畳み掛けのネタ。

エクストリーム・シチュエーションコメディ(ペア)

5人芝居の典型的なシチュエーションコメディを、2人で演じなければならない、というコント。先に紹介した『七人の語らい(ワイフ・ゴーズ・オン)』の原型とも言える作品です。劇団員がごそっと抜けた時代に作ったので、こんな設定に。

賽の河原

地獄に落とされた男たち(通称・詭弁三兄弟)が、賽の河原の鬼に対して文句を言っているうちに、経済システムの話に発展していく、というコント。(屁)理屈で転がしていった先でバカバカしい帰結を迎える、われわれの得意技のひとつです。



他にも長編作品・コント、短編映像作品に昔作ったFlashアニメなど、質については本当に玉石混交ですが、量だけ見ればコンテンツはそれなりに充実していると自負しております。映像観て「面白いな!」と思ってもらえれば幸いですし、これからも作品は公開していきますが、なにより、劇場に足を運んでもらえたらこんなにうれしいことはない、です。コメディは、観客がいてはじめて完成します。当たり前だけど、ライブ文化なのです。
そのときに、あらためて、はじめまして、と。

最後に。
もし、本当にもし、ですが「無料じゃなくてもいいからもっと作品が観たい!」て奇特な方がいましたら、公式通販サイトアガリスクSHOPや、動画配信サイト観劇三昧などをご利用いただけますと、過去公演のDVD/BDやストリーミングでより多くの作品を観ていただけます、という誘導もさせてください。『発表せよ!大本営』とか『かげきはたちのいるところ』とか、まだまだ色んなコメディがありますので。そして、これからもコメディを作っていきますので。

それでは、できれば、いつか、劇場でお会いしましょう。


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