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杜人に学ぶ 大地の再生 呉講座 開催にあたり8年を振り返ってみる


(2016年に開催した大地の再生講座で矢野さんや参加者の皆さんに掘っていただいた溝と、矢野さんに剪定していただいた高木のエノキ(樹齢70年くらい)2023.2.9撮影)



こんにちは。

まりもり自然農園主宰の竹田麻里です。
半農半セラピスト、百姓アーティストというツッコミどころ満載の肩書きで活動しております。
えのきのはたけ郷原市民農園有限責任事業組合の代表組合員をしたり、ナオライ株式会社の自然農パートナーもさせていただいてます。

今回は、2/25-26に開催する運びとなった
「杜人に学ぶ 大地の再生 呉講座」に向けて、8年前に大地の再生に出会ってからの、自分の変遷を綴らせていただきました。

かなりのボリュームになってしましたが、ご一読いただけましたら幸いです。


まず、わたしが主宰しているまりもり自然農園の名前ですが、「杜」の漢字の意味を矢野さんから伺った後につけました。「杜は土地に紐を引っ張って、その土地の神に傷めず穢さず大切に使わせてくださいと約束した場所」という意味だそうです。自分も、この土地の神さまと約束したいと言う想いと、あと、自分の名前についている「麻」という植物に対する想いを込めてこの呼称に決めました。

まりもり自然農園は広島県呉市と東広島市の境界辺り、溜池が点在し、とても水が豊かな加茂台地の南端に所在しています。
昭和の時代の稲作の機械化と共に、明渠(めいきょ)(※)の意味が失われ、また、20年程前から稲作をする方が減少するにつれ、田んぼをお借りした8年前は既にあちこちの田んぼの水路=明渠が埋まっている状況でした。土地本来の水の豊富さがアダになり、かろうじて機能を残していた水路もどうやら有機ガスを発生している状態で、水路でドジョウやサワガニが死んでいるのを見つけては悲しい気持ちになっていました。

(※)明渠は田んぼや畑の排水のための溝。明渠に対して暗渠(あんきょ)は管状で土中に埋設された排水設備。

2016年に矢野さんをお招きして開催した大地の再生講座では、水と土の圧力で崩れそうだった田んぼの石垣周辺を、参加者の皆さんと一緒になってあちこち掘っていただきました。

「こんなに深く掘るの?」

との参加者の方のコメントが印象的だったのを覚えていますが、1反(1000㎡)の田んぼぐるり一周を30センチくらいの深さは掘った記憶があります。
泥まみれになりながら、潜り込むように懸命に溝を掘る当時20代前半だったスタッフの女性の姿が忘れられません。

2016年大地の再生講座@呉市郷原町での作業風景


その後都合4回、矢野さんには講座や視察で農地にお運びいただきました。

各地で開催されていた大地の再生講座に参加したかったのですが、当時パートタイムで働いていたため、体力や資金も無く、農地の管理と仕事で手一杯で、参加はできませんでした。

「矢野さんは、自然の声を翻訳しているのだから、自分はこの土地の声を聴けばよいはず」

と、講座に参加し学びを深めたいのにそれができない悔しさをぶつけるように溝を掘っていました。そのくらい、矢野さんが垣間見せてくれた「目に見えない」世界には、全身全霊が震える感動がありました。

2019年大地の再生中国支部の皆さんの視察の風景


この土地での米づくりは、溜池に涵養した水を落として田んぼに引き入れて行います。その水路は、田んぼの地主さんたちの家の間を縫う様に引いてあるために、長い間ずっと水の奪い合いが絶えなかったと、土地のおばあちゃんの話を聞きました。

自分が田んぼを借りた2015年には田んぼを耕作する人は少なく、水路の管理が難しくなっており、勤農家の方ほど、U字溝を多用されて、溝を固めておられました。(そうすることで、溝の側面の草刈りの必要が無くなり、管理機と呼ばれる、手押し車のような除草の機械を使えば草刈りの手間を大幅に削減できるという経験則による知恵からでした。)

しかし、大地の再生の視点でみると、U字溝を設置すると、その水路の周辺を動く空気の流れを遮ってしまうため、環境に負荷がかかるとのことで、
矢野さんからU字溝の脇にモグラのように穴を掘るという環境負荷軽減手法を習ったため、早速実施していましたが、しばらく経ってからU字溝を設置した方から

「モグラが穴をあけていたから、埋めたよ!」

とのコメント。まるで漫才のようなやりとりですが、正直、この頃は、「なんと自然の摂理に逆らうことばかりするのだ!!」と、集落の方を恨めしく思い、怒りすら覚えていました。

それでも、放置され明らかに埋まっている水路の泥を上げる衝動を止められず、、なんと他の人の休耕田の水路も、「ごめんなさい、つい掘ってしまって、大丈夫だったですか??(テヘペロ)」と謝りながら、不法侵入ギリギリ(アウト?)の駆け引きをする感じで掘り続けました。そして3年くらい経った時だったか、新たに設置されたU字溝と畦板(※)の間の畔をモグラが走ってくれた(=畦の土中の空気を動かしてくれた)のを見つけた時、「地域の方と対立しなくても、作業を繋げていけば、土地が必ず応援してくれる!!」と、そんな風に感じられ、それからは、地域の方への対立的な想いは薄れていき、地域の皆さんが、田んぼに農薬を使おうとも、同じ風景を守る仲間の様に思うようになりました。
その頃から、水路にはホタルの幼生のエサであるカワニナが増えてきたような感じがし、生きたシジミを発見し、白サギの飛来が増えたように感じるようになりました。

(※)畦板 田んぼの畦の内法に沿って設置するプラスチックや金属製の板。田んぼに水を湛えた時に水が畦から漏れないようにするための農業資材。

地主さんから、30年くらい前まではこのエリアはホタル狩りを楽しむくらい、たくさんホタルが飛び交う集落だった話を聞いていたので、毎年1匹のホタルを見つけては感動していた自分にとっては、水路に落ちた草を食べるカワニナの存在に、かつての風景を取り戻すきっかけを得たような希望を持つようになりました。

この溜池の水を田んぼに引かせていただいている。担い手が高齢化し、手入れが行き届かなくなりつつある。



しかし、やはりひとりだけでの学びは限界があり、「自然に直線は無い」との矢野さんの言葉を勘違いして、頭だけを使って畝溝(うねみぞ)(※)を掘ったために、2018年以後、田んぼはだんだんと水を湛える環境から離れてしまい、収穫量は減っていきました。

(※)畝溝は、畑や田んぼの溝で、土地の排水の機能を確保し、作物が生育やすくするために造形された畝の間の溝。

2018年7月には、西日本豪雨災害があり、日常の行動範囲内でも道路があちこち通行止めになりました。数週間から一年後に仮復旧で通れる様になった時の道路傍の谷筋の流出の姿は、自然の荒々しい力を見せつけるものでしたが、一方で、土石流が造形したラインに美しさを感じるようになっていました。

そして、その後の復旧工事の現代土木の施工は、それに投入された予算やエネルギーを想像してしまうと、気が遠くなる光景ばかりでした。

そびえ立つように設置されたコンクリートの擁壁。この荷重を支える足元の生命活動は。。。

2019年の年末に、呉市大崎下島に拠点を置くベンチャー企業ナオライ株式会社の三宅紘一郎代表から、「ナオライのレモン畑を見に来て欲しい」と依頼があり、年明けの2020年から、仕事として、呉市大崎下島とその更に離島の三角島(ミカドシマ)の、ナオライのレモン畑の手入れに入らせていただく様になりました。

2021年から2022年にかけて、ナオライ事務所にバイオトイレのタンクを設置した際も、考慮でき得る限り、大地の再生の視点を盛り込みました。

1000リットルのタンクの荷重が土地にかからないように。。
ナオライ事務局のバイオトイレ設置の様子



自分に染みついた資本主義経済や会社経営に対するバイアスに自作自演で苦しみながらも、ナオライの創造しようとしている「人からも土地からも搾取しないビジネスモデル」に惹かれ続け、代表の配慮や他のメンバーに支えられながら、圃場や事務所周辺の環境改善を少しずつ進めていきました。

©︎Rikuo Fukuzaki
ナオライ代表の三宅さん(左から2人目)とナオライメンバーとナオライ事務所の前にて。三宅さんは一般社団法人まめなの共同代表もされている社会起業家。


ナオライの事務所の近くに、一般社団法人まめなの本部もあり、そのまめな本部のお庭の環境改善活動も担う様になりました。
まめな共同代表の更科安春さんは、当初から大地の再生の深い世界観を捉えてくださり、ご自身のガーデナーとしての長い蓄積はさておいて、まめなの庭の手入れをわたしに一任してくださいました。同じくまめな共同代表の梶岡秀(ひでし)さんは、好奇心と共に、スケジュールの合間を縫っては毎回お庭の活動で共に手足を動かしてくださり、大地の再生を感覚的にもご理解いただいております。このお二人のバックアップがあればこその、この3年間の自分の島での活動でした。
また、一般社会法人 大地の再生 結の杜づくり の理事を勤めていた、呉市安浦町在住の庭師で、共に2016年に大地の再生に出会った仲間でもある兼田汰知君に何度か手入れを依頼し、一緒に活動をさせていただいています。
2020年には、兼田君を講師に迎え、「風の草刈りワークショップ」をまめなで行いました。

まめなの庭での仲間との風の草刈り実施の様子。



2020年当時は、数カ所の圃場や庭の守りで精一杯で、一般社団法人大地の再生の動きにはついてゆくことが叶わず、我が道を行っていました。「大地の再生実践マニュアル」(矢野智徳、大内正伸共著農文協、2023年発売)の大内さんのブログは、更新される度に、何か自分にも取り入れられる視点や技術が無いか、いつも食い入るように見ていました。

2018年から太極拳を、2021年からは古武術を習うようになり、ずいぶん身体の動きが整ってきました。
ナオライから、毎月業務委託費をもらう様になり、経済的にも安定をもらったのも身体が整う助けになったと思います。

どうしても農繁期の作業に身体が追いつかない時には、一般社会法人大地の再生結の杜づくりの事務局に参画していた山口敦央(あつてる)君や友人に依頼し、まりもり自然農園の圃場の草刈りに入ってもらいながら、地域の方へは手入れが間に合わないことに頭を下げながら、風景をなんとか繋げてきました。

山と種が大好きな山口君(右)現在、仲間たちと大地の再生の視点も盛り込み、森林整備の仕事をしている。


どの圃場も手が回り切らないながらも、少しずつ空間に良い変化を感じる様になっていきました。

呉市大崎下島久比地区ナオライ音楽ホールから三角島を臨む


2022の4月からは、「風景を繋ぐ」をコンセプトに、5人のメンバーで「えのきのはたけ郷原市民農園有限責任事業組合」を立ち上げ、田んぼの関係人口を増やす活動を始めました。まめな第一期インターンの当時広島大学の学生だった濱野翼君がメンバーに参画してくれ、卒論と並行して、組合の定款を作成してくれました。

市民農園はまだ2組のみの利用ですが、濱野君のお友達が子ども向けの野菜づくりイベントを企画開催してくれたり、だんだんいろいろな方が郷原町の農地に集まるようになりました。

えのきのはたけ郷原市民農園のイベントの様子。組合メンバーで野菜を愛する濱野君が苗について子どもたちに説明している。


2021年10月には、まめなの庭の、車の往来で泥々になっていた庭の一部の環境改善施工の現場監督を担いました。
写真はまめなのスタッフで「あいだす」を運営する20代のクリエイター、福崎陸央さんと大橋まりさんのものです。
あいだすのお二人の、本質を見ようとする深い眼差しと考察、それをそのまま表現したような写真にはいつも感動させられています。大地の再生の世界観も深くご理解いただいており、最初に「リジェネラティブ」=問題を招かない在り方という言葉を教えていただいたのも福崎さんからでした。

©︎Rikuo Fukizaki
左手前、作業をするのがいつも頼りにしている庭師の兼田君。




施工後も、このまめなの庭のメンテナンスは続けています。抜本的な環境改善施工はできていませんが、もともと植物の多い庭なので、少しずつのメンテナンスだけでも、なんとか土中の生物環境を悪化させず、なんとか持ち堪えてくれている状況ではないかと、希望的に観察しています。
また、まめなには様々なバックグラウンドを持つ方が関係しているため、元(株)マツダのエンジニアの起業家の方も大地の再生に興味を持ってメンテナンス作業に参加してくださいました。その際に、地形を瞬時に立体で捉えるスマホアプリを用い、堀ったばかりの溝の造形がデータに変換されるのを見た時、自然×テクノロジーの力で未来を明るく創造できるのではないかと、興奮した気持ちになりました。

©︎Mari Ohashi
テクノロジーの分野に造詣が深く、テクノロジーの力で様々な地域課題解決にも取り組むまめな理事の元木昭宏さん。




また、まりもり自然農園の駐車場に隣接する竹藪も、2016年に、最初に矢野さんに手入れを教えていただいてから、分からないなりに、少しずつ手入れを続けてきました。いろいろなメンバーやお友達にご協力をいただき、毎年2月に竹藪整備イベントや竹炭焼きも続けてきました。2021年、2022年と、兼田君に依頼し、東広島市で森林ボランティア団体「もりゆう」を主宰する大村恵さんのご協力も仰ぎ、子ども対象の竹藪整備イベントを企画しました。子どもたちとの活動はとても楽しいものでした。竹藪の薮化のスピードはゆっくりになったと感じています。また、嬉しい変化として、美味しいタケノコが掘れるようになりました。何より、タケノコを掘るのがとても楽になりました。地主さんの土地以外のエリアも地権者の方に承諾をもらい、少しずつ手を入れる竹藪のエリアを広げていきました。

2016年に矢野さんが竹藪に天穴を掘り、設置してくださった風のトイレを、6年経過した2022年の冬、中卒で自分の道を探し始めた友人の息子さんが、あるものを使ってバージョンアップしてくれました。

廃材などで、看板まで設置してくれる。
毎年2月に行なってきた竹藪整備の様子
経験豊富な大村さんのファシリテーションで素晴らしいイベントに。



2022年からは、呉市で10年以上続く「たねの交換会」を主催するボランティア団体「おいもを愛する会」の街の中にある畑の指導を僭越ながら始めました。構造物に囲まれた呼吸し難い土地での、大地の再生の視点と不耕起栽培を組み合わせた実験と実践を、種を愛する仲間と一緒にしています。
ちなみに、ナオライの三宅代表とは、この「たねの交換会」で知り合いになりました。

種を大切にする仲間たちと。



最後に、少し秘密の場所をご紹介したいと思います。
まりもり農園の農地から少し見上げたところに、家屋が倒壊して薮化していた宅地があり、4年前から地権者の方にお願いして手入れを任せてもらうようになり、場づくりをしています。
一昨年は、兼田君が主宰する「大地園芸」に依頼し、ずいぶん風通しが改善しました。

地域の方から「あなたが手入れしてくれるなら安心」とお声かけいただいたことがあり、とても嬉しい気持ちでした。
土地への感謝の気持ちを表現したく、2年前から音楽が好きな友人と秋に収穫祭を始めました。

まりもり自然農園の地主さんがピアノでご参加くださる


全て呉市近郊での活動ですが、多くの方に支えていただき、大地の再生の視点と土地と共に過ごしてきた8年でした。

非現実的かもしれませんが、
いつも、まりもり自然農園のシンボルツリーの様に思っているエノキの木や、水をいただいている山(野呂山のピーク、膳棚山)に見守ってもらっている感覚があります。

「大丈夫。頑張って」と。

まりもり自然農園の自然農の田んぼから野呂山を望む。



まりもり自然農園の所在する、呉市郷原10区東で田んぼをしている方の平均年齢はおそらく70才以上です。

みなさん、年々、身体に限界を感じるようになっています。
足を引きずりながら、それでも作業に出てこられている方もいます。

8年前はイノシシが降りてこなかった里山エリアに、3年くらい前から降りて来るようになり、昨年あたりから、イノシシの農道や田んぼ掘削が酷くなりはじめました。米や野菜の被害が出ている件数も、少なからず聞くようになりました。

今回の講座の現場の竹藪に風が通り、土中の空気が動きやすくなれば、イノシシに対しても少しは棲み分けを示せるのではないかと考えています。

節分明けにあった共同作業の時に、講座のチラシを地域の皆さんに配りましたが、大地の再生について理解していただくような説明は全くできていないのですが、何か感じてくださっているのか、やわらかい反応でした。

現場の竹藪の上に、昨年引っ越してきた友人家族が住んでおり、講座中はなんとトイレを貸してくれることになりました。
その家族の息子さんが地域の女性陣のアイドルなのも、地域の皆さんが、一般的でない自分の活動を受け入れてくれる助けにもなっています。

「応援しているよ」とお友達から暖かいエールをもらう。



講座後に地域の皆さんに、大地の再生の視点や手法を、少しずつでも説明する機会を作っていきたいと考えています。

高齢化が著しい集落で、自分がどこまで次世代に風景を繋ぐ働きができるかまだまだ未知数ですが、エノキの木に、

「頑張って」

と言ってもらっている気がしているうちは、トライアンドエラーでできることをやっていけたらと思っています。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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