プレナイトの手

さわやかな風が頬をなでる。
まだ朝日の昇りきらない暁時、いつもこうして草原を眺めるのがエナの習慣だ。
右も左も、見慣れた景色。それをゆっくりと、全身に風を纏って感じていると安心する。―ここは、私の場所。私の世界。
深呼吸をひとつ。そうしたら、朝一番のあいさつをしにいこう。
トゥトもマァも、一つ下のミラももう起きて卓を囲んでいる頃だから、少し遅れたことを詫びながら。

それもいつものこと、風が異変を運んでくることがなければ。
―なんてね、ここはいつも通り。何かなんてあるはずないの。

それはひとつの儀式。目を閉じたエナはいつものように、ゆっくりと息を吸って、

「すみません、ここはどこですか?」

突然耳もとで聴こえた声に、息を止めて目を見開いた。

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