【台本】Judgement

ボイスドラマ・声劇・ラジオドラマにお使いください。

少女 : 高校生くらい。家出人
井上 : 一見穏やかそうな男
記者 : 兄さんとおっちゃんの狭間
刑事 : 撃つ前に相手のフルネームを叫びたい主義。女性なら美女、男性ならイケメンらしい。

これ以外の各キャラクター人物像、心情推察、役者にお任せします。語尾、性別変更等も、楽しめるように。演出担当さんもお好きなように。

noteの仕様で、ト書き、役名、セリフの境目がわかりにくかったらごめんなさい。なんとか工夫はしました。

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  消防車のサイレン、野次馬騒ぎ

刑事  …また燃やされた…手口は一緒か…死者…重傷者…損害…何度も何度も…!

  火事場の音FO

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  夕闇。雑踏。学校帰りの少女。

少女ナレ  私は、家に帰らないことにした。ここで眠って、何度も起こされて、ご飯が無くて、作って、食べられて。私も、食べられて、痛い。けずれていく。そんな家に嫌気がさしたんだ。ここじゃなきゃいけないってルール、やぶってもいいよね。…………でもね。行くとこなんてない。野良猫…?それ。野良猫になったみたい。

  少女はふと足を止め、道端に落ちているダンボールの板を拾い上げる。

少女    にゃん。

  鞄からペンケースを取り出し、色とりどりのかわいいペンの中から数本を選ぶ。(もちろんお気に入りのラメ入りの糊も使って装飾過多気味に)何かを書きはじめる。

少女ナレ  私は捨ててあったダンボールを拾って、そこに大きく「拾ってください」って書いた。誰でもいいや。いい人に拾われますように、私。

  雑踏の中から、通り過がりの男が足を止める。

井上    ん…?拾っていいの?

少女    拾ってくださいってば。

井上    あいにく荷物が多くてね。

少女    …何も持ってないよね?

井上    手には持ってないけどさ…。…仕方ない…拾おうか…。

少女    喜んで拾ってください。かわいいJKですよ。汗かいた美少女ですよ。そういうの需要があるんじゃないんですか?

井上    …まあ、そうかもなぁ…。…キミ、何かが間違ってるような気がするが…。

少女    おじさん会社員?バイト?

井上    どうでもいいだろうそんなことは。ん?おじさん?おじさんに見えるの?

少女    うん。見える。

井上    そっか。まあいいけど。キミはどうして拾われたがってたの?

少女    拾われたかったっていうか、捨てたっていうか。「どうでもいいだろうそんなことは。」

井上    はは。…まあ…ついておいで。おじさん、やることがあるから。

少女    やるの?着替えとご飯とお部屋くれるならちょっとだけやってもいいけど。

井上    それじゃねぇですよ。キミはやっぱり何かが間違ってる(笑)まあ…ちょうどいいな。

少女    え?

井上    そんなことよりも、もっと「イイコト」だよ。

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少女ナレ 私はその男の家についていった。こいつが信用できるかなんてわからないけど。

少女   え?これ…何の匂い?!

井上   うるさいですよ。住み着くなら静かにしてくださいね。壁薄いんだから。

少女   ……わかった…

少女ナレ その部屋は、ただ散らかっているだけじゃなかった。異様な匂いが漂っていて…それはここに住む人の狂気を感じさせた。私にはそれが何の匂いかわからなかったけど「鼻につく、体に害があるものの匂い」なのは間違いなかった。

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記者   連続放火魔。あれっすよね。この前ので初めて死者が出たんっすよねー。

刑事   …何のための確認だ?あんたのとこの週刊誌の見出しになってただろ。

記者   おっ、よくご存じで!もしかして愛読者っすか?

刑事   …要らない事ばっかり書かれてますね。

記者   あやっぱり読者様?嬉しいっす。俺が書いてる記事も読んでくださった?先週の「老人ホーム…

刑事   読んでない。事件を大げさに仕立て上げて売り上げを伸ばす。嘘を交えてもね。それがあなたたちでしょう。…忙しいので、これで。

記者   待ってくださいよ~。美人刑事さん!連続放火魔の件っす!俺、いい情報掴んだんで!犯人わかったんで!

刑事   …余計なことを言わずに手短に報告しろ。何をしに来たんだ。この会話も記事のネタにするんだろ?

記者   いえいえいえ。録音などしておりません。  (本当は録音している)

刑事   手短に報告しろ。

記者   ヤバい!そのcoolな目線…俺を落とそうとし…

刑事   黙れ!

記者   ひい!怖いな~…警察官による一般市民への恫喝って。美味しいネタひとつ、いただきました!…おっと、これ以上ひっぱると殺されちゃうかもしれない!(笑) 犯人はですね…10代から90代の男性か女性。国籍はアジアのどこか…

  刑事立ち去る

記者   待ってくださいよ~。言いますよ言います!この男!ボク写真撮ったんすよ!掲載する前に真っ先に貴女にお見せしようと思って…!

刑事   よこせ。

  刑事、写真を奪い、立ち去る。

記者   お願いしますよ~。貴女が現場に駆け付けてほしいんですよ。その方が絵になるんでね。Coolな女性刑事。拳銃構えるお姿が神々しいっ!(笑) 貴女すぐ拳銃出す悪い癖あるでしょ。うまいこと撮って、表紙にさせていただきます。…注目の事件、衝撃的な表紙、犯人の姿、無闇な発砲、売上倍増!っと。

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  夜、井上の部屋。明りはキャンプ用ランタンの揺らめく炎のみ。

少女  どうして電気付けちゃだめなの?

井上   光がうるさいだろ?

少女   暗くて見えない。

井上   …見えなくていいんだよ本当は…。

  井上、マッチを擦って火をつける。

井上   いい匂いだろ?ライターよりずっと。

少女   匂いはするけど…私マッチで火をつける人初めて見た。やってみていい?

井上   どうぞ。

  少女はマッチ箱を受け取り、火を付けようとする。つかない。

少女   あれっ…あれっ…?なんでつかないの…?

井上   こうやるんだよ。

  井上、少女の背後から少女の両手をとって、マッチの擦り方を教える。

井上   ……きみの髪が…マッチの匂いに。…かわいいな…。

少女   えっ…。

少女ナレ その男は、私を抱きしめた。きつく、痛い。長い時間。そのまま押し倒すわけでもなく、体をまさぐり始めるわけでもなく、それよりも私の体が男の体に取り込まれるんじゃないかと思った。その体から伝わってきたのは、どこにもぶつけられない性欲、愛情、痛み。私の中に生まれたのは、あわれみと、この男を守りたくてたまらない気持ちだった。

井上   一緒におしおきしに行こう。きみならいいよ。

少女   おしおきするの?

井上   そう。綺麗すぎて、いけない街に。…手伝う?

少女   何をするの?

井上   マッチを擦るの。

少女   ………しない。     (ニュースで見た放火魔だと確信する)

井上   …あ、そう…。…じゃあ…留守番ね。

少女ナレ 男はつまらなそうに体を離した。私はこの男と同じ光景を見たいと思ってしまった。

少女   火は、見たい…な。

少女ナレ 私がそう言うと男はひどくうれしそうに答えた。

井上   ついておいで。夜景よりもっと綺麗な景色を見よう。それから…僕はね…灰も好きなんだ。

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  以前から井上を追っていた記者。井上が犯行前に下見をしていることにも気づいていた。今日の犯行の場所を付近の屋上から最高のカメラアングルで撮ろうと狙っている。

記者   路地裏に、オイルの匂い。でっかくやらかすつもりかぁ(笑)早くしろよ…今日はどうせここだろ?お前のハンザイかっこよく撮影してやるんだからさ。こちとらずっと待ってんだからよ…

少女   なにしてるの?楽しそう。

記者   …お前なんだよ。写真撮んの。悪者の。

少女   悪者やっつけるの?ヒーロー?(笑)

記者   そ。…君ちょっと静かにして。正義のために。おしおきしなきゃ。

少女   ねえおじさん。私にもおしおきして?

  (間)

記者   え……いや…それはヤバイでしょ。

少女   どうして?悪い子なのに?

記者   淫行条例というものが…あってだね…。

少女   あははは!どーしてオトナってすぐそういう意味にするの?

記者   そういう意味かと思っちまうだろうが!

少女   うふふ…そういう意味…かも

記者   え?

少女   嘘に決まってるでしょ。うける。

記者   おい…!
 
少女   (カメラを手に取って)ね。このカメラかっこいい。撮って。

記者   あのね。おじさん仕事なの。(カメラを取り戻そうとする)

少女   スカートの中とか…。

記者   おいこらめくるな!

  会話の途中で火が付き、徐々に大きくなる炎の音。

記者   あ!やりやがった!(屋上の手すりに駆け寄る)……犯人もういないじゃねぇか…(少女に)おいお前!…いねえ!…カメラ!カメラ返せ!

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少女ナレ 私は男とすぐに再会した。雑踏に合流しながらよく居るカップルを装った。

井上    見た?

少女   見た。けど、あんまり見えなかった。

井上   じゃあさ。見えるところに行こう。

少女ナレ 私は男の導くままについていった。逃げた時よりも遠い道のり。それでも、火災に気づいて騒ぎだす人々が増えてたから、火元に近づいていることだけはわかった。遠くにサイレンの音。もう通報はされているんだ。

井上   ここがいいね。

少女ナレ いとも簡単に燃え盛っていた。誰かが暮らしていた、日常があったはずの場所が。赤くきらめいて真っ黒くなって、灰になる。

井上   なんて…綺麗なんだ…。マッチ棒一本だよ。最初は。

少女ナレ 私は男の横顔を見た。炎を映しこんだ瞳。彼は欲情している。この光景に。切なさが伝わる。私は怖いような、感動のような、泣きたいような、よく分からない気持ちになった。

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記者   おいお前!カメラ!

少女ナレ 振り向くと犯行現場を狙っていた記者がいた。

記者   なんだお前!グルかよ!カメラ返せよ!(少女からひったくってすぐにピントを合わせ、少女の写真を撮る)お前の写真も押さえたぞ!ネタありがとな!……カメラ落としたりしてねえだろうな。…「放火魔に従う謎の美少女!」って記事でオマエの写真全国誌に載せてやろうか?

少女   それは…!

記者   ははっ!「脅されてたんですぅ」とか被害者ヅラしとけばすぐに芸能人になれるんじゃね?俺のおかげで。…後で借りは返せよ!

少女   載せないで!

記者   なぁんでだよ。有名になれるチャンスだぜぇ。インスタでチマチマとフォロワー集めするよりよっぽど…

刑事   井上誠!!!!橘美加理!!!

  銃声2発

記者   うわ怖っ!(撮影)

刑事  家出人は家に帰れ!井上!おとなしくしろ!

記者   …全員おとなしくしてますよ。…それ、しまってくれませんかね。

刑事   なんでこんなことした!!何回も!!何回も!!何回も!!

井上   …間違ってないんだ…。

刑事   なんでこんなことした!!

少女   許せない…ですか?

刑事   許されない!!絶対にだ!!!!

  銃声2発

少女ナレ 刑事はそう叫ぶとまた発砲した。私の太もも。痛みに倒れこんだ。すぐ隣で男も倒れた。脇腹を抑えて。痛くて痛い。男の顔が目に入った。彼は…笑っていた。

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少女ナレ 記者は全部を撮影した。冷や汗にまみれ髪を乱して苦しむ私の顔も、血を流しながら本当に幸福そうに笑う男の姿も、狂気的な警察官が無闇に発砲した証拠も、みんな記事にするつもりなんだ。…その記事では、誰が正しいことにされるんだろう…?そう思いながら…私は気を失っていった。

【Fin】



原案:anzendoku様

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