『知識創造企業』

今日紹介するのは、およそ25年前の本『知識創造企業』です。1980年代を中心に、日本型企業で数々のイノベーションが生み出されてきた、その要因は何かということを、欧米向けに解説した論文が元となっています。

なぜ日本企業は成功したのだろうか?(中略)「組織的知識創造」の技能・技術こそが日本企業成功の最大要因なのだ、というのが我々の主張である。組織的知識創造とは、組織成員が創り出した知識を、組織全体で製品やサービスあるいは業務システムに具現化することである。組織的知識創造が、日本型イノベーションの鍵なのである。

今となっては、かなり歴史を感じる時代背景ではありますが、現代においても非常に参考になる、示唆に富んだ内容でした。
 特にポストコロナ時代における組織づくりに欠かせない観点が多数含まれていたと思います。また、欧米企業における組織への考え方、特にテイラーの科学的管理法をいまだに引き継いでいるという点が、非常に参考になりました。

暗黙知と形式知

組織が絶え間なく繁栄するためには、イノベーションを単発で発生させるのではなく、連続的に起こしていくことが不可欠です。そのためには、組織として知識を創り出していく体制でなければなりません。

ただし、まず大前提として、「個人を抜きにして組織は知識を作り出すことができない」という点に注意しなければなりません。一方で「他者と共有されなければ、あるいはグループや組織レベルで増幅されなければ、知識は組織的かつスパイラルに高度化することはない」というように、他者とのかかわりの中で、高度化される点も重要です。

組織的知識が創り出される過程は、次の4つの段階に整理されます。

1.共同化(暗黙知から暗黙知)

個人の経験・体験(=暗黙知)は言葉に表すことが難しく、経験や体験を共有しなければ伝えることができません。そのため、暗黙知は経験や体験を共有することで、暗黙知として伝えることになります。
 イメージとしては、職人が仕事ぶりを見せることで、弟子を育てる場面が分かりやすいでしょうか。細かい感覚を言葉にはっきりして伝えることは難しく、言葉にしたとしても、暗黙知が全て伝わっているとは限りません。

2.表出化(暗黙知から形式知)

暗黙知を共有できると、共有されたメンバー同士で持続的な対話を通じて、暗黙知を形式知へ転換することができるようになります。この対話を通じて表出化が行われるという点が重要で、相手に伝えるために比喩表現を使ったり、暗黙知を前提とした共通言語が生み出されることになります。
 先ほどの例で言えば、職人と弟子が対話をしながら、新しい手法を生み出そうとしているイメージが当てはまります。職人と弟子には暗黙知に基づく共通言語がありますので、「もっとゆっくり」というような曖昧な表現であっても、お互いに意思疎通ができます。またそれぞれが持つ異なった知識や経験と暗黙知を結び付けることで、新しいコンセプトを生み出すことに繋がります。

3.連結化(形式知から形式知)

表出化によって生まれた新しいコンセプトを、従来から持つ形式知と結びつけることによって、具体的なイノベーションへとつなげていきます。
 企業で言えば、新しいコンセプトに基づき、従来からの技術を組み合わせることで、新製品を開発する、というイメージです。

4.内面化(形式知から暗黙知)

ここまでで生じた形式知を、マニュアルや物語などで言語化・図式化することで、組織として暗黙知を蓄積していきます。データベースを作っていくイメージです。
 この蓄積が次なる知識創造のスパイラルである、共同化や表出化へとつながっていきます。


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