選手との距離感はどうしたらよいですか? 森下 茂(月刊トレーニング・ジャーナル2023年10月号、連載 トレーニングコーチが直面する課題 第7回)


森下 茂・School of movement認定マスターコーチ

連載目次
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 私は現在54歳なのですが、学生スポーツに関わったのが30代前半でした。その頃と、ここ数年では明らかに学生との距離感が変わりました。どちらがよいのかは今でもわかりませんが、私のつたない経験をお伝えしたいと思います。

不器用なタイプ

 33歳のときから18年間にわたり、ある大学ラグビー部のストレングス&コンディショニングコーチとして関わることになりました。選手たちとは10以上離れておりましたが、まだ若かった私は、とにかく必死で日々選手たちと向き合うしかなく、時には選手と同じトレーニングをやりました。気持ちとしても選手に絶対負けまいと思いながらやっておりました。またトレーニング前には、あえて選手たちと距離をとり、必要最低限以外の会話はしないようしておりました。その理由の1つに、私が不器用なタイプだったので、練習開始と共に公私のスイッチを切り替えるのが下手だったことがあります。トレーニングでは選手自身の限界にチャレンジする事を要求します。ストイックな雰囲気をつくるためにも、トレーニング前の時間も利用する必要がありました。

 またラグビーという競技特性もあったかのかもしれません。パワーと持久力という、相反する体力要素を求められているのがラグビーです。そんなフィジカルをつくるには、ストイックさがなければなかなか難しいのです。さらには、反則をすれば、ペナルティゴールで3点を献上するか、ゴール前にタッチキックを蹴り込まれ、そこからモールを押されてトライを奪われる可能性があるのです。つまり、スーパーアスリートになり、どんなにキツい状況でも試合の最後まで規律を守れる、そんなフィジカルとメンタルの強さとタフさを兼ね備えた選手がどれだけ多くいるかかが勝敗を分けるのがラグビーなのです。

「ストレングス&コンディショニングコーチはチームの規律の象徴である」。そんな言葉を知ったのも、このチームに関わってからすぐのことでした。私は自分自身と選手たちにさらにストイックさを求めることになりました。そんなスタンスだったので、どちらかというとヤンチャなタイプの選手たちとは、常に平行線の状態でした。少なくとも、選手から私に近づいて気さくに話をするなんてことは、ほぼなかったと思います。この頃出会った選手たちに、私の印象を問うたなら「絶対に妥協を許さない厳しいコーチ」か、あるいは「融通がきかない頑固でうるさいやつ」だったのではないでしょうか。

私自身に変革を課す

 選手達がもっとストイックになるには、どうしたらよいのか、そればかり考えていた私に転機が訪れました。それは、チームとしても初めてリーグ戦優勝という目標を掲げ、よりストイックさを求めた年に関東大学リーグ戦グループの1部から陥落したことです。翌年もなんとかスタッフとして残れた私でしたが、自身のコーチングを大きく変化させる必要がありました。前年度は例年以上に選手たちにストイックさを求めました。しかし、結果としてチームは入れ替え戦も含めて全敗でした。おまけに私自身にも、反発される選手が複数いるなど課題の残るシーズンとなってしまいました。そこで私は、前年までとは大きな変革を私自身に課すことにしました。

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