2.さまざまな競技の選手に行う測定から見えてきたこと ──ジャンプおよびパワー測定(月刊トレーニング・ジャーナル2021年2月号 特集/「特異性」について考える)


野田尚宏・日本サイクルスポーツセンター競技振興課

普段は自転車選手に向けてトレーニング指導を行っている野田氏。2020年より、静岡県内の高校部活動を中心として体力測定を行っているという。その目的や測定の中でわかったことについてお聞きした。

測定に出向く

 これまで、何度か測定のためにさまざまな競技の選手に本センターにきてもらったことがあります。ただ現在は、オリンピックやパラリンピックに向けて私の所属する施設が会場となっている関係で、私たちが機材を車に積み込んで測定しに出向くという形を取っています。

 主に高校の部活動で、バレーボール、バスケットボール、陸上競技の跳躍種目、ボート、レスリング、剣道、サッカーなどの選手が測定を経験しています。

 とくに競技種目を限定しているわけではありません。うまく調整がつけばどの競技でも測定したいと思っていますし、そうすることで各競技の特徴が見えてくるのではないかと考えています。

測定項目

 測定についてもほぼ共通した内容で行っています。PUSHを用いたスクワットジャンプ、カウンタームーブメントジャンプ(腕振りあり・なし)、反応筋力指数(RSI)が測定項目になります。ジャンプ関連については、伸張反射をうまく使えているかどうかや、筋肉の性質によって動きが変わってくるということを伝えています。

 ワットバイク(Watt Bike)を用いた測定では、いわゆる無酸素系の6秒を2本、あるいは30秒を1本の測定を行います。ATP-CP系あるいは乳酸系の測定といったところです。これらは競技特性に合わせて顧問の先生と話をする中で選択します。バレーボールやバスケットボールでは6秒を2本、ボートやレスリングに関してはより長い時間のパワー発揮をみたいということで30秒を1本という測定にしています。なお、有酸素系のテストは時間がかかることもあり、行っていません。

 先日はサッカーの測定について打ち合わせを行ったのですが、ATP-CP系あるいは乳酸系、有酸素系のいずれも必要になる競技であるということで、どれを選ぶとよいのかと話題になりました。理想としてはすべてを測定できればよいのですが、時間の都合もあります。試合前だったこともあり、疲労を残したくないということで6秒を2本としました。競技特性とともに、各チームのスケジュールも考慮に入れて測定項目が決まってきます。

 測定項目は基本的に固定しています。30人弱を2時間(部活動の時間)に収めないといけないということもあります。

 なお、ボート選手への測定では、顧問の先生のご意見もあり、ロウイングエルゴメーターで1分間、引く速度をPUSHで計測してムラがないかどうかを調べました。各競技に何か特異的な動きがあるようであれば、それを測るというのもよいと考えています。

自転車競技との関係

 この測定の最終的な目的として、自転車競技について知っていただきたいということもあります。

 自転車のペダリングで言えば、一番力を出させたいのは一回転のうち90°のところ(時計回りでいうとクランクが3時のポジション)です。その力は股関節と膝関節の同時伸展です。ボートのロウイング動作で引っ張るときの下半身や、ジャンプ動作に共通するところです。これらとワットバイクのパワー値と関係しているのではないかと思って測定しています。測定したデータは各選手に細かくフィードバックを行い、各競技に有効活用していただければと思っています。

 最後に時間があれば、ワットバイクを用いてHIITのデモンストレーションを行うこともあります。これは自転車で体力レベルを高めるトレーニングもできることを伝えたいと思って行っています。現在、日本の自転車は発展途上な競技です。高校で他のスポ―ツを経験し、卒業・引退後の進路を考える上で、身体を動かす職業につきたいと思ったときに、自転車競技を始めるのは決して遅くありません。そこからプロの競輪等を目指す選手も少なくありません。競技が一区切りしたときに自転車競技のことが頭の片隅に残ればと思っています。始めたばかりなので実績はありませんが、将来的につながればと思っています。私が若い頃は一人が同時に複数のスポーツを行うことは、あまり盛んではありませんでしたが、今は少子化が進んでいて、競技ごとに選手を取り合っている場合ではありません。スポーツ界全体で共存共栄を図っていかないといけないという意識があります。

 今までは日本のプロ競輪選手と、オリンピックを目指す自転車競技選手は「別物」とされてきたのですが、現在ナショナルチームにフランス人やオーストラリア人のコーチが関わっており、「競輪」と「オリンピック競技」の両方でよい成績を出せている選手が多く出てきました。本センターに隣接する日本競輪選手養成所では、「技能組」と呼ばれる自転車の能力で選抜される方法のほかに、「適性組」と呼ばれる、自転車経験がなくても筋力などの体力測定によって入所が認められる枠があります。さらに他の競技で実績のある人も受け入れています。その測定にはジャンプ高があり、合否の指標となっています。このことも、今回の測定項目の選定に関連しています。

 この事業において、高校生の測定データが残っていけば、仮にそのうちの誰かが競輪養成所に入り、代表に選ばれてナショナルチーム入りした場合、またそれぞれのタイミングでこれらの測定ができたら、蓄積したデータの推移を追っていくこともできるのではないかと思います。また若いときのデータがタレント発掘にも活用できるのではないかというような話を担当者間ですることもあります。

競技ごとの違い

 細かい分析はまだ行っていないのですが、測定してみた中での感触としては、やはり跳躍を行うバレーボールやバスケットボール、陸上競技の跳躍種目ではジャンプの数値はよかったです。ジャンプ高の高い選手は、ワットバイクのペダリング、とくに6秒テストのパワー値も高い傾向にあるように思います。また体重比では、さらにその傾向が顕著である感じがします。高校生ではワットバイクに乗るのが初めての場合もありますので、ペダリングスキルも結果に影響してきます。

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