パフォーマンスの向上とコーチング実践力の修得を目指して ──京都先端科学大学での授業がスタート|橘 肇(月刊トレーニング・ジャーナル2023年9月号、連載 実践・スポーツパフォーマンス分析 第21回)


橘 肇・橘図書教材、スポーツパフォーマンス分析アドバイザー

監修/中川 昭・京都先端科学大学特任教授

(ご所属、肩書などは連載当時のものです)

筆者(橘)は、今年4月から2つの大学で非常勤講師を務めている。その中の京都先端科学大学では、通年でスポーツパフォーマンス分析の演習授業を行うことになった。今回は7月で終了した春学期の授業を振り返る。スポーツパフォーマンス分析の教育を考える一助としていただきたい。

連載目次ページ
https://note.com/asano_masashi/n/nb58492f8076d

未来への改革を続ける大学

 京都先端科学大学は、1969年に開設された京都学園大学をルーツとする大学です。2018年よりさまざまな改革に取り組み、2019年には京都先端科学大学に大学名を変更しました。2015年に開設された健康医療学部は、看護学科、言語聴覚学科、そして健康スポーツ学科の3つの学科からなります。健康スポーツ学科では、今年度、それまでの3つのコースに加え、新たに「ハイパフォーマンスコース」を設置しました。このコースではスポーツ競技者のパフォーマンス向上と、コーチングや支援を行うための実践力の修得を目指し、スポーツ教育、コーチング、競技スポーツトレーニング、スポーツパフォーマンス分析、コンディショニングなどを学ぶカリキュラムが設けられました 1)。

 その中で私が担当することになったスポーツパフォーマンス分析の演習授業(科目名は春学期が「実践プロジェクトⅠ」、秋学期が「実践プロジェクトⅡ」)では、年間の授業を通じ、スポーツパフォーマンス分析の基礎から実践までの能力を身につけることを目標にしています。




京都先端科学大学亀岡キャンパス

コーチング学の中核的学問領域

 ハイパフォーマンスコースを選択した学生には、体育会の強化クラブに所属している学生が多く、そうした学生の多くはこのコースでの学びをまず自身の競技力向上に活かしたいという希望を持っているようです。それ以外にも、スポーツの指導者を目指したい、またストレングス&コンディショニング(S&C)コーチの資格取得を目指したいという学生もいます。いずれにしても、チームや選手の競技力、言い換えると「パフォーマンス」を高めていく方法を学ぶ上では、競技力の構造や評価の方法を学ぶ必要があることは言うまでもありません。この科目の授業計画を作成する段階で私の頭にあったのは、本連載の監修者である中川による「試合でのパフォーマンスについて分析を行わず、何の評価もしないでただトレーニングをしたって、効果的に強くすることはできません。何ごともまず現状を分析して、それを変えるための計画を立ててトレーニングをして実際にやってみる、その繰り返しです。だからゲームパフォーマンス分析は、まさにコーチング学の中の中核的な学問領域と言えます」という言葉でした 2)。

 また本連載の過去の取材を通じて、大学でのデータサイエンス教育の重要性が強調されている今、スポーツはそのための教材として非常に適しているという話もありました 3)。健康スポーツ学科には競技指導でも研究面でも実績を持つ、多彩な研究領域の先生方がいらっしゃいます。スポーツ科学の幅広い分野をベースとしたコーチング学教育、そしてデータサイエンス教育の中にこのスポーツパフォーマンス分析の授業を位置づけることができるのではないか、そのように私は感じました。

自分自身の過去の授業の改革

 授業計画を作成する上では、これまで私が出版に携わった『スポーツパフォーマンス分析入門』 4)、『スポーツパフォーマンス分析への招待』 5)の2冊の書籍の内容をその中に具体化したいと考えました。もちろん、これまでもスポーツパフォーマンス分析に関する授業を担当する中で、これらの書籍を拠りどころとしてきました。しかし時間の制約や私自身の慣れなどもあり、重要ではあっても授業の中では扱う機会のなかった分野もありました。たとえば、「動きやゲームパフォーマンスの質的診断」や「妥当性のあるパフォーマンス指標の発見」といったものです。

 今回は春学期、秋学期を通じて合計30回の授業がありますので、そうした要素も積極的に取り入れ、学生たちに多様な学びの機会を提供するとともに、教える側としての自分自身の幅を広げることにもつなげたいと考えました。開講後に若干の調整はありましたが、春学期の授業内容は最終的に表1のようになりました。

 スポーツパフォーマンス分析の授業ではコンピュータを使った分析作業や資料作成が主となることから、コンピュータ教室を用意してもらいました。しかし、京都先端科学大学では個人で使用可能なノートパソコンを授業に持参することになっているため、開講して程なく、学生たちは使い慣れた自分自身のノートパソコンで受講するようになりました。こうしたハードウェアの環境が整っているかどうか、また学生自身が普段からパソコンに触れているかどうかという点も、スポーツパフォーマンス分析に関する授業を開講する上では欠かせない要素の1つです。コンピュータの機種やOSに依存しないスポーツパフォーマンス分析ソフトウェアを採用したことも、こうした柔軟な対応を可能にしました。


表1 2023年度春学期「実践プロジェクトⅠ」(スポーツパフォーマンス分析Ⅰ)授業スケジュール

各授業回での実施内容

第1回〜第4回

 スポーツパフォーマンス分析の基本的な知識を学ぶ回としました。スポーツの情報分析に初めて触れる学生たちに対して、授業の「入り方」をどうするか大変迷ったのですが、硬式野球部とサッカー部に所属している学生が多いということもあり、昨年のサッカー・ワールドカップでの「Semi-automated offside tech­nology」 6)(半自動オフサイドテクノロジー)をはじめとする最新のテクノロジー、またメジャーリーグ・ベースボールの試合でおなじみとなった打球速度や打球の飛距離といったトラッキングデータとそれを自動取得しているテクノロジーの話から始めました。

 学術的な内容としては『スポーツパフォーマンス分析入門』の第1章「スポーツパフォーマンス分析とは何か」の内容をもとに、スポーツパフォーマンス分析の方法と目的について話を進めました。その中では、私自身が以前に勤めていた会社で担当した「プロゴルファーの三次元動作分析」や「サッカー選手の試合中の動きの手作業でのトラッキング」といった経験談も交えました。

第5回〜第7回

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