ムーブメントトレーニングとはどういうものですか? 森下 茂(月刊トレーニング・ジャーナル2023年9月号、連載 トレーニングコーチが直面する課題 第6回)


森下 茂・School of movement認定マスターコーチ

連載目次
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 私の名刺の肩書きとして、7年前から「ムーブメントコーチ」と書いております。指導先の多くのチームでも、ムーブメントトレーニングを実際に提案させてもらっておりますが、たいていの現場では、選手はもちろん、指導者の方でもムーブメントトレーニングに対する知識がありません。だから、最初にムーブメントトレーニングとは何かを説明することになります。

 今回は、私が現場で処方している「ムーブメントトレーニング」の詳細について書きたいと思います。

模索する旅

 ムーブメントコーチと名乗る前の肩書きは「トレーニングコーチ」でした。トレーニングコーチの役割は、選手たちのパフォーマンスの向上とケガの予防につながるトレーニングプログラムを提案することで、それは23年前にこの仕事を始めてから、ずっと追い求めていることでした。もっと言えば、どういうトレーニングをしたらパフォーマンスの向上につながるのか、私は選手時代から、そこに興味がありました。

 私は高校まで野球を、そして大学から29歳までラグビーをやっておりました。しかし、選手としては、どちらも三流レベルでした。いや、三流だったからこそトレーニングに興味を持ったのかもしれません。不器用な私でしたが、真面目に取り組む資質はあったようで、高校時代に初めて本格的なトレーニングを実施した私は、見違えるほど筋肉もつき足も速くなりました。しかし、肝心の投げる、打つ、守るという野球のスキルにはほとんど反映されませんでした。

 一方、トレーニングをサボる選手がホームランを打ち、投げては相手を抑えて大活躍しておりました。しかし、これは何も私だけに限らず、野球界では「ウェイトトレーニングはパフォーマンスの向上にはつながらないから必要ない」という話は、今でもたくさんあるのが現状です。野球のセンスのなさを痛感した私は、大学からラグビーを始めました。足は速く、持久力もあった私は野球よりはマシでしたが、課題はコンタクトプレーでした。そこでも私よりトレーニングを真面目にやっていないのに強い選手はたくさんおりました。そんな経験から、私の中で、どういうトレーニングをしたらパフォーマンスの向上につながるのかを模索する旅が始まりました。

 ラグビーでは両膝の前十字靭帯損傷をし、合計4回膝の手術をすることになりました。そんな私は29歳になってから、この業界に転職し、今度は指導者という立場で、私が現役時代に成し遂げられなかったパフォーマンスの向上とケガの予防のためのトレーニングを追い求めることになったのです。

ムーブメントレーニングとは

 現場で指導する機会を持ちながら、様々な講習会に参加し本を読みビデオを見て、自分自身もトレーニングを実践しながら、私の探求は続きました。学べば学ぶほど、これさえやればよいなどというマジックはないこともわかってきました。そんな折、8年前にムーブメントトレーニングに出会いました。前置きが長くなりましたが、では、ムーブメントトレーニングとは何かを掘り下げていきたいと思います。

 ムーブメントスキルとは何か? 現場で高校生や指導者に伝えるときは、私はシンプルに、ムーブメントスキルとは重心移動のスキルであると伝えております。多くの運動は重心移動になります。歩く、走るは前方向への重心移動です。バッティングやピッチングが横方向への重心移動からの回転運動になります。また、スクワットやデッドリフトなどのウェイトトレーニングは垂直方向の重心移動です。言い方を変えれば、それぞれのパフォーマンスを向上させるには、重心移動のスキルを高めればよいことになります。当然ですが、効率のよい重心移動を身につけることができれば、ケガの予防にもつながります。

 では重心移動のスキルを高めるためにはどうしたらよいのか、さらに具体的なものを紹介していきたいと思います。

ムーブメントスキルを向上させるポイント

 ポイントは4つあります。出力の向上、適切な方向への出力、適切な出力の伝達、適切な力発揮のタイミングの4つです。

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