『スポーツビジョン医科学教本 改訂版』第3章 スポーツの眼外傷


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第3章 スポーツの眼外傷

学校体育的部活動の負傷・疾病

 日本スポーツ振興センター、学校管理下の災害 8)(平成30年度版)の統計数値から、学校体育的部活動における負傷・疾病の部位別比率を算出した。

 その結果、小学校では①上肢部、②下肢部、③顔部の降順となり、中学校・高等学校では①下肢部、②上肢部、③顔部の降順となった(表1)。小学校、中学校、高等学校に共通して顔部の負傷・疾病の発生比率が3番目に高い。

 顔部を眼部と眼部以外に分けて、全負傷・疾病に対する比率を算出すると、眼部は小学校5.2%、中学校6.6%、高等学校4.0%となり、眼部以外は小学校3.9%、中学校4.2%、高等学校6.8%となった(表2)。

 小学校、中学校、高等学校で、学校体育的部活動における眼部の負傷・疾病の発生比率には大きな違いはないが、発生件数に着目すると、①中学校11489件、②高等学校6225件、③小学校372件であり、中学校での眼外傷の発生件数が圧倒的に高い。


表1 体育的部活動の負傷・疾病の部位別比率(平成30年度版)



表2 部活動の眼部と眼部以外の負傷・疾病比率(平成30年度版)


学校体育的部活動の競技別眼外傷

 小学校、中学校、高等学校における体育的活動別、眼部の負傷・疾病の発生件数 8)を記す(表3)。


表3 部活動別、眼部の負傷・疾病の件数(平成30年度版)


スポーツ外傷とスポーツ障害

 スポーツによるケガは「スポーツ外傷」と「スポーツ障害」に大きく分けられる 9)。スポーツ外傷は一度の外力でケガをするもの、スポーツ障害は繰り返しの動作による軽微な負荷が蓄積され、痛みを生じるものをいう 9)。

 小学校、中学校、高等学校における、体育的部活動別、眼部の負傷・疾病の発生件数(表3)は、ほとんどがスポーツ外傷である。

 スポーツ障害は、たとえば野球には、オーバーユース(使い過ぎ)による特有の慢性のスポーツ障害があり、腰では腰椎分離症(ようついぶんりしょう)、椎間板ヘルニア(ついかんばんへるにあ)などがあり、投球数の増加に伴うオーバーユースで、肩や野球肘(やきゅうひじ)の障害を引き起こす可能性が高いと考えられている 10)。

 しかし同じ運動量のチーム全員に、スポーツ障害が生じるわけではない。柔軟性低下、筋力不足、バランス不良といったコンディション不良や競技フォームの不良がある選手に生じやすい 9)。

スポーツ障害の例

▷腰椎分離症 腰椎に生じる疲労骨折で、そのほとんどが成長期に発生する 9)障害のこと。

▷椎間板ヘルニア 腰椎にあって、クッションの役割をする椎間板組織が突出し、腰痛や下肢痛を起こす 9)障害のこと。

▷野球肘(離断性骨軟骨炎) 投球動作の繰り返しの負荷により、骨軟骨損傷をおこした障害 10)のこと。

    10〜15歳の成長期には、肘関節に成長軟骨があり、外側と内側に骨端線(こったんせん)がある。この骨端の関節軟骨は繰り返しの負荷に弱く、成長期に程度を超えた投球を繰り返すと、このスポーツ障害を生じやすい。

体育的部活動 競技別スポーツ外傷

 小学校、中学校、高等学校における、体育的部活動 競技別スポーツ外傷の発生上位3件と眼部外傷の件数を記す。また小学校、中学校、高等学校別で全体総数が100件に満たない場合は削除した。

水泳部(表4)

 小学校の全体総数は、100件に満たない(n=81)ため削除した。中学校は、①手・手指部(19.0%)、②足関節(13.5%)、③足関節(11.5%)で、眼部(4.6%)の順で多かった。高等学校では、①下肢部(47.6%)が半数近くを占めているのが特徴的で、眼部は4.0%だった。


表4 水泳部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


器械体操部(表5)

 小学校は、①足関節(15.8%)、②足指部(14.0%)、③手・手指部(10.5%)、眼部は0.9%だった。中学校は、①足関節(22.5%)、②足指部(13.5%)、③膝部(9.3%)、眼部(4.7%)。高等学校は、①足関節(19.3%)、②腰部(10.7%)、③膝部(10.6%)、眼部(1.4%)の順で多かった。足関節の外傷が多く、眼部外傷は少ない。


表5 器械体操部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


陸上競技部(表6)

 小学校は、①足関節(29.7%)、②膝部(13.2%)、③大腿部・股関節(9.2%)、眼部(1.5%)。中学校は、①足関節(20.7%)、②大腿部・股関節(12.3%)、③膝部(10.2%)、眼部(1.4%)。高等学校は、①足関節(18.4%)、②大腿部・股関節(16.7%)、③腰部(11.3%)、眼部(0.5%)の順で多かった。眼部外傷は、ほとんど発生していない。


表6 陸上競技部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


サッカー・フットサル部(表7)

 小学校は、①足関節(19.6%)、②手・手指部(19.5%)、③前腕部(9.2%)、眼部(6.1)%。中学校は、①足関節(14.5%)、②手・手指部(13.8%)、③前腕部(9.9%)、眼部(3.6%)。高等学校は、①足関節(21.9%)、②膝部(12.2%)、③手・手指部(8.6%)、眼部(2.8%)の順で多かった。足関節が多く、眼部外傷は2.8〜6.1%と少ない。



表7 サッカー・フットサル部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


テニス部(ソフトテニスを含む)(表8)

 小学校の全体総数は、100件に満たない(n=6)のため削除した。中学校は、①眼部(21.0%)、②足関節(17.0%)、③膝部(8.4%)。高等学校は、①足関節(22.5%)、②眼部(13.0%)、③膝部(8.1%)。

 中学校・高等学校で、眼部外傷がとても多く(中学校は①番目、高等学校では②番目)発生している。


表8 テニス部(ソフトテニスを含む)負傷・疾病件数(平成30年度版)


ソフトボール部(表9)

 小学校は、①手・手指部(41.0%)、②眼部(14.6%)、③足関節(8.4%)。中学校は、①手・手指部(33.0%)、②足関節(11.9%)、③眼部(11.0%)。高等学校は、①手・手指部(24.8%)、②足関節(12.8%)、③膝部(8.4%)、眼部(7.7%)の順で多かった。

 手・手指部が最も多いが、眼部外傷も多く(小学校は②番目、中学校は③番目、高等学校は④番目)発生しているのが特徴である。


表9 ソフトボール部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


野球部(軟式を含む)(表10)

 小学校は、①手・手指部(28.0%)、②眼部(25.1%)、③肘部(7.2%)。中学校は、①手・手指部(20.3%)、②眼部(18.1%)、③足関節(9.5%)。高等学校は、①手・手指部(14.8%)、②足関節(8.4%)、③頭部(8.2%)、眼部(7.4%)の順で多かった。

 ボールが眼部に当たった場合、硬式ボールは変形しないので眼窩壁骨折は起こすが、眼球自体には重大な障害を起こさないことが多い 11)。しかし軟式ボールは、衝突時に大きく変形して眼球を圧迫するため 12)、重篤な障害を起こすことがある。


表10 野球部(軟式を含む)負傷・疾病件数(平成30年度版)


ハンドボール部(表11)

 小学校の全体総数は、100件に満たない(n=50)ため削除した。中学校は、①手・手指部(23.3%)、②足関節(21.3%)、③膝部(8.2%)、眼部(4.5%)。高等学校は、①足関節(21.5%)、②手・手指部(16.4%)、③膝部(13.0%)、眼部(3.5%)の順で多かった。

 手・手指部、足関節が多い。眼部外傷は3.5〜4.5%と少ない。


表11 ハンドボール部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


バレーボール部(表12)

 小学校は、①手・手指部(48.9%)、②足関節(21.1%)、③膝部(4.8%)、眼部(3.1%)。中学校は、①手・手指部(23.3%)、②足関節(21.3%)、③膝部(8.2%)、眼部(4.5%)。高等学校は、①足関節(21.5%)、②手・手指部(16.4%)、③膝部(13.0%)、眼部(3.5%)の順で多かった。

 手・手指部、足関節が多い。眼部外傷は3.1〜4.5%と少ない。


表12 バレーボール部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


バスケットボール部(表13)

 小学校は、①手・手指部(48.5%)、②足関節(19.5%)、③手関節(5.2%)、眼部(3.4%)。中学校は、①手・手指部(31.3%)、②足関節(27.7%)、③膝部(8.0%)、眼部(2.8%)。高等学校は、①足関節(30.8%)、②手・手指部(17.3%)、③膝部(13.7%)、眼部(2.8%)。

 手・手指部、足関節が多い。眼部外傷は2.8〜3.4%と少ない。


表13 バスケットボール部の負傷・疾病件数(平成30年度版)



ラグビー部(表14)

 小学校の全体総数は、100件に満たない(n=8)のため削除した。中学校は、①手・手指部(23.6%)、②肩部(11.1%)、③足関節(10.0%)、眼部(3.1%)。高等学校は、①足関節(13.7%)、②手・手指部(13.5%)、③肩部(13.3%)、眼部(3.2%)の順で多かった。

 手・手指部、肩部、足関節に多く、眼部外傷は3.1〜3.2%と少ない。


表14 ラグビー部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


卓球部(表15)

 小学校の全体総数は、100件に満たない(n=34)のため削除した。中学校は、①足関節(18.6%)、②手・手指部(13.1%)、③眼部(9.8%)。高等学校は、①足関節(19.4%)、②手・手指部(12.8%)、③膝部(10.4%)、眼部(3.0%)。

 足関節、手・手指部、足関節が多い。眼部外傷は、中学校では③番目に多く発生しているが、高等学校では少ない(3.0%)。


表15 卓球部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


バドミントン部(表16)

 小学校の全体総数は、100件に満たない(n=63)のため削除した。中学校は、①足関節(29.8%)、②眼部(14.1%)、③膝部(10.4%)。高等学校は、①足関節(34.2%)、②膝部(12.7%)、③眼部(8.3%)。

 中学校・高等学校で、眼部外傷は多く発生している。とくにシャトルのコルク部分は、眼窩に深く陥入する 13)ため、もし運悪く眼に当たると、眼球破裂につながることがある 11)。シャトルコックが眼に当たらないように、とくに注意が必要である。


表16 バドミントン部の負傷・疾病件数(平成30年度版)


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