2.デッドリフトをしてみて得られた感覚 ──トレーニング指導への活用を考える 大塚杏子(月刊トレーニング・ジャーナル2024年2月号、特集/「体幹」とパフォーマンス)


大塚杏子・SUISEN volleyball club S&Cコーチ、CSCS

バレーボールの社会人クラブチームでトレーニング指導を行う大塚氏にインタビュー。自分のトレーニングの一環でデッドリフトを行ったときに得られた感覚についてお聞きしている。

特集目次
https://note.com/asano_masashi/n/n2147fb5d0cbc

トレーニング指導の環境

──現在のお仕事について、お聞かせください。

大塚:はい。現在は仕事としては接骨院に勤務しています。そこではどちらかというとストレングスコーチというよりはセラピストとして旗らている形になります。それ以外の時間で、SUISENというクラブチームのバレーボールチームで、ストレングス&コンディショニングコーチとして関わっています。

──SUISENの練習日程は、何曜日というように決まっているのですか。

大塚:体育館を使う枠が取れ次第、という感じになりますので、基本的には木曜日と土日のどちらかという週に2回の練習です。試合のシーズンになってくると、木曜日のほかに平日にもう1日、そして土日ということで、週に4日、あるいは3日という時期もあります。

──練習日の中で、トレーニングの日というのがあったりしますか

大塚:基本的にはクラブチームということもあり、公共施設の体育館が活動場所でジムがあるわけではありません。なので体育館のフロアでできるようなことしかやっていません。そしてトレーニングに参加する選手も固定化されてきています。「練習に来れたときにトレーニングをやろうよ」と言っていたら、毎回トレーニングをしている人がいるという感じです。

──フロアでできることとなると、トレーニングのウェイトなどもあるわけではないのですね。

大塚:そうですね。選手から個人的に相談があれば、貸しジムに行ったりして確認することもあるのですが、チーム全員でとなると人手が足りないので、できることをやっています。

──そうしますと、しっかりとトレーニング指導できるのは、パーソナル対応のときになるのですね。

大塚:はい。

──フロアでできることとなると、自分の体重を用いたトレーニングになりますか。

大塚:基本はそうなります。それしかできません。その場でできることをやります。これ以外には、プライオメトリックトレーニングや、アジリティのトレーニングをメインにしています。

──工夫のしどころがたくさんありそうです。

大塚:そうですね。時間もそれほどないので、トレーニングの時間を取ることができなかったりすることも多いので、ウォーミングアップの時間にトレーニングを盛り込んだりということもしています。

デッドリフトの経験から

──デッドリフトをしたときのことをお聞かせください。これは自分のトレーニングだったということでよいでしょうか。

大塚:はい。

──デッドリフトはしんどいこともあり、なかなか頻繁に行っていませんでした。1週間ぶりくらいでした。重さは70〜80kgくらいでした。回数は5〜6回です。

──そのとき、身体にどのような感覚が起きたのでしょうか。

大塚:細かい感覚なので、伝わるかどうかわからないのですが、デッドリフトのときに、きちんと腹圧がかかった状態で持ち上げると、お腹もそうですが、背中のほうに空気が入っていくような感覚があります。個人的な感覚としては「臓物(ぞうもつ)が全部上に上がってくる」という感じです。私だけかもしれません。

 70kgや80kgというウェイトを持って、最後にしんどくなってきたときには、下腹部がメキメキ音がするような感じもします。これは内臓が持ち上がるというよりは、逆に押し下げていく感じがあります。部位としては骨盤底のあたりに向かって押し下げている感覚です。

──これは負荷が軽すぎると得られない感覚ですか。

大塚:はい。ある程度の重さが必要です。

──このような感覚が得られたのは最近のことですか。

大塚:私はベルトなどはせずにトレーニングしますが、どこまでいけるのかな、と思ったことが一度ありました。以前の職場のときに、1人でトレーニングをしていて、ワイドスタンスなどいろいろとスタンスを変えながら、デッドリフトも試していました。ワイドだと意外と上がるなということに気がつきました。そのときには重さは80後半から90kgでした。そのとき「気を抜いたらやられる」という感じで、トレーニングしていたら、勝手に入ったという感じです。

──命をかけてやっているのですね。やるか、やられるか、みたいな。

大塚:腹圧をかけているつもりではあったのですが、それでも弱かったんだな、ということはそこで気がつきました。やっているつもりでも、できていなかったんだなと。その重さを持ち上げることができたことで、それに気がついたという部分もあります。

──球技の動きをすることもあるかと思いますが、このような感覚を身につけたあとで、練習の中で身体の動かし方やイメージが変わったりすることはありましたか。

大塚:どうでしょう。ただ、おそらく臀筋を使うということがわかっていなかったな、というのが自分の中であって、腰椎と股関節が意識としてちゃんと分離できていないかなと。腹圧をかけると股関節だけで伸展の動きを出せるようになるというのが、体感としてありました。

──上の腰椎のあたりをしっかりと止めてあるから、股関節のほうが動く感じが出てくるのですね。

大塚:そんな感じですね。

 少し話が広がってしまうのですが、よいでしょうか。私は胸椎、とくに下部胸椎が固くて、それを職場の先輩に相談してみたら、大腿四頭筋が張っているから骨盤が前傾して反り腰になっていて、胸椎が動きにくくなっているのではないか、と言われました。

 確かに、大腿四頭筋のストレッチングをやった後にスクワットをやってみると、臀筋に入っているという感覚がありました。おそらく体幹が弱くて腹圧がかからないで股関節が使えていないから、膝ばかりに頼ってしまっているのではないかと思いました。

 股関節を使えと言われますが、そもそも、体幹を使えないと股関節を使えないのではないかという「説」(せつ)が私の中でできてきました。だからプレーヤーをしていたのが2年前(2022年)の秋くらいまでなので、デッドリフトをやったからプレーがよくなったとは言えないのですが、それでも、バレーボールのプレーではなくても、トレーニング種目のクリーン動作などにつながっているかもしれないと思いました。

──今では、デッドリフトをするときに体幹が抜けている、入っているという感覚がわかるのではないかと思いますが、どうでしょうか。

大塚:おそらくそうだと思います。体幹が抜けていると、持ち上げるときに胸から上のほうがグッと置いていかれる感覚が出ます。なので、「これは全然上がらないやつだ」と締め直して、体幹を固めてから持ち上げます。そうすると上がるのです。


写真1 バレーボール教室で声をかける大塚氏

感覚をトレーニング指導に

──もしかして選手には、言葉で説明していくというよりは、選手にやってみせてわかってもらうタイプの指導をしていますか。

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