選手に反発されたときにどう対応したらよいですか? 森下 茂(月刊トレーニング・ジャーナル2023年12月号、連載 トレーニングコーチが直面する課題 第9回)


森下 茂・School of movement認定マスターコーチ

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 高校生や大学生のトレーニング指導をするようになって23年が経ちますが、これまでに何回も選手から反発されたことがあります。その中でも、とくに強烈に反発されたことを2つお伝えしたいと思います。そのことが今回の問いに対する何らかのヒントを得られるような、そんな気がします。

胸ぐらをつかまれる

 15年以上前、大学ラグビー部でトレーニング指導をしていたときのことです。

 サイドラインから15mラインまでを3往復し、最後は反対側のサイドラインまで走るという持久系トレーニングをやっておりました。何本目か忘れましたが、1人の留学生が最初の3往復を2往復しか走らずに、そのまま反対側のサイドラインに走ろうとしているのに気づいた私は、「〇〇、お前2往復しかしていないだろ、もう走らなくていいから抜けてろ」と声をかけました。

 それでも彼がやめようとしないので、伝わっていないかと思い私は一緒に走りながら、「もう走らなくていいから」と声を大きくし、彼の走るコースに立ちはだかりました。すると彼は何か文句を言いながら止まり、いきなり私の胸ぐらをつかんできました。体格も私よりも遥かに大きい彼に胸ぐらをつかまれた私は、一瞬このまま殴られるかもしれないという恐怖心がありました。それでも私からは絶対に手は出すまい、そして、ここで引いたら自分の今まで大切にしてきたことが吹き飛ぶと思い、胸ぐらをつかまれながらも一歩も引かずに凄んでいる彼の目を睨み返しました。コーチの1人が駆け寄ってくれて彼を引き離したので、私は殴られずにすみましたが、あのままだったら彼にボコボコにされていたかもしれません。ビビりながらも一歩も引かずにいられたのは、私が日頃から選手たちにベストを尽くさないこと以上に、ごまかすことはもっとよくないと伝えていたからにほかなりません。ラグビーの試合では、自分では反則していないと思ったプレーでもレフリーが反則と判断したら相手にペナルティキックが与えられてしまいます。拮抗した試合では、誰かの不用意なペナルティで負けることもあります。だから、反則をしないでプレーし続けることがとても大切になります。そもそもが、人としてもごまかすような選手にはなってもらいたくありませんでした。

「ベストを尽くすけど、ノーペナルティ」は、ある意味で私のトレーニング指導する上での哲学のようなものでした。だから、それまでも、彼以外にもごまかす選手がいたときには、私は何度も怒ったことがあります。そんな彼らのことを考えると、殴られるかもしれないからと、簡単に信念を曲げるわけにはいかなかった、いやその思いがあったから、怖さもありましたが、一歩も引かずにいられたように思います。

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