『スポーツビジョン医科学教本 改訂版』第2章 屈折異常


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第2章 屈折異常

正規の屈折

 眼に入ってきた光は、角膜と水晶体で屈折され網膜で像を結び(焦点)、視神経を通して脳に伝達されて認識する(図17)。


図17 正規の屈折


近視(きんし)

 近視は屈折異常のひとつで、無調整の状態で眼に入る平行光線が網膜より前方で焦点を結ぶ、眼の屈折状態をいう(図18)。

 遠くを見るとき、像がぼやけて見える。


図18 近視の屈折


近視の分類

 近視は、軸性近視と屈折性近視に分類される。

▷軸性近視(じくせいきんし)

 眼の屈折力はほぼ正常だが、眼軸が長く(眼球の奥行が伸びて)網膜より前方で焦点が結ばれる近視を軸性近視という(図19)。


図19 軸性近視の屈折


▷屈折性近視(くっせつせいきんし)

 角膜や水晶体の屈折力が強すぎて、網膜より前方で焦点が結ばれる近視を屈折性近視という。

仮性近視(かせいきんし)

 近くのものを見るとき、毛様体筋が緊張している(図20)。パソコンやスマートフォンの操作などで、近くのものを長時間見続けると毛様体筋の緊張が高まり、その緊張がとれず水晶体に一時的に強い屈折が残ることがある。この近視に似た状態のことを仮性近視という。仮性近視は近視の初期ではなく、毛様体筋の緊張がなくなれば元の視力が戻る。

 近視になる原因には、大きく分けて遺伝要因と環境要因がある。強い近視は遺伝要因が、軽度の近視は環境要因が強いといわれている。


図20 遠近調節と毛様体筋



近視の進行予防

▷正しい姿勢と適度な明るさ 日頃の生活習慣を見直すことで、環境要因を改善することができる。とくに読書やパソコン操作を行うときは、正しい姿勢と適度な明るさが重要になる。

 読書やパソコン操作時の姿勢が悪いと、眼と本やパソコン画面までの距離に左右差が出たり、距離がさらに近くなったりする。

 読書をするときの明るさは300 lx(ルクス)以上が必要で、パソコン操作時のパソコン画面の照度は、100〜500lx程度が望ましい(学校環境衛生基準では、教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は300 lx(ルクス)とする。教室及び黒板の照度は、500lx以上が望ましい。さらにコンピュータを使用する教室の机上の照度は、500〜1000 lx程度が望ましい、と規定されている)。

近視の進行予防

▷近くのものを見る時間を決める 長時間にわたって近くのものを見続けると、毛様体筋の過緊張が起こる。近年急激に普及したスマートフォン(の画面)を長時間見続けるという行為は、近視の進行に影響を与えていると思われがちだが、スマートフォンやパソコンの画面を長時間見続けることが近視の進行に影響するか、明確なエビデンス(根拠)はない。

 しかし毛様体筋の過緊張を防ぐためにも、仮性近視を予防するためにも、スマートフォンやパソコンを使用するときは時間を決めて休憩を入れ、適度に使用することが望ましい。

▷遠くを見る、身体を動かす 遠くの景色や空などを見ることで、近くのものを見続けて緊張した毛様体筋を弛緩させることができる。

▷学童期に適切な矯正を行う 学校の視力検査(370方式)で、眼鏡が必要な視力基準


A:裸眼視力1.0以上に相当

  眼鏡は必要ない

B:裸眼視力0.7以上〜0.9以下に相当

  一般に眼鏡がなくても大丈夫だが、本人の希望・相談も必要

C:裸眼視力0.3以上〜0.7未満に相当

  教室の席を、前にしてもらう必要あり

  席が後ろの場合は、眼鏡があった方がよい

D:裸眼視力0.3未満に相当

  眼鏡が必要


近視の矯正

凹レンズ(おうれんず)

 近視は、光を網膜より前方で焦点を結ぶ。そのため凹レンズの眼鏡やコンタクトレンズを装用すると、眼に入る光を広げるため、網膜上に焦点を結ぶことができるようになる。

手術で屈折異常を矯正する

▷手術による矯正① レーザー屈折矯正手術(レーシック) レーザーで角膜のカーブを変えることで、屈折異常を矯正する手術を、レーザー屈折矯正手術(レーシック)という。

 日本では1999年頃から始まり、手術でもすぐに効果が現れ、矯正効果が高いと評価され、全盛期の2008年には年間45万件もの手術が行われた。しかし商業目的の眼科クリニックや非眼科専門医による不適切な術前検査や手術が相次ぎ、さまざまな問題やトラブル症例が多く発生し、社会問題となった事例がある。

 2013年12月には、消費者庁が「レーシック手術を安易に受けることは避け、リスクの説明を十分受けましょう!──希望した視力を得られないだけでなく、重大な危害が発生したケースもあります」という注意喚起を公表した。その結果、2014年の手術数は年間5万件と、全盛期の9割減となった。日本白内障屈折矯正学会では、適応は18歳以上としている。

 その後日本眼科医会では、「レーシックを受けることをお考えの皆様に──そのレーシックは本当に安全かどうか?」の注意をしている。

・メリット──ある一定の期間、眼鏡やコンタクトレンズから解放される。

・デメリット──50歳過ぎより、やがて老眼鏡が必要な人が出てくる。夜間視力が低下するケース、車のライトが眩しいケースがある。ドライアイが起こることもある。正確な眼圧が測定できなくなるおそれがある。

 上記のようなレーシックのメリット、デメリットを十分理解した上で、レーシックを希望する場合には、必ず日本眼科学会、眼科専門医の診察および手術を受ける必要がある。なおレーシックには、健康保険の適用はない。

▷手術による矯正② 有水晶体眼内レンズ(ICL) 有水晶体眼内レンズは、水晶体を取り除かず水晶体の前に人工レンズを入れる、屈折矯正手術の1つ。

 日本では2003年から始まり、2010年に厚生労働省で認可された。レーシックを行うことができない強度の近視や角膜の厚みが薄い症例への対応も可能で、レンズの摘出、交換による度数の変化に対応することもできる。レンズを摘出すれば、元の視力に戻すこともできる。

 しかし手術を行う眼科医に高度な技術が必要で、レーシックなどに比べると手術費用が高い。またレンズは個人によって異なるため、度数によっては手術までに時間がかかる。レーシックに比べると症例数が少ないなどの課題もある。

その他の矯正

▷オルソケラトロジー 寝ている間に特殊なデザインのコンタクトレンズを装用し、角膜の形状をやや平らにすることで、一時的に視力を回復させる矯正法をオルソケラトロジーという。

 夜寝るときに装用し、朝起床時に外すという、今までのコンタクトレンズとは逆の使い方をする。睡眠時だけの装用なので、眼への負担も少ない。手術と異なり、しばらく装用をやめると元の状態に戻る。年齢が若いほど効果が出やすいという特徴がある。

※オルソケラトロジーは、原則として20歳以上が適応となり、眼の状態により使用できない場合がある。また効果には個人差があるため、事前に眼科専門医によく相談することが必要である。

遠視(えんし)

 遠視は眼の調節機能を休めたとき、眼に入る平行光線が網膜より後方で焦点を結ぶ、眼の屈折異常をいう(図21)。

 遠くのものも近くのものも、はっきり見ることができない。そのため、いつもぼんやりした像を見ていることになる。強度の遠視の場合には3歳児検診などで判明することがあるが、調整力が弱い小児期には視力検査で判明しない場合もある。

 遠視は、近くを見るときだけでなく、遠くをみるときも常に毛様体が緊張し続けているため、眼の疲労につながる。早期の発見と適切な矯正が望まれる。


図21 遠視の屈折


遠視の矯正

▷凸レンズ(とつれんず) 遠視は、光を網膜より後方で焦点を結ぶ。そのため凸レンズの眼鏡やコンタクトレンズを装用すると、眼に入る光を集めるため、網膜上に焦点を結ぶことができるようになる。

乱視(らんし)

 乱視は角膜や水晶体の屈折異常のため、眼に入る光の角度の違いによって、それぞれ違う場所に焦点を結ぶ状態をいう。

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