関係性の質を高めるにはどうしたらよいですか? 森下 茂(月刊トレーニング・ジャーナル2023年8月号、連載 トレーニングコーチが直面する課題 第5回)


森下 茂・School of movement認定マスターコーチ

連載目次
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 この連載の第2回目「チームスポーツに携わる上で大切なことは何ですか?」という問いに対して、選手やスタッフとの関係性の質を高めることが大切だと思う旨を書きました。では、具体的にどうやって関係性の質を高めるのか、残念ながら万人に通用する特効薬はないかと思いますが、私の経験をいくつか紹介したいと思います。

名前を覚える

 今年の2月中旬からストレングス&コンディショニングコーチ(以下S&C)として契約している大学アメリカンフットボール部があります。頻度は週1回のサポートです。選手は70名ほどなのですが、アメフトというのは学生スタッフが沢山おります。トレーナー班、マネージャー班、そしてSA(スチューデントアシスタント)班。SAというのは、試合や練習の分析をするだけでなく、アメフトの技術指導までする、言ってみれば学生コーチになります。スタッフを加えると総勢100名になりますが、まずは彼、彼女たちの名前を覚えようと、まるでテスト前に必死で英単語を覚えるように、電車での移動中、自宅でと、ホームページを見ながら、少しずつ顔と名前を一致した者からメモに書き留めていきました。聞けば3月初旬にトレーニング合宿があるとのことで、それまでに全員覚えるのを目標にし、なんとか合宿中に全員の名前を覚えることができました。合宿では、選手のみならず学生スタッフにも積極的に声をかけるようにしました。

「〇〇さんと△△さん、だよね」と、なかなか接点の少なかったマネージャー班の2人に声をかけると、「えー、覚えてくれたんですか、嬉しい!」「そうなんだよ、合宿中に全員の名前を覚えることにして、ようやく覚えることができたよ」「そうなんですね、凄いですね」。名前を覚えて声をかけただけで、こんなにも嬉しい反応をしてくれるのです。覚えたこちらまで嬉しくなります。

 合宿の目的はフィジカルの向上で、スキル練習は組み込まれておりませんでした。朝、午前、午後と毎回、S&Cのセッションがあるのです。プログラムを考え、実際に選手たちに処方する私の役割はとても重要になります。肉体的にも精神的にも厳しいプログラムもあります。そんなときに、「〇〇、ここからだよ、頑張れ!」と名前を呼んで声をかけられることは、受け手側の選手はもちろんですが、私自身の気持ちがまったく違ってきます。

 また、合宿の目的はフィジカル強化と合わせてもう1つありました。それは、チームビルディングです。今シーズンのチームは、私も含め数名のスタッフが新しく加わり、日本一に向けて大きな変革をしようとしておりました。そんな中、3年ぶりのチーム合宿は、チームの方向性を全員で確認するには最高のシチュエーションだったのです。

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