チームスポーツに携わる上で大切なことは何ですか 森下 茂(月刊トレーニング・ジャーナル2023年5月号、連載 トレーニングコーチが直面する課題 第2回)


森下 茂・School of movement認定マスターコーチ

連載目次
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チームスポーツに携わる上で大切なこと

「チームスポーツに携わる上で大切なことは何ですか」。おそらく人によって様々な答えがある問いですが、20年以上、高校生と大学生のチームスポーツに関わってきた、あくまで私自身の経験を通じて感じていることを書いてみたいと思います。

対スタッフとの関係性の構築

 おそらく組織の中で活動するにあたって一番大切なことは、ほかのスタッフや選手との関係性を構築できるかどうかだと思います。と、書いてはおりますが、それが一番大切だと言えるようになったのは、私もこの10年ほどになります。つまり40歳を少し過ぎてからになります。

 29歳のときに、まったく違う業界から転職してきたこともありますが、最初の10年くらいは、とにかく自分の力量を上げること、知識を増やしていくことが最優先でした。体育系の学校を卒業したわけでもなかったので、解剖学ひとつとっても新鮮で、講習会を受講することが楽しくて仕方ありませんでした。自分の知らなかったことが、少しずつではありますが解明されていく喜びはなんともいえないものがありました。

 そして、今思えば、ほんのちょっとしか知りもしないのに、知った気になって選手たちにアウトプットしておりました。もちろん、選手から信頼されたいとは当時も今も思っておりますし、それは極めて大切なことであります。しかし、選手との関係性の質を上げること以上にスタッフとの関係性の質を上げることが大切なように思います。

成功の循環モデル

 先ほどから関係性の質の向上という話を書いておりますが、改めて、この言葉を整理したいと思います。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「成功の循環モデル」を知ったのは4年ほど前のことです。私の理解している範囲で、簡単にそのことを説明してみたいと思います。

 パフォーマンス(結果)の質を向上するにはどうしたらよいか。多くのコーチは選手の思考の質や行動の質を上げようと考えます。スタッフルームでよくある会話ですが、「あいつは意識が低すぎる、いいものは持っているけれど、あれ以上の選手にはなれるはずがない。まずは、取り組む姿勢を変えないといけない」というものです。しかし、意識の低い選手に、「もっと真剣に練習すればうまくなるから頑張れ」と伝えたところでなかなか選手の行動は変わりません。私もそうですが、多くのコーチは選手の意識を変えるにはどうしたらよいのかを常に試行錯誤していると思います。

 また結果が出ないのは、行動の質に問題があるかもしれないと考えます。たとえば、体脂肪率が高くて試合終盤になると足が止まってしまう選手に、食事制限や有酸素運動を処方するかもしれません。まさに行動そのものを変えるよう促します。この行動の質を変えるにあたり、実はもっとも大切なことが選手との関係性の質があります。信頼関係のない状態で、コーチがどんなに正論を言ったとしても選手は聞く耳を持ってはくれません。

 そこで、ダニエル・キム氏が提唱したのが、まずは関係性の質を向上させることが、思考の質を変え、行動の質を変えることにつながり、そして結果の質を上げることになるという循環モデルになります。


図1 成功の循環モデル

監督が前のめりに

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