選手が主体的に練習に取り組むにはどうしたらよいですか 森下 茂(月刊トレーニング・ジャーナル2023年4月号、連載 トレーニングコーチが直面する課題 第1回)


森下 茂・School of movement認定マスターコーチ

連載目次
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長年の課題

「選手が主体的に練習に取り組むにはどうしたらよいですか」。20年以上、高校生と大学生のサポートをしてきたこともあり、この問いは私としても長年の課題で、今でも試行錯誤しているものになります。そんな、私自身のまさに現在進行中のこの問いに対する考え方や取り組みを書いてみたいと思います。

やらせる限界

 かつてサポートしていた大学の運動部、ウェイトトレーニングの際のウォーミングアップを各自でやるようにすると、9割の選手がほぼやれないというのが現実でした。そのチームでは授業の合間の決められた時間にグループに分かれてウェイトを実施していました。たとえば、11時15分開始のグループがあります。私が2分前にウェイトルームにいくと寝ている選手も何人かいて、ひどいときには、ほぼ全員がゴロゴロしている状態でした。2分後にはウェイトトレーニングが始まり、しかもアップはチームでは実施しないことは周知のことなのですが。当然、最初の種目で100%の力発揮をすることは難しく1種目目がアップになってしまうありさまでした。もちろん、ケガのリスクも高まります。未熟者の私は、時にはドアを開けるなり「お前らいい加減にしろ! 〇〇、なんでお前がいてこの状態なんだよ」と怒鳴り散らしました。流石に私がそう言うと、選手たちも静かになりウェイトの準備を開始するのではありますが、また数日後には同じようなことが起きるという繰り返しでした。

 それはウェイトに限らずスキル練習でも見受けられました。個人練習ができる選手は数えるほどで、チーム練習でもしゃべっているのは、監督とコーチばかりで、選手同士がお互いのプレーの良し悪しをフィードバックすることは稀でした。では、選手たちは日頃から全員大人しいのでしょうか。違います。練習以外の場面では別人のごとく大きな声でやり取りをしております。本当にびっくりするくらい大きな声でワイワイやっております。

 監督が私にこんなことを話したことがあります。「森下さん、あいつらは自分ではできないから、やらせないといけないんです。やらせなければウチはもっと弱くなりますよ」と。監督の気持ちはよくわかりました。ウェイト前のアップも各自でできない現状に、意識が低い選手なら、彼らの意識とは関係なく頑張らざるをえないプログラムを考えたりもしました。つまり、監督も私も選手を信頼していないということです。言い方を変えれば性悪説かもしれません。しかし、それでチームが強くなったのかと言えば、1部リーグの下位が常連で、時には2部に降格したことも何度かありました。なかなかその位置から脱却できなかったのです。ただ、そのおかげで、私はどうしたら選手たちがもっと主体的に練習に取り組むことができるのかを考え続けることになります。

報酬と罰による動機づけからの脱却

 なぜ、選手たちは主体的に練習に取り組むことができないのでしょうか。1つには、コーチに怒られないことが行動の目的になっていることがあるかと思います。まさに冒頭のチームの選手たちです。言い方を変えれば、いわゆるアメとムチ(外発的動機づけ)によって指導することが選手の主体性を奪っているのです。

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