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『暗闇のスキャナー』 作者: フィリップ・K・ディック

ヤバい。ウケる。翻訳一つでまさかハードSFの印象があるディック小説がこんなゲスい作風になるとは! (不適切発言 笑)
だけど、どこからともなく供給されるドラッグ「物質D」がアメリカ中に蔓延している未来社会が舞台で、皆んながラリパッパなので、これでOK。最っ高。

主人公は覆面麻薬捜査官のボブ・アークター。
ヤク中の様なナリで、ヤク中の様な話し方をし、ヤク中仲間の二人と共に、カリフォルニア州オレンジ郡の一軒家で暮らしている。捜査官あるあるとでもいうか、アークターは物質Dの常用者になっていた。
アークターは、複数人の売人から物質Dを買い付けていた。売人が仕入れ金額を賄えないくらいになって、上部とアークターとの直取引を望む様にするために取引量を増やしていっていたが、売人の中でも、ドナ・ホーソンに絞り込んでいた。何故なら調査を始めればしょちゅう会わなければならないし、なによりアークターはドナを自分の女にしたかったからだ。

彼ら覆面捜査官は、表だった場所に出る際にはスクランブル・スーツというものを身につける。このスーツを着ると周囲からはぼやけたもやの様にしか見えなくなり、声まで変わる。正体がバレない様にだが警察署内でも同様で、仲間や上司も皆スクランブル・スーツを着ているので、お互いがもやっている訳だ。
スーツ着用時の彼は、フレッドと名乗った。
或る日、フレッドは盗視聴機(スキャナー)を仕掛けてアークターを監視せよと上司から命令を受ける。情報提供者からのタレコミがあって調べたいと言うのだ。
命令に従うフレッドだかアークターだかだったが、その彼に事件が重なり始める。
そして、やがて彼自身の意識に異常が起こってきた。それは、物質Dによる副作用だった。

英国SF協会賞受賞、ディック後期の傑作と名高い本作は、『スキャナー・ダークリー(A Scanner Darkly)』として、リチャード・リンクレイター監督により2006年にアメリカで映画化された。
主演のキアヌ・リーブスには興味は湧かないが、ウィノナ・ライダーが演じるドナはちょっと観てみたい。
尚、ヤク中たちの言動や妄想などは、アークター同様、ヤク中たちと共同生活をし、麻薬を常用していた頃のディックの体験に基づくのだそうだ。

で、読後感だが、ディック作品としては異例の作品ではないか。訳には関係なく。
ディックお得意の「これは現実か」「何が真実か」といった虚構と現実のせめぎ合いや、形而上学的な展開もない。ましてやスクランブル・スーツの存在を除けば、殆どSF的でもない。
稀有な一作ではあるが、しかし、ディックが自ら評した様に、本書が最大の傑作だということには異存がない。



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