全ての物質には必ず限りがある。私の使っている消しゴムは筆記用具入れから出し入れされるたびに少しずつ、しかし確実にその身体を燃焼させ、やがては砂場の砂の一粒になり消えてしまう。家の電子レンジは冷凍食品を温め続け、時が経つにつれてボタンの接触や出力が悪くなっていき、やがては新品と取って替わりその役目を終える。私の身体は細胞分裂を繰り返しながら細胞ごとの生涯を繰り返し、しかし同時に劣化しながら老い、やがて神経の伝達の終焉とともに動かなくなる。原子は質量に決められたふるまいをしつつ、やがてはそれぞれが離れ離れになって、それらが再び顔を合わせることはできなくなってしまう。
 一人だ。消えるんだ。最初から消える宿命を与えられたさびしいものたちのやわらかい声がきこえる。その声の奥に見える恐怖、叫び、怒り、苦しみは自らの肌に引っ掻き傷を残していた。痛々しい、なんて痛々しい傷。誰にも見せることなく、彼らは消えてゆく。穏やかに、緩やかに、さえずりさえ聞こえてきてしまうくらいの春の陽気に包まれて、暗い路地裏に広がる一面の花畑に手の跡を遺して。


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