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女のメイクを落とすんじゃない

商談帰り、お昼時だったため上司と後輩と3人で吉野屋のマーラー鍋を食べた。
3人とも食べれればなんでも良いというテンションだった。

注文してから3分も経たないうちに配膳。流石吉野屋。
写真のように、見た目はちょっと赤いスープにいつもの牛が浸かってるだけだ。
鍋の下には使い捨ての火元が1人用の鍋を温め続けている。
アクセントの赤唐辛子がキュートだ。

アツアツなのは分かっていたから、慎重に用心して食べた。
そのおかげか舌をやけどすることもなかったが、次の瞬間私はキレた。

「うま辛なんですけど💢」

人間、体内に抱える巨大感情が爆発したときに現れ出るものは「怒り」だとそのまんま小説『怒り』が教えてくれた。
登場人物たちが体験したその怒りを、私はこの小さい鍋に感じている。
不思議な体験だった。
次々と口元に運び込まれる肉と野菜。そして米。
咥内で溶け合い、絶妙なハーモニーを醸し出している。
まるでオーケストラの最終章のような濁流に呑まれ、
しばしば上司と後輩がいるのを忘れがっついた。

そしてふと、自分が汗をかいているのに気づく。

玉汗。

脳が混乱した。
ひとつは上司と後輩がいるのにわき目も振らずがっついた自分の浅ましさに。
もうひとつは玉汗によるメイクの剥落に。

自分が築きあげてきた物が崩壊する音が聞こえる。
しかし手は止まらなかった。

食べ終わった後、男性上司は飄々としていた。
私は密かに誓う。

帰社したら真っ先に化粧室に行くとーーーーー。