見出し画像

【小説】シュレディンガーと夏目漱石の猫

シュレディンガーの猫

ハイゼンベルクの不確定性原理によると、量子状態というのは確立的な性質を持ち、測定をもって状態が決定するそうです。

有名な話で、シュレディンガーの猫という思考実験があります。
1935年に、オーストリアの物理学者シュレディンガーが発表した実験で、原子崩壊をテーマにしています。

箱の中に、猫と、崩壊する可能性50%の原子と、原子の崩壊を検知して電気的に猫を殺す装置をいれて放置します。
この時、原子の状態は「崩壊している状態」と「崩壊していない状態」の両者を重ね合わせたことになり、すなわち猫が「生きている状態」と「死んでいる状態」の両者が同時に存在しているということになります。
これをSuperpositionと言います。

箱を開けるまで猫が生きているか死んでいるか分からず、開けるまでは二つの状態が重なり合っているのであるという主張が出来ます。
(よって、こんなことはあり得ないのだから当時の量子力学は未完成である!というのがシュレディンガーの主張であったそう。)

夏目漱石の猫

夏目漱石の猫、と言えば。
そうです。「吾輩は猫である」ですね。

1905年に夏目漱石によって執筆された長編小説であり、「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」という書きだしはあまりにも有名です。

主人公である「吾輩」は、猫でありながら人間にとても関心を持っています。飼い主である「珍野 苦沙弥」をつぶさに観察することで、風刺的でありながらユーモラスな語り口調で物語を描きます。

人間という存在をある種俯瞰的に観察する本作は、今でも不朽の名作として語り継がれています。

生成AIと猫

ChatGPTを始めとする生成AIが世を席巻し始めてからしばらくが経ちます。生成AIの業務活用や、新しいクリエイティビティへの昇華など、事例を見ない日は無いと言っても良いでしょう。

さて、ChatGPTはTransformerと呼ばれるAIモデルの1つであることが知られています。
重要な特徴のひとつに、不確定性が挙げられるでしょう。
ChatGPTは統計的な計算を生成時に行うことから、同じ入力に対して同じ出力をするとは限りません。

これシュレディンガーの猫の挙動と類似性を帯びます。
プロンプトを入力して送信ボタンを押し、出力を観測しない限り、どんな結果が返ってきているのか分からない、という状態は、複数の出力が重なり合っている状態、とも考えられるということです。


では、それこそシュレディンガーの猫のような作品が作れるのでは?と思いつきました。題材は「吾輩は猫である」にしてみます。

シュレディンガーと夏目漱石の猫

今回は、プロンプトを作品としてご紹介したいと思います。
以下のプロンプトがそれです。

あなたは夏目漱石という小説家です。
以下のストーリーを元に、起こる出来事、登場人物のセリフ、情景・描写、人物の登場タイミングなど自由に創作し、小説として出力して下さい。

出力:
第1話(1/11)
文章

{
  "title": "吾輩は猫である",
  "format": "短編小説",
  "author": "夏目漱石",
  "genre": ["風刺", "喜劇"],
  "text_count": 5000,
  "characters": [
    {"role": "main", "description": "淡灰色の斑入りの雄猫、物語の語り手。三毛子に恋心。"},
    {"name": "三毛子", "description": "二絃琴の御師匠さんの家の雌猫。吾輩を先生と呼ぶ。"},
    {"name": "車屋の黒", "description": "大柄な雄の黒猫、吾輩は彼を恐れる。"},
    {"name": "珍野 苦沙弥", "description": "吾輩の飼い主、文明中学校の英語教師。"},
    {"name": "迷亭", "description": "苦沙弥の友人の美学者、ホラ話が趣味の粋人。"},
    {"name": "水島 寒月", "description": "苦沙弥の元教え子の理学士、苦沙弥を先生とよぶ好男子。"}
  ],
  "setting": {
    "background": "明治時代の日本",
    "beginning": "吾輩は猫である。名前はまだ無い。",
    "style": "古典的な文語体や漢文を効果的に用いる。",
    "progression": {
      "viewpoint": "物語は猫「吾輩」の視点で描かれ、人間の行動を風刺。",
      "scenario": "物語は人間社会の偽善を風刺、吾輩の日常生活を詳細に描写。",
      "theme": "猫が自己の存在を問い、人間社会を観察するテーマ。"
    }
  }
}


このプロンプトをGPT-4に入力することで、「吾輩は猫である」のSuperpositionが可視化されるでしょう。

▼実際に実行した例を載せておきます。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どうも、人間というものは理解に苦しむ。食べ物を探すのに苦労し、体を清潔に保つために努力する。しかし、その一方で、彼らは争いや無意味な競争に疲れ果てている。吾輩のような猫が見ると、彼らの行動はまるで狂気に思える。

そんなある日、吾輩の日常が一変した。新しい仲間が加わったのだ。二絃琴の御師匠さんの家の雌猫、三毛子だ。

「あら、あなた。私を先生と呼ぶのね?」吾輩が驚いて尋ねると、三毛子はニコリと微笑んだ。「だって、あなたは何でも知っているみたいだもの。」

何回実行しても良いし、そのたびに結果が変わります。
なかなか原作っぽい文体は再現できなかったので、ぜひその辺もチャレンジしてみて下さい。

統計的には、きっと同じ出力になるときもあるんでしょうが、ランダム性を楽しむということで。

お遊びでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?