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いい大人、あかん大人


◎いい大人がゲーム

 通勤電車では乗客のほとんどがスマホを覗き込んでいるが、このうちのかなりの割合の人はゲームをしている。わたしの感覚では、ほぼ全員がスマホをイジっているこの光景自体が何となくカッコ悪い気がするのだが(ある年のFRFでMajor Lazerにもdisられてましたし、日本特有なのかなーなんて)、その中でもゲームをしている大人とは、特に、どうも仲良くなれないんじゃないかという気がしてしまう。まして、一緒にいるときにそんなことをされたら相手が誰であれわたしは不快なのだ。
 しかし、ゲームが何故もわたしをかように忌々しい気分にするのか。あれは、小学校1年のとき、優しい叔母が誕生日祝いに初代ファミコンを買ってくれた。喜ぶも束の間、その日のうちに横暴な弟に盗られ、わたしは自由に触ることができなくなった。抗議するわたしに母はこう言った。「あなたよりセンスがありそうだからやらせてあげなよ。」こうして早くからテレビゲームに没頭したことと、彼が現在グラフィックデザイナーの職で妻と子を養っていることは無関係なはずがないのでわたしに感謝して欲しい。母には先見の明があった。
 一方でゲームとのファーストタッチを奪われたわたしは、以来、ゲームに縁がない人生を送っていた。まさかこのときの遺恨があるとは思わないのだが。

◎いい大人がマンガ

 わたし自身が似たようなことを言われたのを思い出した。自暴自棄の女子高生時代、わたしの1番の楽しみは毎週水曜発売の週刊少年ジャンプだった。その日もどうせ遅刻していたので5分も10分も変わりなしと、コンビニに寄ってからジャンプ片手に既に始業している教室に入った。
 「マンガばっかり読んでるとバカになるぞー。最近はいい大人でも電車でマンガ雑誌読んでるけどねー。」
と、地学の柴田先生は言った。わたしは驚き、遅刻した罪も忘れて
「マンガも文学ですが…。」
と小さい声で言い返していた。その何をしても満たされないだるい時期に唯一と言っていいほど、裏切ることなくエンターテインしてくれた週刊少年ジャンプの尊さを、バカなわたしが遅刻しながら持っていたことで汚してしまったというような感覚でもあった。今思えば、いかにも大人が子どもに対して言いそなことだが、ひどく驚いていた。
 そのときは予想だにしなかったが、わたしは40歳のおばさんになった今も少年漫画が大好きだ。あらゆる文化芸術に触れてなお、マンガの魅力に捕らわれている。原泰久先生とつき合っているこじるりが羨ましい。

◎「ゲームなんかやりたいわけじゃなくて、マンガが読みたいんですよ」

 ところがである。最近、スマホでマンガを読むようになったわたしにしばしな突きつけられる選択肢が「フリーメダル(無料)を使って読む」「(有料)コインを購入して読む」、そして「SPメダルをためて無料で読む」というものなのだ。(モロ、マンガBANGではないか。)前述のように40歳の大人なので有料で読むのももちろんよいのだが、むしろ無料の範囲で楽しむのが大人の余裕という気もする。
 この「SPメダルをためる」とは広告案件を選択して成果を達成することにより(無料)SPメダルを取得するというものらしい。(ふむふむ。とりあえずアプリとかインストールして、メダルもらえたらアンインストールすりゃいいのね、おけおけ。)と、安易に手を出した「ロードモバイル」たるゲームアプリ。何と、インストールするだけではメダルは手に入らなかったのである。「アプリインストール後、30日以内に城レベル15到達で256メダル獲得」。ダウンロードボタンのとこには「今すぐ256メダル」って書いておきながら、これだ。ゲームって世界はしばしばこういう”一見さんお断り”的な態度を突き付けてくる。城レベルって何よ、もー。
 だがしかし、256メダルもあれば『新宿スワン』全巻読破できる。背に腹である。
 かくして、嫌々スマホゲームデヴューを果たしたわたしは、今まで訝しげに見てきた通勤電車の乗客たちに見つからぬよう画面を隠すようにして、あるいは「ふたりで居るときはゲームやめろ」と睨みつけてきた男の目を盗んでトイレなどで、着々と城レベルを上げている。今Lv.13である。城レベルを上げることのみが目的ではあるが、城のレベルを上げるには城壁や荘園のレベルも上げる必要があり、建設スピードを向上するためには研究も不可欠だ。ゲーム内のギルドに所属して持ちつ持たれつしたりいるうちに、ゲームの中のクリイティヴに気づいてしまったのである。

 「あ、面白いかも。」

 いやいや、これを認めてしまったら、色々後がマズい。城レベルが15になったら、わたしはローモバをアンインストールして、ゲームとは縁を切るのだ。認めたくない。
 会社で向かいの席の上司に「ゲームやっていないで資料仕上げなさい。」と世にも恥ずかしい注意を受けた際に、つい口を出た言葉は「違っ、ゲームなんかやりたいわけじゃなくて、マンガが読みたいんですよ。」であった。情けないわたしの人生の中でも極めて情けない。果たしてわたしはコイン獲得条件をクリアした後、ゲームからすんなり足を洗えるのか。ムキになるってことは憎からず思っていることと昔から相場が決まっている。

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