Confusion! (part1)

私が通っていた高校の体育祭は、毎年6月だった。

学年の同じ数字のクラスが、1年1組・2年1組・3年1組という風に縦断でまとまってひとつのチームになって、その単位で学年を越えて選手を選んで競い合う、というやり方を取っていた。
準備期間は約一カ月。その間にそれまで接することのなかった男子女子が顔を付き合わせて勝利に向かって活動する。年頃の男女が寄り集まれば、当然生まれてくるのが恋愛感情。一週間もすると誰がカッコイイとか好みとか、そんなひそひそ話が女子の間ではされていた。

そう言う私自身も、同じ担当グループになった先輩に気持ちが動いていた。私は2年、先輩は3年。メガネをかけた細身の人で、穏やかで私たちのような後輩にも優しく接してくれた。いや、他の先輩たちも優しかったけれど、気がついたら彼だけを目で追っていた。

もしかしたら好きになってしまったのかなあ、なんて落ち着かない気持ちになっていた頃、ひょんなことから彼が自分の手に余る女性に思いを寄せてるらしい、ということを知った。彼と同じ3年生。意思の強い才媛らしい。

そうなのか、そうなんだ、そういう人がいるんだ。そういう人が好きなんだ。
生まれかけた恋心が宙に浮いてしまって、どうにも心もとなくなった。

そんな時、ちょっとしたことで少しきつく3年生から注意を受けた。その日は屋上で練習をしていて、ただでさえ滅入っていたのにきつく言われたことがいつも以上に堪え、そっとひとり離れて屋上の隅っこに行った。そこで膝を抱えて座り込んで、顔を埋めた。

そんな私に気がついて、彼が近づいてきてくれた。

「どうしたの」

半分泣きべそかいてた私は答えられない。肩をふるわせてただ顔を埋めてるだけ。

たぶん一部始終を見ていたのだろう。「おーい」と言いながら私の髪をちょっとさわったりしていたが、返事がないのでまた戻っていこうとした。

すると、小雨がぽつぽつと当たり始めた。

「ああ、雨だ」

そう言うと彼は、半袖だった私に何かをふわっとかけて、「元気出せよ」と言って去って行った。
頭を上げると、私の肩には彼のジャージの上着があった。
顔を埋めると、うっすらと土と汗の匂いがした。彼の匂い。もう一度羽織ると、彼に包まれているような気がしてうれしい反面、でもこんなことしてくれても別に好きな人がいるくせに、どういうつもりなの、というとまどいもあった。

ジャージを家に持ち帰り、自分で洗濯機を回して洗って、翌日彼に返した。

「ありがとうございました。洗いましたので」

彼はいつもと変わらない笑顔で「うん」と受け取った。

「元気になった?」「はい…あの」「うん?」「(泣いてたの)わかりました?」
「うん」

それを聞いたとき、ああこれで十分かも、と思った。
体育祭が終わるまであと1週間、そこまでの時間、後輩として接してもらえれば、それで十分。その思い出でしばらく生きていける。そう腹を括った。

だから、体育祭が終わってからあんなことになるなんて、まったく想像していなかったのだった。

(続く)

※このストーリーはフィクションです
※初回公開時のタイトル「体育祭の恋 (前)」を改題しました

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