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家の中で引っ越しをする

私の仕事部屋にはエアコンが無い。狭いスペースなので冬はホットカーペットと小さなファンヒーターで快適に過ごせるのだが、夏は如何ともし難い。というわけで、夏の間は仕事場をリビングに引っ越すのが年中行事となっている。

最初の年は、仕事用のThinkpadを仕事机からダイニングテーブルに移すだけの身軽な引っ越しだった。ダイニングチェアで1日中座り仕事は1週間で腰が悲鳴を上げたので、安いオフィスチェアを買った。仕事部屋のレイアウトが入り組んでいて、部屋から椅子を出すのが面倒だったのだ。

ある年の冬、長年酷使したThinkpadがお亡くなりになったので、パソコンを買い換えた。その時、「画面が大きい方がいいなあ」と思って、ミニタワーのデスクトップPCを買ってしまった。外出時にはMacbook Proを持ち歩いていたので、動かすことは考えなくていいと思ってしまったのだ。夏のことをすっかり忘れた愚挙である。

その結果、翌年の夏は、家の中でもMacbook Proで戦うことになってしまった。性能としては十分なのだが、問題はキーボードだ。曲がりなりにもの書きであるからキータッチの違いが仕事の効率に直結する。Thinkpadのキーボードならいいが、Macbookの薄いキーボードを長時間使い続けるのはちょっと耐え難い。こうして夏の間の荷物に、外付けのキーボードが加わった。数年は気に入ったものが見つからずジプシー生活を送っていたが、HHKBシリーズにキーマップ変更機能がついてMacにも対応できるようになったのでこれに落ち着いた。

2020年4月、新型コロナウィルスのパンデミックによる緊急事態宣言が発令されてからは客先のオフィスに出勤することもなくなり、完全に家に引きこもりの生活となった。オフィスの自席にはアーロンチェアに32インチの外付けモニターが置いてあり、快適に仕事ができた。このモニターと椅子を「使うなら家に運んでもいいよ」とお許しが出たのだ。

早速モニターをタクシーで家に運んだ。椅子の方は土足で歩くオフィスの床をゴロゴロしていたものを自宅に持ち込むのはちょっと抵抗があったのと、そもそも仕事部屋の入り口からデスク前まで椅子を入れるのが面倒だったので遠慮した。やはり画面が大きいは正義である。しかも会社の経費だと思って惜しみなく使った10万円のモニターである。自宅での仕事がずいぶん快適になった。

完全リモートワークが始まると、毎日のようにZoomやTeamsでオンライン会議が行われる。相手によっては会議で顔出し必須となるため、外付けのWebカメラが追加された。Macbookのカメラでは机上配置の関係で横顔しか映らないので外付けが必要だったのだ。さらに、照明のあたりがわるく顔が暗く見えるからと、スタンド型のリングライトも買った。

そして夏が来た。当然だが、外付けモニタのない世界にはもう戻れない。かくして、夏の引っ越し荷物に、32インチのモニタと、オンライン会議のために買ったカメラとライトが加わった。最初はノートパソコン1台持ち運ぶだけだった引っ越しが、ずいぶん大事になってしまった。

そして夏の間はリビングで仕事して、秋が来たと思ったらこの度は自室へ引っ越しだ。秋が来たかどうかは、10月に入って昼間、スカイツリーの見える窓を開けて、暑さを感じず気持ちよく仕事ができるかで判断している。ところが今年はマンションの外壁工事のため、10月まるまる1ヶ月窓をあけることができなかった。おかげで引っ越しも11月にずれ込んだのだが、観測史上最高に暑い夏だったので結局10月中はリビングに居座っていたのかもしれない。

ともあれ、ようやく、行って帰って20回めの、荷物が増えた家庭内引っ越しが終わった。たぶんもうこれ以上荷物は増えないと思う。もうすぐ冬がくる。

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