◎カボチャ畑の夜
夜のカボチャ畑。月が蒼い光を投げかけている。人影が二つ。
「あんたにだまされたわ、ライナス! ハロウィンも終わってもう11月だというのに、あんたの言うカボチャ大王なんてちっとも現れないじゃないのよ」
「人にはそれぞれの事情ってものがあるのを理解しなくちゃだめだよ、サリー。忙しかったんだ。それとも足の骨折っちゃったとかさ。待っていればきっと来てくれるよ」
「人の事情なんてかまっていたらこの厳しい世の中に生きてなんか行かれないわよ。あっ、誰か来る。カボチャ頭のシルエット。大王じゃない?」
「やあ君か、ライナス。それにサリーも」
「やあ、チャーリー・ブラウン。ぼくたちカボチャ大王を待っているんだ」
「ぼくは月を見にきたのさ。9月、10月の名月を人は誉めるけど、11月になったとたんにみんな月のことなどすっかり忘れちゃうんだ。それってあんまりじゃないか。ぼくは、ぼくの変わらぬ想いを伝えたくってね」
「何言っても聞こえっこないわよ、おにいちゃん。月には耳なんかないもの」
「みんな、夜に集まって何してるの。言っときますけどカボチャ大王なんて現れっこないわよ。みんなただの寝言よ」
「やあこんばんわ、ルーシー。君が来るとは思わなかった」
「いつまでもバカ言ってる弟を迎えに来たのよ。早く大人になって世間の荒波に立ち向かいなさい、ライナス。あらっ、あの音は何? 向こうの陰に何かいるわ。ちょっと、こそこそしてないで出て来なさいよ」
「スヌーピーだ。ウッドストックも一緒だ」
「あんたの薄汚い犬ね、チャーリー・ブラウン。それと逆さに飛ぶ変な鳥。夜は見えないはずじゃないの」
(犯人を追ってここまで来たのに、探偵は闇に危険の匂いを嗅いだ。今日のところは引き返そう、ウッドストック。君子危うきに近寄らずさ)
「戻ってこいよ、スヌーピー。たまには、そのー、えー……、無辜の人たちとの会話に参加しちゃどうだい」
(無辜だって? 言葉を間違ってるよ。それは犬にこそ使われるべきものだ)
「うーっ。11月の風は私のような美人の肌には毒だわ。あたし帰るわ、おやすみ」
「待って、ルーシー。あたしも帰る。あたしの肌もこの風を嫌ってるわ。ライナスに付きあって損しちゃった」
「あんなこと言うけど、夢を持ち続けるって大切なことだよ、ライナス。人はどこかでそれを無くしちゃうんだ」
「君の夢はなんだい、チャーリー・ブラウン?」
「えーっと、それは、あのー……いつまでも失くさずいられる夢を持つことかな」
「君のその夢はいつまでも持ち続けられることをぼくが請け合うよ。帰ろうか」
誰もいなくなったカボチャ畑。半月の蒼い光に照らされている。やがて雲が覆って暗転。
ワオーン……。聞こえ来るはスヌーピーの遠吠えか。
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